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【創作小説】びば!受験生☆果てなき闘い(1)

今日も、今日とて、僕の、仁義なき、果てなき戦いが続く……。
僕は、将来、大人物になって……総理大臣になって、日本を……いや、世界を巻き込んで救うのだ。
僕のまごうことなき才能を遺憾なしに発揮して、地球温暖化現象、資源問題、少子化および後進国の子供問題、戦争、経済、食糧問題、疫病、異常気象等を全て救うのだ。そうだ! 僕は、できる! だって、この辺の子供のなかじゃ、一番IQが高かったから。

まず、目指す高校は、西日本の頂点、男子高、えぬだ高!
僕の実力なら、中学3年になったこの春からでも十分、えぬだ高は、狙えるはず! いや、通ってみせる! そして、T大か、ハーバード大に進むのだ!!

……と、息巻いて僕は勉強するのだが、なかなか上手くいかない。

あ、紹介し忘れたが、僕は、「田中はじめ」。あの田中角栄元首相とは、縁はないけど。

このところ、新学期が始まってから、毎日僕は、塾が終わっても、無い日でも、一生懸命勉強するのに、「あいつら」が、やってくる。やってくるのだ。

中学に上がってから、ろくすっぽ一緒に遊ばなくなったのに、こんなときに限って、である。

「あーそーぼー! 」

僕は、頭を抱えた。窓の外で、まだ幼さを帯びた声たちがやって来やがった。近所のちびガキどもだ。いや、お子様たちだ。
丁重にお帰りを願わなくては。

「あーそーぼー! 」

階段を僕が駆け降りると、近くの歩道から、これまた、大人びてしまってこの三年間、相手をしてくれなくなっていた高校生たちの声がする。首謀は、公立高校に通う、幼馴染達の頭領、福田すすむだ。

「おーい! はじめ! えぬだ高志望なんだってなー! 」

(なんで、この狭い近辺は、噂がこんなに早いんだ⁉︎  )

「えぬだ高の、文化祭行くかー⁉︎  志望校くらい、行っとかないとな」
すすむは言う。

(えぬだ高の文化祭は、秋のはず、まだ新学期が始まったばかりだ)

「騙されないぞ」

僕は、古い日本家屋の引き戸をガラガラと開ける。

「小生、現在勉強中につきお引き取り願いたい」
「小生? 」

僕は、気がついたら手に夏目漱石の本を抱えていた。
「ぷはは」
すすむ達が、笑う。
「なに、染まってんだよ? 昔から、影響されやすいな」
僕は、冷や汗をかいた。

    ×               ×             ×

僕のじいさんのトモゾウが、庭に面した居間でゆっくりと湯呑みをすすっている。
(ズズズー)
庭のシシオドシの水の量が一杯になり、カツーンといって水を吐く。なんとも、風情のある響きがする。僕は、こんな趣のあるモノが大好きだ。
「はじめ」
僕を、将棋台の前に座らせて、トモゾウは言う。
「なにを、そんなに勉強、勉強、と言っているのだ? 」

トモゾウが、僕は苦手だ。
トモゾウは、僕が小さい頃から暇過ぎるのだ。
なにかと言うと、僕と将棋を指したがる。
僕は、天才なので、小学二年の段階で、将棋二級のトモゾウを破り、トモゾウは、僕を奨励会へ入れようとした。

僕は、目をキラキラさせて田中角栄元首相の本ばかり読んでいるので、トモゾウは自分の野望の危機を感じ、本棚の角栄の本をごっそり処分し、将棋のノウハウ本や羽生名人のインタビュー本に変えてしまった。

僕が、反抗し、トモゾウと口をきかないでいると、三日間でギブアップして元に戻したが。

僕の部屋には、角栄のポスターが、貼ってあるが、かつては、名を馳せた羽生名人、今では並ぶものの無い藤井聡太棋聖のポスターが、それに負けじとべたべたと貼ってある。
トモゾウのせつない(だろう)願望のナセル技だった。
僕が、角栄元首相へ憧れているのを知りながら、将棋の道へと矯正しようとしていたのだ。
「なんだい、角栄なんて、○○○(自主規制の為、伏せてあります)じゃないかっ! 」
と言うのが、いつものトモゾウのセリフだったが。トモゾウは、権力が大嫌いだ。

しかし、田中元首相は、胆力がある。
小学校しか出てないのに日本のトップに駆け上がり、「オヤジ」と呼ばれ、尊敬され慕われ、中国との国交を回復させ、数々の道路工事を導入し、日本経済の回復を担った人だ。

と、言うのはトモゾウに聞いた。

トモゾウには、僕は将棋より前に、田中角栄の偉業を吹き込まれていた。権力が嫌いなトモゾウは、たまたまそういう総理大臣がいた、とだけ言ったのだが、その滑らした口を僕はしっかりと聞き逃さず、コンビニで買った角栄に関する特集本を読み漁り、心酔してしまったのだ。小学一年の身で。

それ以来、僕の将来の道は照準が合っていた。

そのトモゾウも、夜になり、近所のガキ……お子様と高校生の……先輩達の大合唱が収まると、階下から猫のようなゴロゴロ声で僕を呼ふのだ。

「はじめちゃ〜ん、将棋しましょっ! 」
と、キモい声で。

今日も、僕は集中して五科目、四十五分ずつしか勉強できず、一日を終える。
畜生! これでは、えぬだ高受験のライバル達に追い越されてしまう! いや、追い付けないぞ!!

春の霞の掛かる月夜の、僕のアンニュイで熱血な季節の記録……


            つづく



©2024.7.8.山田えみこ


トップ画像は、メイプル楓さんの
  「みんなのフォトギャラリー」より、
   お世話になっております🍀

*シナリオ挑戦の傍ら息抜きで書いていたものが一話出来てしまったので、出してしまいました。





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