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【帰りの電車で展覧会寸評!】♯11 静岡市美術館「東海道の美 駿河への旅」

静岡という土地の意味

とても面白い展覧会でした。
いまでも東京〜名古屋間を東海道新幹線を使って行き来するとき、およそ半分の時間は静岡を通過します。それは江戸時代とて同じこと。東海道を通過する際、駿河は最も多くの時間を費やす土地です。
もちろん、京・大阪・江戸の「三都」や名古屋には規模では敵いません。しかしここは紛れもなく交通の要衝であり、文化の交差点だったわけです。そして、徳川家康が拠点を置いた場所でもありました。そうした静岡という地の歴史と文化を垣間見ることができる展示でした。

「描かれた東海道」と「東海道が育んだ美術」

この展覧会は、この二章に分かれている通り、「東海道を描いたもの」と「東海道で描かれたもの」を紹介するものでした。

東海道の宿場を大画面に描いたマッケンジー本「東海道図屏風」や、駿府の往時の繁栄を描いた「駿府城下行列図屏風」、そして富士を描いた作品の数々。これらは「描かれた東海道」です。

一方で、東海道の豊かな文化が生み出した「東海道が育んだ美術」が、一層面白く感じました。例えば、原宿の「植松家」。このお家は円山応挙や池大雅と親交を持ち、多くの作品をパトロネージした有力者で、近世絵画を学ぶ上では必ず知ることになります。この「植松家」をはじめ、藤枝宿の「大塚家」、庵原の「山梨家」など、土地土地に有力者がいて、絵師らと一緒に文化を形作ったことが紹介されており、往時の賑わいが想起されました。

圧巻の原在正

レベルの高い作品が並んでいる中、燦然と輝きを放っていたのが原在正という絵師による「富士山図巻」。
この絵師はかなりマイナーですね。お父さんの原在中はまだ少しは知れているかも知れませんが、その長男にして夭折の天才・在正を知っていたら相当マニアックでしょう。
この「富士山図巻」の特徴は、執拗なまでの細かい書き込みと、奥行きのある空間表現。原さん一家は実際の風景を描いた「実景図」を得意ジャンルの一つとしていましたが、この「富士山図巻」は中でも素晴らしい。ちょっと他の絵師には到達できないレベルです。
会期も残り少ないですが、これを見るために東海道を上る、あるいは下る値打ちはあるでしょう。

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