見出し画像

バイオ系ベンチャーのCEOと話してエコシステム醸成の鍵について考えた


バイオ系のスタートアップエコシステムを加速させるために、日本においてどのような仕組みを作るのが良いのか
バイオはデジタル系と違って設備や研究費用がより必要とされる分野だ。実際のベンチャーの事例を知ることでそこから見えてくる動機や課題を洗い出しだしてみたい。
今回バイオ系スタートアップ(A社)のCEO(Y氏)から創業経緯や課題点と思われる部分など含めお話をお聴かせていただいた。

創業プロセス

A社は2017年2月創業。創業のきっかけは大学(X大学)の研究室からのシーズから始まった。大学で取得した特許を事業に応用できないかというのがきっかけ。事業化するプランが見えないため、X大学の研究室の助教(Z氏)が、昔一緒に働いていたY氏に声を掛けたらしい。Y氏はバックボーンが分子生物学系だったが、コンサル会社を経験を積んだ後、自身で会社を立ち上げており、当時創業して10年ほど経っていた。
Y氏にとってはZ氏は研究室時代、遅くまで一緒に実験をした切磋琢磨した後輩。手伝ってもらえないかということで、NEDOのピッチコンテストに出したところ、最優秀賞を受賞し、研究補助金を3500万ほど調達した。
意外なところで大きなお金が入り、2017年2月に法人化。追加で資金調達を行なっている際に、投資家から誰もコミットしていない現状で調達するのは難しいという話を受けた。Z氏は大学で研究を続けたいという意向があったため、Y氏がフルコミットすることになり、その当時の会社を事業し継承させ、現A社にコミットすることになった。

事業について

研究支援事業を基盤とした事業。既存の事業の拡大を図りつつ今後新しい研究開発の事業を伸ばしていくという2本立て計画。研究支援事業は安定的な収益を見いだすことが期待できるため、この分野で売上を伸ばしていくことは必須と言える。ただし既存の研究支援事業ではこの先もインパクトのある数字が見込めないと予想されたため、海外のマーケット展開も視野に入れている。5年後くらいには研究支援事業の半分を海外にしていきたいという。
一方、研究開発はこれから共同研究を進めていく段階。マーケットとしても新規のため、実現には未知数なところが伴うが、爆発的には伸びる可能性のある市場。次の投資(シリーズA)も主にこの研究開発の部分の期待から投資を受けているという。

資金調達について

研究助成金を皮切りに、次のシリーズに関しては、リードVC以外に、地域の銀行などがいくつか投資をしている。銀行は融資ではなく投資なのが意外だったが、地銀としても地域で頑張っている企業を応援することで、地方に新産業をもたらして地域としての魅力自体を高めていくという視点に移動しているのは感じさせられる。

組織について

十数名が地方で大学の方で基盤となる研究支援を行なっており、東京は数名営業がいる。基本的にはリモートワーク。スキームはY氏が作って権限は委譲している。そこはベンチャーだからという話。
一方、社員への情報開示は積極的ではない。理由としては社員がバイオ系のことができれば満足しており、事業に対してのエンゲージメントが高い訳ではないので必要性を感じたことがないという。情報共有はSlackを使っているが、積極的な活用には課題がある様子。会社全体のことは年に2回本社にて共有するが、それ以外の時期に全体で相互に意見をかわしたりする機会はない。
人材についてのウォンツは現事業をサポートしてくれる労働提供者を出来るだけ低いコストで確保したいという印象。

代表Y氏自身について

0から1を作るのが好きなシリアルアントレプレナー。本事業については1(研究開発が新ビジネスとしての軌道に乗る)にすることが自身の目的として置いており、達成後は別の人に事業を渡そうと考えている。
事業に対しての愛着は強いわけではないが、新マーケットに対しては一定の強い可能性と一定の確信も持っている。
会社経営については「株価をあげる経営」を目指しているという。「株価をあげる」がスタンスとしてどういうことなのかは定義づけはされていなかったが、国内マーケットだけだとバリュエーションが数十億でも、海外に販路を持っているだけで数千億になる事例可能性があるという話だったため、マーケットが広範に広がる可能性を示唆して期待値を上げることだと解釈した。

新規マーケットの特徴

・世論は動く(是か否か)可能性がある
・中長期的にみて解決しなければならない全人類的な根源的問題
・だが、その問題に対する決定的なソリューションが現在見えていない
・そして新しい代替ソリューシューションは5〜10年くらいは出にくいことが予想される
・これまで職人の感覚技だった産業の再現性を高めることができる
・それにより当該産業の仕事の価値を向上、新規参入の促進をさせる可能性がある
・ハードルは研究に時間がかかること
・マーケット規模はうまく現市場に組み入れれば相当大きくなることが予想される
・ただ、キャッシュを持っている会社(商社など)から投資やリソース調達が得られそうなテーマ

まとめ

・大学の知財保有者がその分野の理解者でかつ経営経験があった親しい関係の人脈と繋がることで、事業化に発展した
・資金調達を行うために、事業経験者側が創業者としてコミットすることに決めた
・地方の大学初ベンチャーということで地方に根付く企業からの応援を得られた
・創業者は自身のシリアルアントレプレナーとして立ち上げがモチベージョン
・まずは基盤の事業を固めて、海外展開へもマーケットを広げたい。かつ新しい事業を軌道に乗せたい。新事業のマーケットは潜在的に大きく、事業の大幅な伸びも期待できる


バイオ分野は大学のシーズを事業化することで、まだまだ新たな産業を創出する余地があるという印象を受けた。(生命工学などの分野に関しては遂行には高い倫理観が必要だろう。)
シーズ提供、つまり研究者としては思惑やキャラクターによって色々あると思うが、自身が表に立って牽引していくというより、今回のケースのように信頼できる経営経験のある人間に自身の特許技術を事業化させてもらいたいというニーズは比較的あるのではないかと感じた。そうなると、研究室などとのマッチングの機会などは欠かせない。そういう場はもっと日本にあってしかるべきなのではと感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?