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【イラストでの紹介】宇宙の彼方に赴任した超能力者

創作小説から抜粋

「ここがラザフォードか…」

 到着ゲートに足を踏み入れると先に降り立った者たちがカウンターで手続きをおこなっていた。

「やれやれ…これで三度目、か」

 宇宙船がセリム星系へと到着したときは星系外縁宙域を監視する哨戒艇が接舷して、宇宙船と乗客・乗組員が星系立ち入りの許可を得たものであるか否かの検査をおこなった。

 これが一度目の手続きだ。

 次に宇宙船がラザフォード宇宙港に着陸したときには憲兵隊が乗り込んできて許可の再確認、星系進入時と着陸時において人員に不整合がないかのチェック(つまりラザフォードへと移動するまでの途上で下船した者がいないかのチェック)、船内に無許可の者が忍び込んでいないかの検査等をおこなった。

 これが二度目。

 そして目前にあるカウンターが三度目。

「辺境惑星にしては随分厳しいチェックだな。やはり噂に名高い『魔法の惑星』だからかな?」

 超能力者摘発のための検査でさえなければ面倒なチェックであろうが特段問題はない。反地球活動調査委員会の追及はこの惑星ではどの程度のものだろうか、そのようなことをボンヤリ考えながらカウンター前の最後列に並んだ。



 ラザフォードが閉鎖都市である特性上、宇宙港における船の離発着頻度はじつに寂しいものがあった。地球人がこの惑星で自由を満喫できる空間はラザフォードに限定されているところから、辺境惑星という地理的な要因も相まって、ある種の息苦しさと世間の流れから取り残されているという欠乏感に、都市住人の幾分かには自分たちが「流刑」を科されたかのような妄想にとりつかれていた。

 アミ・キサラギ自身も最近では島流し的な勤務場所に軽い鬱状態へと陥ることがあった。

 着任当初こそ連合では絶対に目にすることのできない魔法や古代世界に心をときめかせたものであるが、それはほんの少しの間だけで、故郷オキナワと肉親への念は日増しに強まるばかりであった。

 そうであればこそ宇宙船が入港したときの勤務は新しい風を感じ取ることができる唯一の機会であり、ひょっとすると故郷から彼女宛に何か逓送物があるかもしれない。家族からの逓送物がなかったとしても宇宙船の到着によって新参者を迎え入れることは理屈抜きの喜びがあったのだ。

 ラザフォードの居住人口数は厳重に管理されていたから、一時的な滞在者は別として、原則的に「誰かが転属になりポストに空きが生じなければ誰もやっては来ない」システムになっていた。

 改めて新参者の列に目を向けると無意識のうちに最後列の人物へと視線が移った。その服装から軍人であることが一目で見て取れた。

「肌がすごく綺麗…」

 遠目にも判別できる美肌に彼女の口から思わず言葉が漏れた。



 列が進み受付用アンドロイドの前にまで来るとラザフォード滞在の特別許可がメモリーされているチップを手渡した。その情報がアンドロイドをターミナルとしてメインフレームに蓄積されている訪問予定者と照合される。

「本人照合のため氏名と官名をお答えください」

 人型アンドロイドは人間と何ら遜色のないボイスで訊ねる。抑制ある落ち着いた声だった。『本物のチップを持った別人』を識別するための原始的な質問である。

「ジュリエット・ルクレール…連合軍少尉」

「ラザフォードへの訪問目的は?」

「軍の人事発令により第65機動歩兵隊勤務を命じられたため」

「…結構です」アンドロイドはチップを返し「最後にDNA照合をおこないます」と告げ、ボタンサイズの識別装置に右手人差し指を触れるよう指示してきた。

 無針無痛の血液採取型DNA識別装置である。一滴にも満たない微量の血液からDNAを解析し、事前に送られてきている訪問予定者DNAデータと照合をかけるのである。

 指を乗せて数秒も経過しないうちにチェックは完了する。

「本人に相違ないことが確認されました。ようこそラザフォードへ」

 片切文句のセリフが安っぽいセールスマンを連想させた。

 床に置いておいたアタッシュケースを持ち上げると、ふとカウンターの奥に立っている少女と視線がかち合った。

『何だろう…?』

 ただ視線が合ったにしてはどこか不自然なものを感じたが、気のせいだろうと思い受付カウンターを後にした。



 目と目が合った瞬間にドキリとしたものの、相手がそそくさと去ってしまったため、自分が意識していたことは感づかれた様子はなかったようだ。

「ジュリエット・ルクレール…何かのお話にでも登場しそうな名前…」手元のディスプレイに映しだされる申請データを眺めながら誰にでもなく呟いた。「ちょっと軍人さんには見えないかな」


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