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活動報告!八戸にてイタコさんに口寄せしてもらう。地元の皆さんの体験談も伺い、あの不思議な出来事はなんだったのだろう?と思い出に想像を馳せる「潮来の音」滞在制作の旅

2024年1月14日に八戸市美術館 ギャラリー1にて「潮来の音」第二章 公開プレゼンテーションを行いました。たくさんの地元の方にご来場頂き、とても実りの多いプレゼンテーションを行うことができました。

八戸市のイタコ文化をリサーチして創作
「潮来の音」第二章 公開プレゼンテーション
活動報告

日時:2024年1月14日(日) 14:00-15:00
場所:八戸市美術館 ギャラリー1
作・演出:鍾伯淵(チョン・ポーユアン)(暁劇場・台湾)
舞踏:我妻恵美子(日本)​

「潮来の音」国際合作プロジェクトは台湾・暁劇場(シャインハウス・シアター)主催の作品です。2024年1月9日から17日、暁劇場の演出家である鍾伯淵と、振付として参加している舞踏家の我妻恵美子が八戸で滞在制作を行いイタコの文化を中心にリサーチを重ねました。

亡くなった方の魂を呼び寄せる口寄せを行う「イタコ」は、最近は特に海外の方から注目されています。身近にあると見過ごしてしまうその存在について、ちょっと立ち止まり地元の方と思ったことを交換する機会を持ちたいと考え交流の場を企画しました。ご協力くださいました八戸市美術館の皆さまに心より感謝申し上げます。

暁劇場「潮来の音」第一章 映像資料(2分)

動画を視聴して頂きつつ、レズビアンカップル、飼猫と女、盆栽と男という3つの異なるパートナー間で物語がそれぞれ始まり、孤独な彼らが困難を乗り越え、エピローグで津波が押し寄せるという第一章のあらすじを紹介しました。台湾と日本の国際プロジェクトであることや、海外でも上演していることなどを紹介しました。

「潮来の音」第二章の部分を発表

今回の滞在期間中に創作した「潮来の音」第二章の部分を発表しました。脚本を読み上げたものを録音し、オリジナルの音楽を交えて13分ほどの作品となりました。

第二章は第一章の続編であること、震災の瓦礫に埋もれた猫の飼い主と女の子の会話劇です。発表した後、生きるために迫られる究極の選択、罪の重荷を背負う人間、救いという作品のテーマについて説明しました。

また、舞踏とは何かについても簡単に紹介し、舞踏家とイタコの類似点についても語りました。

台湾の口寄せ文化「觀落陰(グワンローイー)」や「童乩(タンキー)」を紹介

八戸で馴染みが深いイタコさんですが、台湾にも口寄せの文化があります。「觀落陰(グワンローイー)」や「童乩(タンキー)」について簡単に紹介しました。こうした似ているけど違う風習を紹介することで八戸の皆様に興味を持って頂きながら「潮来の音」の舞台上演ができたら良いなと考えています。

觀落陰(グワンローイー)

赤い布で目を隠してお香と呪文と音楽によって黄泉の国に行く道教の秘儀。それぞれの守護神が死後の世界を案内してくれ、亡くなった方と出会ったり、自分の魂の家に行くことができる。

童乩(タンキー)

台湾のシャーマン、霊媒師。ある日突然神に選ばれる。祭りや儀式で神の言葉を伝える役割を果たす。トランス状態に入った童乩 (タンキー)は神刀で自らの体を傷つけて血を流す。人間離れしたその姿から生き神として扱われることもある。

地元の方からイタコさんの経験談やイメージを伺いました

体験した方からのご意見はとても熱量が強く、過去の記憶も鮮明です。

●身近な方が急に亡くなったときに呼んでもらった

●昨年友達が亡くなったので呼んでもらった

●魂を呼び寄せる口寄せではなく、イタコさんが一軒一軒それぞれの家に回って今年1年を占い「◯月◯日に体調を崩すから注意しなさい」という予言がピタリと当たった

●一度そういう霊的なものに頼ったら依存してしまうかもしれないのが怖い

●恐山は興味があるけど、悪い霊も連れて帰りそうで怖い

●聞いたことはあるけど会ったことはない、その機会がない…という方も多かったです。

おばあちゃんの世代では節目節目に会いに行くような生活に近い存在であったものが、次の世代になると滅多に会わないしどこにいるか噂は聞いたことがあるくらいの存在になり、その次の世代になると「イタコ」という名前だけ知っている、というように距離がどんどんと離れていっています。

最年少のイタコ、松田広子さんの体験談

イタコさんは今では90歳以上の方が多くその数も2018年の時点で僅か6名と言われています。

今回の滞在制作期間中、最後のイタコと呼ばれている松田広子さんに亡くなった母を口寄せをして頂きました。松田さんはとても気さくな方で、簡単に活動についての紹介をしたら地元の舞踏家さんのお話や韓国や台湾から来日したダンサーの方のお話をしました。

