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【帰りの電車で展覧会寸評!】♯13 府中市美術館「江戸絵画お絵描き教室」

面白おかしく見せるだけでいいわけない

拝見しました。
あまり感情的になっても仕方ありませんが、好意的なことは書けそうにありません。
今回は「お絵描き教室」。必然的に、江戸時代の画家を取り上げ、「これが◯◯の絵の描き方!特徴!」という見せ方になるわけです。そうであれば、より一層、その作品の「判定」には慎重にならなければなりません。ですが並んでいた作品のほとんどは、プロなら誰でもすぐにそうとわかる「●物」。何も知らない一般の方に、これが応挙だ、これが芦雪だ、と思われるのかと思うと、悲しみが込み上げてきました。
府中市美さんの展覧会で真筆とは思えないものが多いことは、今に始まったことではありませんが……。
こんなことは許されるのでしょうか?

構成の迷

公式の説明によると、今回のコンセプトは以下の通り。

本展は「描く」ということに着目した初めての試み。画材や技法の基礎知識から描き方のコツまで、さまざまな側面から江戸絵画の「描く」に迫ります。

それらしくまとめられていますが、展示室に入ると、脈絡もなく絵が並んでいます。その中で、「画材や技法」に着目した解説がなされているのはわずかであり、ほとんどのものは並べられているだけ。コンセプトに沿った説明がなされているわけでもありません。
画材の説明は充実しています。たいそうな「造作」(間仕切りを兼ねた大道具)を使って、また本物の画材や道具を展示して、詳細に解説されています。
しかしこれだけの情報量を、すべて見る人などいるでしょうか?絵も文字も、多すぎるのです。
(キャプションの文字数もてんでばらばらです。)

限られたスペースの中で、鑑賞者の集中力を削ぐことなくコンセプトを伝える。そのためには、情報も作品も、適切に削ぎ落とし、アレンジする努力が必要なのです。それが「キュレーション」なのです。
この展示からはその努力が見られませんでした。

教育普及事業はさすが

とはいえ、府中お得意の普及事業は健在でした。
入り口でもらえるワークシートはもちろん、出口では、ピックアップされたいくつかの作品の「キット」が用意されており、「お絵描き体験」ができます。たとえば、筆ペンを使った若冲の筋目描き体験などは自宅ではなかなかできないものでしょうし、美術史を学ぶ学生にも体験する価値がありそうです。
また、スタンプを使ったメッセージカード作りも、お土産に最適。日本美術の展示では撮影などが制限されがちなだけに、こういうお土産があると、一気に来館者の満足感を高めてくれます。

しかし、教材が間違っていれば、せっかくの教育も成り立ちません。
質の悪い作品で江戸時代の絵画の本質・真髄を濁らせるような企画は、是非とも再考していただきたいものです。

この展覧会を見て素敵だと思う方が多いことはわかっています。その方の感性を、全く否定しません。
ですが、そうであれば尚更、私たちの研究者としての誠意や、学芸員としての努力が否定されている気がするのです。

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