人々を守り続けてきた集落


今朝、起きて一番に、スマホの電源を入れて起動させたら、今まで聞いたことがないサイレン音が大きく鳴り響いた。

ビックリして画面を見たら「特別警報・発令」という表示。

なんと、特別警報が出されていた。

この時点で、朝の6時半。

雨は酷く降っているけど、Yahoo!のお天気情報で調べると、朝の8時半頃には雨のピークを過ぎ、10時頃には完全に止むとのこと・・・。

慌てて、2階へ上がり、部屋の窓から裏の河川を覗く。

いつもなら見えないはずの川の水位が確認できる。堤防の向こう側の上部から下3メートルの地点に、川水の表面が見えた。茶色い水が轟々と激しく流れている。木の根っこのようもの、倒木の欠片のようなもの、いろんなものが激流に飲み込まれていて、すごい勢いで下流へと流されていた。

こんな時は、川に近づいちゃいけない。

市民全員に避難指示が出されていたけど、雨が止み、水位が下がってきたので、私は家に留まった。

私が住んでいる町は被害はなく、お陰様で無事だけど、同じ市内でも南部の方、東部の方が甚大な被害を受けていた。

また更に、同じ飛騨地方でも南部の下呂市が大変なことになっていて、今も川は決壊しているらしい。しかも、生活道路として地元の命綱であった国道41号線が崩落。

https://www.chunichi.co.jp/article/85673

私は大丈夫だったけど、大丈夫じゃない人がたくさんいる。

それを思うと、雨が止んだからと言って、手放しには喜べない。

◇◇◇

飛騨地方は山国で、山の中にたくさんの小さな集落がある。

都会の人は「こんな山奥に住んでいて、災害が起きやすいんじゃないか?」と心配になるらしい。

特に、川沿いの谷にある集落は、雨が降ると土砂崩れが起きるんじゃないか・・・とハラハラする。

以前の私も、実は「山間の谷の集落に住むなんて、すごく危険なのではないかな?」と思っていた。

ところが、山間部の小規模僻地校で働いていたとき、地元の人から、

「実は、昔からある集落の方が安全なんです。無理して避難所に行くより、自分の集落にいる方が危険がなく安心なんですよ。」

と教えてもらったことがあった。

というのも、昔の人たちが「ここに住む」と決めて定住した場所は、昔の人々が、本能的かつ動物的な直感により「ここなら安全だ」と判断して確信した土地だからだ。先祖が見つけてくれた土地は、今現在まで脈々と受け継がれ、人々が住み続けている。そういう謂われのある場所だから、今まで大きな災害はなく、山の暮らしを静かに営めたのだ。

つまり「選ばれた土地」ということだ。

昔の人は、不思議なもので、天然の危機管理能力で「地盤がしっかりしている場所」「豪雨でも水が溢れない場所」「崖崩れの心配がない場所」を嗅ぎ分け、よく知っていた。そうした安全な場所にムラを作り、そこに定住した。

それが、今、各地域にある小さな集落・・・という訳だ。

だから、下手に谷を下りて役場近くの避難所に行くより、集落のなかにいた方が安全だという。

ちなみに、ここでいう「昔」というのは、数十年単位のものではなく、何百年、数千年前の「昔」である。

人々の心が純真で、自然の神々と最も近かった頃の、かなり古い時代の話だ。

ふと、山間の深い谷の集落に、雨がザーザーと降る風景を想像する。雨は自然の恵みだ。たくさん降る雨を、その土地はしっかりと受け止め、「大地の恵み」に替えていく。雨水は大地にしみ込み、やがて大地から染み出た水は源流となって流れ出し、沿岸を潤す清流となる。清流に魚が住み、山の実りが豊かに生り、人々は自然と共に暮らす。

ああ、なんとありがたい。

そういう場所を、私たちの祖先は見つけてくれたのだ。

◇◇◇

話を戻そう。

確か、この僻地校に居た時にも、大雨が降ったことがあった。雨量規制で道路が通行止めになったことがあり、道路の陥没や崩落が心配された。かなり心配したけど、やはり生徒達が住む各集落は、言われたとおりで何事もなく無事だった。

この時、生徒達には「集落から出ないように」と学校から連絡がなされた。集落は安全でも、集落と集落を繋ぐ道路が雨によって崩れる危険がある。だから「とにかく動かないように、街へ行かないように、自宅にいなさい」と通達したのだった。

昔の人の目には狂いがなかった。本当に確かだ・・・。

「その土地の先人の言い伝えは、ちゃんと聞くべし。」

それを身をもって学んだ体験だった。

◇◇◇

そう、本当ならば「安全な場所」のはず・・・だった。

ところが、地球温暖化で天候が狂い、日本各地でゲリラ豪雨が降るようになった。私が住む地方も。こんな降り方は、夏の夕立以外、見たことがない。

そして、今現在もそうだ・・・。

以前は、前線が発生して停滞しても、怖くなかった。その間は「絨毯爆弾」のようにまんべんなく雨が降る。しかし、ひととおり雨を降らすと、前線はまた他方へ流れていき、やがて雨が止む・・・。そこには自然独特のリズムがあった。

しかし今は、突然、ゲリラ的に発生した雨雲で猛烈な雨が降る。急な集中豪雨に襲われ、一気に降水量が上がり、川の水位も上がる。突然なので、予測も準備もできない。谷の渓流も、雨量と雨の力に耐えきれない。こうして、本物のゲリラのごとく大雨が突如現れ、降ったりやんだりを繰り返すので、固かった地盤も緩む。道や山が崩れる。

こうして、昔の人々が見つけてくれた「安全な場所」は、今や安全ではなくなり、今までの常識や定説が全く通用しなくなった。

「安全な所など、どこにもない」

というのが、今の気象だ。

「ここは安全だ」と先祖から言われてきた土地が、きっとここだけでなく、全国にも多数あったと思う。

日本の各地に、人々の命と暮らしを守ってくれる集落があった。

でも、その神話が壊れかかっている。

「大丈夫」と過信していないか・・・。

「先祖代々」という言葉に頼り切っていないか・・・。

現実から目を背けていないか・・・。

今目の前で起きていることを、しっかり直視しているか・・・。

先祖から代々受け継ぎ、守り続けてきた「安全」の御守りは、効力を失ったのかもしれない。

いろいろなものが、今、私たちに突きつけられている。

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