口寄せが始まるとジャリジャリと数珠をならし独特の節で霊を呼ぶお経が始まります。たくさんのお地蔵様の名前が呼ばれているのが聞き取れました。また、「冥土の土産に何が良かろう、念仏が良かろう」という一節が印象に残りました。お経が終わると母が語りだします。

イタコさんを通して亡くなった母から「見守っているから安心して暮らしてくれ」と言われることが、この不安に満ちた現代を生きる身にとってどんなに心強いことかと感じました。西洋医学や薬での治療とは違う、心の対話を通した癒やしへのアプローチがあると感じました。

母から「今日はありがとう、ありがとう」と伝えたれた後、今度は魂を送り返すお祈りで終わります。

自分がイタコさんに対して抱いていた印象で変化した点があります。何か神とか霊とか荘厳な宗教的なイメージまたは怪しいイメージから、何かもっと身近な、夢で母とお喋りしているような感覚に変わりました。イタコさんに頻繁にお会いできるわけではないからこそ、今、私の方が亡くなった母に呼ばれているのかもしれない…そのようにも思いました。

「潮来の音」国際合作プロジェクト

「潮来の音」国際合作プロジェクトは台湾・暁劇場(シャインハウス・シアター)主催の作品です。今回、暁劇場の演出家である鍾伯淵と、振付として参加している舞踏家の我妻恵美子が八戸で滞在制作を行い、イタコの文化を中心にリサーチを重ねました。

亡くなった方の魂を呼び寄せる口寄せを行う「イタコ」は、最近は特に海外の方から注目されています。身近にあると見過ごしてしまうその存在について、この場でちょっと立ち止まって思ったことを交換する場としたいと考え、八戸市美術館さまのご協力の下プレゼンテーションを行いました。

プロジェクト概要

潮来の音は暁劇場が主催する三部作構成のプロジェクトです。第一章「潮来の音」は、2018年から3年かけて創作を重ね、世界中がコロナ下にあった2020年10月、華山烏梅劇院で初演を行い高い評価を得ました。その後、東亜人民劇場祭、ソウル国際環境演劇祭(韓国)、エディンバラ・フェスティバル・フリンジ(スコットランド)、台東フリンジ・フェスティバル(台湾)に参加し、2023年にはThe ATRIUM劇場(リトアニア)、Ufafabrik(ドイツ)で上演しました。

「潮来の音」は暁劇場の鍾伯淵(チョン・ポーユアン)が演出を行い、日本の舞踏家、我妻恵美子が振付として参加しています。災難に見舞われたときに我々に道しるべを与えてくれるイタコの存在にインスパイアされ、演者の体を媒体として生死の本質を問いかけようと試みています。演出として演劇と舞踏を融合させている点もこの作品の特徴の一つです。

この作品は台湾と日本の文化的な類似も土台となっています。これまでの台湾と日本の経済・文化における友好関係、災害時の相互支援もお互いを身近な友人のように感じる理由の一つですが、その他にも地震が多い国であること、地理的位置や島国という特性など、それらの類似した環境が私達のものの考え方、そして死生観に影響を与えています。

「潮来の音」は台湾と日本の災害における人々のエピソードを調査することで普遍性と価値を見出し、作品を通してこれからの自然環境、人の繋がり、感情と向き合う時間を伝えていきます。

  • 2024年1月、暁劇場と我妻恵美子による青森県八戸市で第二章創作のための滞在制作とプレゼンテーション

  • 2024年8月9~11日、東京にて「潮来の音」第一章の公演

  • 2025年、台湾と日本で「潮来之音」 第2章の上演を目指す

共作のきっかけ

2018年、演出家の鍾伯淵は国芸会「海外芸遊」助成で来日し、舞踏家の我妻恵美子とともに日本三大霊場の一つである恐山を訪れ、また八戸市で現役最高齢のイタコ、中村タケさんを訪問し口寄せを初めて体験しました。目に見えない存在に思いを馳せる、とても特別な体験でした。

この八戸滞在期間中に我妻は3.11東日本大震災の津波により実家のある宮城県亘理町が被災した経験を鍾伯淵へ伝えました。見慣れた風景が破壊されてしまったこと、地元の親戚や友人たちの埋められない喪失感、人々がどのようにして震災後の日々を過ごしているかなど。

震災で突然の失われる日常に直面した私達は、どのようにこの理不尽さと向き合っていくのか大きな問いを突きつけられました。SNSなど便利なコミュニケーションツールが氾濫する中、人々の心や割り切れない感情が現代社会のスピードに取り残されているのも否めません。その無視されてきた感情はふとした瞬間に爆発し、人々を大きな絶望感に陥れます。

日台はどちらも地震の多い島国であるという地理的条件にあります。これらの経験をきっかけとして、人々がいかに災害や大きな傷に立ち向かうか、また信仰が人に与える力について考えるに至り、日台文化の類似点や相違点から「潮来の音」を創作していくこととなりました。

主要メンバー紹介

暁劇場(シャインハウス・シアター Shinehouse theatre)

