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30代以下が知らない「ロッキード事件」と「陰謀論」と

1981年生まれの僕にとって、「汚職事件」といえば、リクルート事件であり、佐川急便事件だ。

ただ、どちらも自身が小学生の頃に起きた事件であるため、その全容を理解しているわけではない。ましてや、自身が生まれる前、1976年に起きたロッキード事件の詳細など知る由もない。

そのため、「かつての首相が逮捕されるにまで至った収賄事件」といった程度の認識しかもっていなかった。しかし、この作品によって、その認識を大きく改めることになったのである。

ロッキード事件は、米国航空機メーカー・ロッキードが、自社製品である旅客機トライスターを全日空に売り込むために、約30億円を投じて日本の政界に工作を行い、その資金の一部が首相であった田中角栄にもわたったとされる事件である。

50年近く前の事件であるため、田中角栄を含めた多くの関係者がすでに鬼籍に入っている。しかし、著者である真山仁氏は、残り少なくなった事件の関係者に取材すると同時に、関連資料を資料を丹念に掘り起こしていくのだ。

ロッキード事件をめぐっては、様々な陰謀論も囁かれている。それは、「田中角栄はアメリカにとって都合の悪い存在となったためCIAなどの工作により、えん罪をかけられ失脚した」といった類のものだ。

通常であれば、この手の陰謀論は一笑に付したくなるものだが、確かにロッキード事件をめぐっては不可解な点が多いようにも感じる。

裁判の手続きにも不自然なほどに強引だった。

全日空には角栄から圧力を受けなくとも、トライスターを採用する意思があった。

こうした事実が、本作の中では改めて提示される。

「CIAの工作」というスパイ映画のような陰謀論が正しいとは思わない。ただ、ロッキード事件というものは、多くの人間が思っているような単純な「金権政治家による収賄事件」ではないということが、緻密な調査によって明らかにされていくのである。

見過ごされがちな現代史からこそ学ぶべき

時はすでに令和だ。

昭和40年から50年代の空気感には、ピンと来ない部分も多い。日米関係や経済状況も、今の時代の常識では計り知れない部分もあるだろう。

だからこそ、本書の以下の記述が胸に響く。

我々がいかに先入観に毒されて、真実を探ろうとする目を曇らせていたかを思い知った。知りたい情報だけを手に入れればそれで満足し、自分勝手に歴史を理解していてはいけないと痛感した。

現代史は、学校の授業でも「時間切れ」のため見過ごされがちだ。しかし、未来を考えていく上で、「近い過去」に起きた過ちからこそ学ばなければいけない。

ロッキード事件を「古い政治家が起こした汚職事件」といった程度に考えている人にこそ読んでほしい一冊である。




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