見出し画像

【小説づくり習作】少年ハードボイルド「最後の時に…」2〜そして転身〜

 前作まで、


 和成は、どこかウラブレた商店街の横道から また裏道に入って、バラック小屋の平屋 建てに案内された。
「ここだ」
(克己)は、また 日に焼けた顔に白い歯を覗かせて、ニッコリ微笑う。
「ここの爺さんは、拳銃の傷も治してくれる。勿論、口も固いから安心しな」
 克己は、変わらず深くは訊かない。
 それでも なかなか開かない「玄関」の戸を開けて、「爺さ〜ん」と、呼び掛ける…

 中から、出てきた老人に治療してもらった和成は、お礼がわりに説明を始めた………。


 「僕は、五代和成。五代グループ総帥の長男だ」
「え!?」
「昨夜、おやじが一家皆殺しにしてしまった。母さんも、妹も、おやじに殺された…おやじは、僕たちが邪魔になったんだ…」
 和成は、話し始めた。「おやじ」は、実は、今 浮気をしていて、愛人と結婚しようとしている、というものだった。勝手な理由だった。
「捨てるように、母さんも妹も殺された…」
和成は、半ば放心状態で呟くように言った。


「………そうか」
「おやじの五代グループは、裏でヤクザとも絡んでる、厄介だ。僕を付き出してもいいんだぜ?どうせ、ロクなことにはならない……」
「いや………」
克己は、即答した。
「復讐してやろうぜ」
「へ……?」
「"殺し"をやってみないかい……?実は、俺は、『殺し屋』なんだ……おしえてやるよ」
「は……?」
即答できずにいると…
「なんなら、俺を雇わないか?代わりに殺っても報酬は要らないぜ…!」
「は……?」
和成は、まじめに考え込んでしまった。それから答える。

「いや………、有り難いけど……」
克己たちは、ただ聞いていた。
「いま、遭った君たちを直ぐには信用できない。お世話になって申し訳ないけど、これで僕はここを出ます…!」
「………!和成!?」
和成は、バラック小屋の扉を開けて、外に飛び出た。克己は、それを追った…………
「おい…!待て!」
夕方になっていた。
 くぐもった煮物の匂いのする裏路地からは、もう和成の姿は見えないーーー。
「その身体じゃ、今 動くのは無理だ……!」
克己の声は、エコーする………

「克己。『去るもの追わず』だ………」
 爺さん医者は、首を振った。

「なんか、気に入ったな俺、あいつ……」
追うのをやめながらも、克己は言った。

「縁があれば、逢えるだろう…」

 爺さん医者は、出がらした茶を煎れながら、事もなげに言う……


               つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?