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【読み切りハートウォーミングサスペンスドラマ】ころされた山田えみこーPartⅡ⭐

前編、こちら⬇


前回、サスペンスドラマで私、山田えみこは滅多刺しにされて殺された。


そしてまた、死んだ。いっかい死んだのに。

またnote湾岸七曲署から、二人の刑事が現れた。

以前のトレンチコートともう一人である。

「器用な人ですねぇ。また、滅多刺しにされて死んでいる」
「珍しいよ。二回も惨殺されるのは」 
「いや、死ねること自体フツーは、二回は有り得ないですから」

トレンチコートと、警官は呆れて死体の傍で話してる。白い手袋をしてシュンショウに手を合わすと、
死体に何本も包丁が刺さっているのを確認する。

「ああ、出刃包丁に、柳刃包丁、刺身包丁……包丁のオンパレードだね……」
「なんで、多種類で刺してるんだい? 包丁の展覧会? 」
それぞれ首をひねる警官たち。

「ちょっとした猟奇殺人も視野に入れようか……」
メモする警官。

と、頭のカチューシャに目を止めるトレンチコート。

「この猫耳のカチューシャは? 」
「ガイシャの趣味らしいです」
「はい、ガイシャは、猫耳のカチューシャが趣味……」
と、メモを書きながら、
「あ、前も被っていたかね?」
「いいえ? けど、このガイシャでは有名です。家では猫耳を被っていると。変な事件です」
「ああ、そこはかとなく変だ。変死体だけに」

トレンチコートは、傍らのなにかを見つけると、しゃがんでアスファルトを指でつつく。

「なんか、あるな」
指ですくうとクンクン。
「なんとなく、魚の匂いが……」

近くから、すとすとすとと、柔らかい音がして、野良猫がしっぽを振り立ててやってくる、それもとっても沢山。複数だ。目はすっごく眼力があってこちらを凝視して疾走ってくる!

「おっ……! 」

と、一瞬恐怖を覚えて立ち上がるトレンチコート。
「にぁー!! 」
猫は突進してくる。
トレンチコートは、指のなんたるか、なにがしかに気がついて慌ててハンカチで拭いて捨てる!
猫は、それに目がけてダイブしてくる。

「にゃー!! 」

「ちゅーるちゅーるちゃおちゅーる♪ 」

警官は、歌う。
「なんだ? 警官くん、これは、『ちゅーる』かい? 」
「はい、そうですね。この飛びつき方は間違いないです」
「マタタビでは? 」
「もっと、ゴロゴロします! 私の猫と同じ反応ですから! 」
「そか」

「なんとも、奇妙な事件だ。なにがいったいあったんだ」

すると、やおら猫耳のカチューシャが震える。
「ふはあ……」
と、そこにいた死体が動き出すと、山田えみこが生き返った!!
「うおおおおー!! 」
警官たちは、少なからぬ衝撃を受けてぴょん! と、飛び退いた。

多数の包丁をぶっ刺したまま、猫耳カチューシャのぷっくりシニアのおばさんが歩き出すと、

「猫に餌をやらなくては! これは私のぜったいの義務だ! 」

そして、二人の警官と「KEEP OUT」で、仕切られた、周辺の大騒ぎに目を止める。

「こ、これは……? 」
「ああ、あなたはたった今まで、バラエティに富んだ包丁で滅多刺しにされて死んでたんですよ」
「ああ、またか……」
山田えみこは、頭を搔く。
「猫さんたちの妖力でまたしても生き返らせて頂いた。ありがたい」

自分に刺された包丁たちを見つめて、一本一本抜き去って、肩から掛けたポシェットの中からドラゴンボールをななつ取ってお祈りする。

宙から出てきた龍は、何も言わずにその場を一瞬で理解して、「はは……またか」と微笑んでうなずき、
えみこのいわゆる瀕死の残りの傷を治して、猫餌をたくさんそこに置いて、宙にあがっていく……。

魔法ですっかり傷も塞がり、生き返ったえみこは、有り難そうに、天を仰いで両手を合わし、

「相変わらず、理解の早いお方……。ツーカーの夫婦みたいで、サンタさんみたいだから、爬虫類でなければとっくに結婚してるのに」

と、呟き、何故か世界に飛び散らないドラゴンボールを回収する。

「……そう言うことか」
納得するトレンチコートたち……。

「できれば、あなたは重婚になるので、ドラゴンとの結婚はやめて欲しいのですが、うーん、猫を餌で呼び寄せて、その妖力と、餌をやらなければならない義務感で目を覚ます……」

真面目そうな警官は眉間をつまんで分析し、メモを続ける。

「……ドラゴンボールで仕上げですか。……ところで、何故、あなたは滅多刺しに殺されたのです? 」

「ああ、これですか? 」

「はい」

「居酒屋で無銭飲食したんですよ。二十年くらい。で、何回もキレるんです、あの店長。気が短いですねー。ヒドイと思いませんか? 」

「ヒドイのは、あなたですよ!!(大合唱)」
「そう、二十年間は、尋常じゃない! 」(他のふつうの警察官)

「そう? 」

「はい、無銭飲食はいけません! ねっ!? 」

(にぁーお)
と、猫は大合唱をした。

「うーん、……じゃあ、今度は払うか。あの店長、融通が効かないんだよなあ、二十年くらい待っても……。アマゾンポイントも使えないし」

「普通は待てません!! できれば、キャッシュで!!」(大合唱)
「そう! 最近は、電子マネーもイケますよ!? PayPayなども、ポイントが貯まってお得です!! 」

と、なぜか、政府のように宣伝され、
「はい……」
と、えみこは頭を搔いた。(これを書いてる横で寝ている主人も「はい」と答えた……)


            完


©2024.4.27.山田えみこ




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