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君色の日々。



『彩り』ねぐせ。 × ものがたり


 2人で過ごす毎日は遊園地みたいだ。
 彼女は、ゆっくり上下に動きながらくるくる回るあれ。そう、メリーゴーランドみたい。感情の起伏が少なくて、大きな変化もあまりないけれど、退屈には思わない。カラフルな馬車やら、現実では見たことのないたてがみのウマ。そんな非日常で、キラキラした、ハッピーな世界を作り出せる魔法がここにはある。


 朝起きてから眠るまで、僕たちの日常には音楽があって、彼女は時間やシーンに合わせたプレイリストをいくつも作っていた。
 頭に響くレトロな目覚まし時計のベルの音で目を覚ますと、「おはよう」と太陽の絵文字のプレイリストをタップする。朝にピッタリの、のんびりとした音楽が流れ始めて、僕たちの一日がスタートする。
 ジャズバーみたいなおしゃれで大人な雰囲気の日もあるし、重低音が響いて思わず右手を高く上げながら歌いたくなるようなロックな日もある。常に音楽が聞こえるこの部屋はライブハウスみたいだ。



 ”時々ドキドキするようなことがあってもいいけど、常に安心するような日々の方が愛しいよね。”
 1年記念日に彼女がくれた手紙にはそんなことが書かれていた。たまのデートの日には、いつもよりおしゃれして、楽しそうな彼女にドキドキしていた。半同棲状態になって、付き合いたての緊張感やドキドキするような瞬間は確かに少なくなっているけれど、彼女の言う通りいつも安心できる時間の方が愛おしい。


 日常に色を足すのはのは、君と僕のバカみたいなやり取りと、夜中にコンビニで買うアイス。それから、会いたくて、苦しいと思うようなときでも、お互いを信じて大切に想い愛える瞬間。そして、あしたのことなんて考えないでルーズに過ごす深夜も、僕たちの大切な色になる。



 初めて会った日のこと覚えてる?僕がカメラ一つ持って散歩していたとき、よそ見して歩いていたから、君とぶつかって。

 「あ、すみません。」

 「いえ、大丈夫です。あ、カメラ。写真撮るんですか?」

 「えぇ、まぁ。」

 「わたしたちの写真も撮ってもらえますか?」

 「え、あぁ、いいですよ。ここ、景色いいから好きなんですよ。」

 「いいですよね。じゃあ、そこに並んでください。撮りますよ。」

 友達と一緒だった彼女たちの写真を撮ったのだった。顔の横でピースを作り、白い歯をのぞかせた。目もろくに合わせられなかったのに、ファインダー越しに運命を感じたりなんかして。
 写真送るために交換した連絡先。写真を送信した後も、メッセージのやり取りは続いて、一緒に食事に行くようになって、手を繋ぐようになって、日々を重ねるようになった。


 もしも、この幸せすぎる噓みたいな日々がずっと続くなら、何が何でも君の隣にいたいと思うよ。悲しいことが多すぎる世界で、君だけはずっと笑っていてほしいな。
 ルピナスで縁取りされた便箋に彼女への想いを綴り、初めて会った日と同じように、顔の横でピースをする彼女の写真をアルバムへ貼って、表紙に”2years Anniversary”と書きこむ。

 玄関でチャイムが鳴り、扉を開けるといつもと変わらない彼女が立っている。零れ落ちそうな「すき」をまっすぐ伝えて、君の涙はこぼれないようにぎゅっと抱きしめて。少し嬉しそうな彼女のおかげで、またきょうも僕の日常に色が加えられていく。



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