【創作童話】わが家に幼児がやってきたーリターンズー(年末スペシャル)
わが家には、いつの間にか いついた幼児がいる。
「杏(あんず)ちゃん」と言って3歳児である。
杏ちゃんは、大のぱぱっ子で、日夜 杏ちゃん用に用意された抱き枕にしがみ付き「ぱぱ〜、ぱぱ〜」と、黄色い奇声をあげて じゃれついている。
抱き枕と杏ちゃんのツインテールが、居間のソファの向こうで揺れている。
あ、説明しなければならないのだが、この子はれっきとしたこの家に生まれた女の子で、イヌでも、もらいっ子でもないのですよ? (じゃれついてはいるけれど)。しかし、よだれで抱き枕はべとべとで、ままさんは、泣く泣く抱き枕を洗う重労働に従事する。
洗うのは結構大変だ。よだれとシミで大変だ。そして、杏ちゃんの大のお気に入りの「ぱぱの化身」、抱き枕を取り上げることは、いつも大騒動になるのだ。取り上げようとすると、ギャン泣きされて、とてもじゃないが、手がつけられない。
けっこう杏ちゃんにとっては、大事な抱き枕を取られることは「拷問」に近いのだ。だからなのだが、ままさんは、杏ちゃんが保育園に行っている間に洗濯する。せっせ、せっせと洗濯する。
今日は、今年の大晦日。珍しく、杏ちゃんは抱き枕にはお構いなしで、テレビの前で釘付けになっていた。
テレビ画面には、ちょっと前、10年くらい前の「箱根駅伝」の映像が。そこには、若き日のぱぱさん、(檸檬くん)が写ってた。大写しに箱根の道を走っている。
ぱぱさんは、箱根駅伝の選手だった。若くて颯爽として、悪いが今よりかっこいい。
今は ぱぱさんは、普段はリビングで ジャージを来て 鼻提灯でオヘソを出して ゴロゴロしている。
杏ちゃんは、言わずもがなで、目をきらきらと はーと型にしてテレビ画面を見入ってた。これは、あかん。ホレている。
「あ、杏……」
まま(苺ちゃん)は心配になって杏ちゃんに声をかけた。杏ちゃんはなにかトンデモナイことを言い出すに違いない。
たとえば……
「わたちの王子さまを見つけたわ! 」
「そう、そのセリフ! 」
と、うなずきかけて ままは杏ちゃんをハッと見る。見れば、テレビにかじりついている。
(やばい)
ままは、なんとかテレビから引き離そうとして、「すみっ◯ぐらし」のぬいぐるみを手にとってふりふりする。
杏ちゃん、無視……。
今度は、負けじとままさんは、「ステ◯ッチ」のぬいぐるみ。
無視……。
「キティ◯ゃん」
無視……。
やばい、テレビが、だんだん杏ちゃんのよだれでビトビトになっていく……。やめて! それは、電化製品!
そこで、ままさんは、奥の手、エプロンの中からなにやらを取り出した!
必殺!! ビスコだ!!
「杏ちゃん! ビスコよ! 」
ほんとは、この技を使いたくはない。もらいグセが付くし、あまり遣り過ぎると太ってしまう。杏ちゃんが、わざと悪さをして貰うように仕向けてしまうかもしれない。けど、今は……
なんとか、テレビから引き離し、ままは ぱぱさんのDVDを取り出した。
杏ちゃんは、まだ気が付かない。
ビスコを食べ終えたとき、
杏ちゃんは、テレビの画面を見ると不思議そうな顔をした。
さっきの「王子さま」が写っていない。
杏ちゃんは、テレビの裏側を見ると、しばらくして諦めた。諦めの良いよゐこである。
☓ ☓ ☓
「おーい! だだいま! 杏! 苺! 」
「わーい!! ぱぱー! 」
杏ちゃんは、ぱたぱたとぱぱのもとへ走りゆく。
「今日は、いい子にしていたかい? 」
ぱぱは、杏ちゃんのところにひざまずき、
「今日も、ここに『ちゅー』と、して」
と、ほっぺたを差し出す。
「いや、わたち だいじなものを捧げる人、きめたの! ぱぱににてるけど、ぱぱよりかわいいのよ! 」
「は!?(ぱぱ、まま同時)」
「テレビに、写ってたのよ? 道路で かけっこしてたの、かわいいの」
まま、苦笑。
「ほれる人は、私と一緒なのよね。……しかし、だいじなもの? ……はぁ? 」(苺・笑談)
おわり
トップ画像は、メイプル楓さんの
「みんなのフォトギャラリー」より🍀
お世話になっております♥✨
良いお年をお迎えくださいませ🎍♥
©2023.12.31.山田えみこ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?