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【創作小説】見上げれば、碧いそら⑫〈最終回〉

今までのお話はこちらに収められています⬇

「待ってー!里帆」
萌菜は、和装の盛装で、寒い空のもとぱたぱたと走ってきた。
「萌菜、走ると危ないよ」
私は、応える。
「里帆ちゃん、萌菜ちゃん、転ばないようにね。せっかくの成人式なんだから」
私の母がいて、萌菜の父と母親がワンボックスカーの扉の前でスマホを使って市立体育館への1番混まない道を検索している。

そう、今日は私たちの成人式だ。

様々な色の着物に身を包んだ若い女の゙子や袴やスーツを着た男性が、街の所々を彩る。

冬の晴れ間。毎年の風物詩のなかの私たちは今日は、主人公だ。

しばらく走らせたワンボックスカーから、萌菜と私が降り立つと、同い年の新成人でその場は溢れていた。
市立体育館前だ。

大騒ぎで走り回る男子新成人。
その中で、私たちに背後から声を掛ける者が……。

「相川さん! 樋口さん! 」

聞き覚えのある声。振り向くと盛装した市川さんと加藤さんだ!

「うお! うおおおおお! 」

私たちは、何とも言えない声をだす。

「市川さん! 加藤さん! 」

私たちは、思わずハイタッチした。
こぼれる笑顔。
キラキラと思い出される私たちの記憶……。

「なんか、懐かしいわね、何年ぶり? 」
「高校を卒業して以来か」
「今、何してるの? 」

懐かしさに談義が湧く。

私は、嬉しさに、
「今 私はなんとか奨学金を貰って 〇〇大学の教育学部に行ってるの。萌菜はその大学の保育科に行ってるわ」
「ええー? 相川さん、頑張ってたもんね。先生になるのか……。たしか推薦貰って行ったんだよね? 」
と、市川さん。
「萌奈ちゃんと同じ大学なんて、つくづく仲が良いね」
と、加藤さん。

高校に入ってから、なんとなくバレーボールを辞めていた加藤さんは、あの大会からバレーボール部に復活していた。辞めようと思っていたのに、懐かしくなったんだそうだ。

「加藤さんは? 」
「私は☓☓大の体育教育学部。体育の先生になろうと思って」
「やっぱりねー、体育の先生のイメージ、あの頃からあったよ? 」
私たちの話はにぎにぎしく続く。
「あ、市川さんは? 」
市川さんは、一呼吸、そしていたずらっ子っぽくニコッと微笑うと、
「今度、結婚するの! 」
と、いきなり宣言した!!

「(一同)えええーっ!? 」

そんなことを話しながら、私たちの話題はあのバレーボールの大会のことになる。

「あのバレーボール大会のこと、覚えてる? 」
と、萌菜が切り出す。
「うん、まさか、3組の選抜に勝つなんてね」
と、私。
「なんか、必死になってるうちに、相手がミスが多くなって」
「うちら、必死だったから」
「つながっていつの間にか勝ってた」
私たちは、あのときのように もう一度ため息をついた。

「あのとき、勝てるなんて思わなかったけど、なんとかつなげてたら3組に勝てた。嬉しかったよ。あんなに嬉しいことはなかった。みんなで、みんなで、あの3組に勝てたんだ。あのときの3組の顔ったら。途中内輪揉めまで始めちゃって」

加藤さんも市川さんもニコッと微笑う。

「私たちは、学年3位になった。勝ったんだ」
そして、あのとき1番ボロボロになってボールを拾いにいった萌菜が言った。
「苦手があっても、克服できたんだね」
4人にっこりと、

あのとき、諦めずにひたすら向かっていった私たちは、だいじな思い出までが出来ていた。

見上げれば、碧いそらが微笑みかける。私たちは、友だちと、思い出を手に入れた。


              おわり


©2023.12.16.山田えみこ




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