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【イラストでの解説】憐みは限りなく愛に近い

創作小説から抜粋

「気になるのか」ノエルはエレベーターから地下第三層へと足を踏み出した。「銃が」

「ええ、自分も少しばかり用心が足りなかったと思いまして」

 その言葉はいろんな意味を含んでいた。

 事件当時レティシアに案内されてラファエルや高等弁務官と対面した部屋にジュリエットはノエルとともに訪れた。

 部屋の思い出にジュリエットの頭から銃のことは完全に消え去る。

 レティシアはここで心を透視しようとした。それに気づいたジュリエットは激情のあまり彼女の死を望んだ。

 思い出はそれだけではない。

 ラファエルの催眠術にそそのかされたミレアにジュリエットは撃たれた。追い詰められたレティシアは超能力を開花させたものの、同時に性格がねじ曲がったために彼の知るレティシアとはまったく別人になってしまった。

 そしてジュリエットは自らの手でレティシアを射殺。

 最後には絶望のあまり自殺の試み。

「なぜ人工生命体に加担した?」

 ノエルは思い出に割り込み情報部長も科学局長も口にしなかった(知りようもなかった)質問をしてくる。

「………」

「答えてもらおうか。なぜ軍を裏切って人工生命体に加担した?」

「それは…」ジュリエットは一瞬だが口ごもった。「彼らの身の上に共感したからです」

「共感? ありえないな。おまえが人工生命体に共感する理由がないだろう。嘘をつくならもっとましな嘘をつくことだ」

「レティシアは俺に訊ねてきました。『私は何のために生まれてきたの? …誰かに殺されるため?』」

「憐れみで反乱に加担したということか? だが軍法会議で銃殺刑を宣告されるリスクを考えれば割にあわない話だな。私には本当とは思えん」
 
 このときジュリエットの脳裏にはラファエルの言葉が横切った。

「少佐殿はご存知ですか…『憐れみは限りなく愛に近い』という言葉を」

「どういうことだ?」

 地下研究所の薄汚れた部屋には不釣り合いな言葉にノエルは理解に苦しんだ。

「いま申し上げた通りです」

「まさか出会ったばかりの女に一目惚れしたわけでもあるまい。しかも反逆罪の代償は銃殺刑だ」

「理解していただこうとは思いません。なぜならこういうことは当人同士でしか理解できないことだからです」

「犯罪の影に女あり、か…異性に心狂わされて犯罪に手を染め人生を台無しにしてきた者を職務上私は数多く見てきてた。おまえはそういう類ではないと思っていたのだがな」

「過大評価ですよ」

「そうかもしれない。だがおまえがレティシアに憐れみを感じたとして…そう感じざるえなかった要素、経緯、あるいは生い立ちとでも言おうか、そういうものがあるはずだ」

「………」

「あるいはこうも考えられる。おまえはレティシアの超能力に操られていたのかもしれない。テレパシーで憐れみの念を植えつけられた…そうは考えられないか」

「それは有り得ません」

 ジュリエットは少しばかり感情的な声音で答えた。

「なぜそう言い切れる? 超能力を使用されてもそれを感じ取ることはできない。被害そのものに気づかないわけだ。特にテレパシーはな。おまえが事件当時にESP探知器を装備していたのなら話は別だがそうではあるまい」ノエルはごく自然な体勢でジュリエットの瞳を見つめた。「あるいはおまえ自身が超能力者なら相手の超能力にも気づくだろうが」


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