仮想直接民主制

インターネット上で直接民主制を実現するには、如何なる方法があるだろうか。

まず、直接民主制であるからには、政策を直接選ぶ必要がある。政策といっても幅広いが、まず一番重要になるものとして、法律になるような政策について考えてみる。現状、内閣あるいは議員が議案を作って議会で審議し、それが可決されれば法律となるという流れであるが、議案は誰でもインターネット上で提案できるようにし、有権者はそれに時期を問わずいつでも賛成あるいは反対票を投じるうことできるようにする。そして賛成から反対を引いた数が有権者総数の半分を超えた時点でそれは法律として成立することになる。議案に対しては誰でも修正案を提出でき、それがその時点での賛成者数の半分、状況によってはもう少し上がった方が良いのかもしれないが、とにかく一定数に達した時点で修正案が本案に反映されることとする。有権者はいつでも意思表示を変更可能なので、修正案に切り替わった時点で賛成を取り下げることも、あるいは反対に切り替えることもできる。そして、すでに成立した法律についても例えば賛成マイナス反対が3割を切ったら廃止される、ということも考えて良いのではないだろうか。そうすれば、既存の法律についても、アプリオリで全員賛成ということにしておいて、自らの意志で賛成取り消し、または反対への切り替えを行う、あるいは修正案を提出するなどして直接投票で変えてゆくことができる。

行政、そして予算執行についてははるかにドラスティックなことになるが、一応一つの考えとして提示してみたい。予算配分については、一人一人が平等に持分を持ち、それを各省庁の省庁別、部局別、個別政策別といった、どの階層まで指定するかは個人の意思表示次第であるが、とにかく各省庁の予算要求項目に対して100等分にして投票できるようにし、その総計で予算が定まるようにする。現状の国政レベルだと、おそらく外交や安全保障といったテーマにはほとんど予算が集まらないことになるので、生活に関わるテーマはなるべく地方レベルにさげ、国政は国でなければできないことしかやらないこととする。例えば、一つの省庁が3割以上の予算を占めるようになったら自動的に地方に下げるというようなことが必要なのではないかと考えられる。

また、行政的なことを本当に行政機関がやらなければならないのか、ということも考える必要があり、行政の予算要求と同列で、個々人が誰でも社会的なテーマについて予算要求を行うことができる、クラウドファンディング的な要素を加えるというのも選択肢ではないかと考える。もちろん、最低限の予算持分投票が入らなければ無効となるようにし、誰にでも予算がどんどん降りてしまう、ということは防がなければならないが、行政の政策について競争原理を作用させるためには必要なのではないだろうか。これは、国政よりもむしろ生活に未着した地方レベルではよりうまく機能しそうで、これによって投票以外にも政治参加への道が開かれることになり、社会への関心は高まることだろう。

司法については、やはり裁判自体は専門の教育を受けた裁判官や検事、弁護士が行うのが相応しいのではないか、と感じ、裁判員のような制度よりも、こちらこそ毎年でも委任選挙のようなことを行い、賛成マイナス反対が5割を切ったら資格停止となるような、間接民主的司法制度が望ましいのではないかと考える。

国に残るであろう大きな役割である外交・安全保障については、安全保障に関しては、国が安全保障共同体であるということを考えれば、当面国の仕事として残ると考えられるが、外交に関してはかなりの部分地方に下ろすことは可能なのではないかと考える。条約、特に経済や社会に関するものについては、地方の例えば50万から100万人くらいの人口規模の地域を想定して、その地域ごとに交渉、批准を行うということにしたほうが、合意形成も滑らかにでき、地域の実情に合った外交交渉も可能になるのではないだろうか。人口が多くなりすぎることは、合意形成の点でスピードを落とすことにもなり、あまり望ましいものではないのではないか。そして、条約についても、批准したら絶対ということではなく、賛成マイナス反対が3割を切ったら離脱する、という付帯条項付きでの締結とし、自由度を確保しておくべきではないだろうか。

通貨についても、国内取引の利便性から国の通貨を廃止するというのは全く現実的ではないが、取引の一部に地域通貨を用いることは、地域経済活性化の観点から積極的に奨励されても良いのではないか、と感じる。それによって、地方の財政独立度も高まり、独自政策が行いやすくなるだろう。それによって、これまで国政に依存していた政策を大きく地方レベルに移すことができるようになるのではないだろうか。

これらのことは、一人1IPを付与などして個人認証が確保されれば、インターネット上で多くが可能になるだろう。そのためにも、個人が自分の個人情報を自ら管理できるようなエッジコンピューティングの仕組みを整える必要があり、さらには義務教育レベルで最低限のデジタルスキルを確保できるようにしてゆくことが求められるだろう。

仮想直接民主主義は、理屈としては実現できそうなレベルに達していると感じるが、現実にはまだまだ超えなければならないハードルがいくつかある。まずは技術的な部分である、デジタル化をいかに進めてゆくか、ということが当面の大きな課題となりそうだ。

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