暁劇場は2006年に設立。台北市の萬華地区で劇場を構え活動している。太陽「暁」をシンボルとし、太陽が世界を照らすように演劇を通して世界を隈なく表現することを目指している。現代の社会問題を独自の詩的な台詞、繊細に振り付けられた動きで描写し、私たちが存在している「今」、「ここ」をシンプルでありながらも観客の心に深く鋭く突き刺す言葉で表現している。現地で国際的なダンスフェスティバルである「Want to Dance Festival(艋舺国際舞蹈節)」を企画。

鍾伯淵(チョン・ポーユアンCHUNG, Po-Yuan)
暁劇場アートディレクター・脚本家・演出家

1985年台湾⽣まれ。台北芸術⼤学演劇学科演出専攻。2006年に暁劇場を設⽴、2008年に修⼠課程を終え卒業。2022年に萬座暁劇場の経営を開始し、アートディレクターを務める。また、毎年4月に行われる国際ダンスフェスティバル”Want to dance festival”のキュレーターでもある。今まで30部以上の創作、演出の実績を重ねており、「アルマゲドン(穢⼟天堂)」「地下の⼥たち(地下⼥⼦)」などの脚本集を発表している。その他、CM・テレビ・映画の出演経験も多数。     

AGAXART(アガックスアート)

2020年舞踏家我妻恵美子により設立。身体、精神、魂の関わり合いを探求し、人々の創造性を高めていくことを目的としている。舞踏の身体操法を主軸に言語化できない内面と向きあい、多様な表現を発掘する場を提供する。国内外でフィールドワークを行いながらワークショップ、公演、イベントの企画制作を行う。主な主催事業として茶の湯と舞踏のコラボレーション「をてらをどりをちゃ」(東京・芸術文化振興助成)、日本舞踏と台湾演劇の共同制作「日日是好日」(2022)(台北・アーツカウンシル東京スタートアップ助成)、北斎漫画舞踏「おどる湯」(2023)(隅田川森羅万象隅に夢アートプロジェクト)など。

我妻恵美子(Emiko Agatsuma)
AGAXART代表・舞踏家・振付家・演出家

1999年早稲田大学文学部を卒業と同時に舞踏集団・大駱駝艦に入艦、麿赤兒に師事。2020年に独立し企画制作を手掛けるAGAXARTを設立。2015年に自らの振付・演出作品「肉のうた」にてパリ日本文化会館(フランス)より招聘、同年に第46回舞踊批評家協会新人賞を受賞。2018年より台湾台北の暁劇場より舞踏指導として招聘。2020年、台北国際芸術村の滞在芸術家として選出、舞踏ソロ作品「Future Temple」を発表し第39回 Battery Dance Festival(ニューヨーク)よりアジア代表として招聘される。

最後に

今回の滞在制作を通して、本やネットの情報だけでは知ることのできない八戸の文化、風土を体感することができました。八戸の外からやってきた私達の目にはその日常がとても興味深く映ります。そして、その思いを作品にして皆さんに見てもらうことで双方向のコミュニケーションが生まれ、八戸の魅力を再発見することに繋がるのではないかと思いました。
 
劇場というクローズドな空間でなく、美術館に来た皆様が「なんだろう?」と興味を持ってふらりと立ち寄ってくださったのも大きな喜びでした。今回は「潮来の音」第二章の一部分のみの制作でしたが、引き続きリサーチと創作を続けます。また八戸市で上演する機会に繋がることができましたら幸いです。

92歳のイタコ、中村タケさんに口寄せをして頂く

発表を終えた次の日、御年92歳のイタコ、中村タケさんにお会いする機会に恵まれました。

蝋燭を灯し口寄せのお経が始まります。タケさんの口から「お願い申し奉ります」と神仏さまに何度も深々と頭を下げる姿がとても印象的でした。私達のためにここまで心を注いでくださっている姿に心打たれました。

終わった後は外も暗くなっていて、私達は部屋の電気を付けましたが帰り間際にタケさんから「電気は消してください、見えないので消してあっても同じですので。この家のどこに何があるのか全部わかってますので」と。目に頼って生活することが多い我々には感じ取れていない世界の現れ方があるのだろうと想像しました。

玄関を出た後、蝋燭の火が心配だったので窓の外からちょっと様子を伺いましたが、誰もいなくなった部屋で再びお祈りが始まった様子で感銘を受けました。タケさんが繋いできたこの世とあの世、そしてお経を捧げ続ける小さな背中がいつまでもここにあって人々の心に明かりを灯して欲しい、そのように思いました。

タケさんは92歳と思えないほど肌艶が良くお元気そうで、とても可愛らしくおしゃべりしていて楽しいです。口寄せではあるけれど、霊魂よりタケさんに会いたくて会いに行く方も多いのではないかと感じました。外は一段と冷え込み寒い日でしたが、とても暖かな気持ちになって帰路につきました。

心より感謝申し上げます。

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一歩づつ前進後退サイドステップで進んでいく。公演活動にご支援頂ければありがたく💝とっても励みになります🕊