見出し画像

リカコメソッドの奇跡


「理解してください」

私は、この言葉を出来るだけ使わないように
している。そうなったのには理由がある。
ママ友のリカコさんとの出会いがきっかけだ。


リカコさんには、リンちゃんという名の
娘さんがいる。リンちゃんは自閉症で
言葉によるコミュニケーションは
あまり得意ではない。こだわりやパニック
などもあり、関わりが難しいお子さんだった。


でも、リカコさんは一人娘のリンちゃんを
大切に大切に育てていた。何よりも
リンちゃんの気持ちを一番に考えるママだった。


例え通じなくても、丁寧に言葉をかける。
かけた言葉がこの子を作るから…
そんな信念が感じられた。


発達障害の息子はリンちゃんと同い年。
私は、小学校入学を機にリカコさんと
親しくなった。


私たちの子どもは支援学級でお世話に
なっていたので、学習や生活面では
申し分のないサポートを受けていた。


それでも、学校という場では
子ども同士の生身の感情がぶつかる。

「どうすれば理解してもらえるのかなぁ…」


つぶやく私に、リカコさんはキッパリと言った。

「私さ、理解してねっていう言葉、
キライやねん。」


え…なんで?(汗)

意外な反応に、頭の中では直前の光景が
何度も再生されている。


グルグル、グルグル。


私、なんかマズイこと言っちゃったかな?…


すると、リカコさんはいつもの天真爛漫な
笑顔に戻ってこう続けた。

「だってさ、理解して=我慢してってことやん?
それはお互いのために良くないよ。」


確かに、そうだ。一方的にこちらの要望を
飲んでもらう行為は「我慢」かもしれない。


インクルーシブ教育という名の下に
小さな我慢が積み重なれば、それはいつか
目に見えぬ断絶を生む可能性がある。


「あの子はお客様だから
(我慢しなきゃ)仕方ないよ」


クラスメイトにそんな気持ちが芽生えて
しまうことは、障害を持つ子もその親も
望んでいない。これっぽっちも。

じゃあ、どうすればいい?


リカコさんはこう言った。

「大事なのは、クラスの子達にも
『こんなことをされたらイヤだ』って
素直に言える場があること
やと思う。」


リカコさんには、学年が変わって一番最初の
クラス懇談で、他の保護者さんに必ず
伝えていることがある。


リンの行動に困っていたら、
どんなことでもいいので教えてください。
私でも先生でもいいです。
お子さんには「我慢してあげなさい」って
言わないでください。話をよく聴いてあげて
「先生に相談してみよう』って言ってください。
リンがどうしてそんな行動をするのか、
どう対応すればいいのかを教えます。
学校だけで解決しないなら、専門家に
相談することだってできます。
私もリンも、この学校と子ども達が大好きです。
どうか遠慮なく言ってください。お願いします。



リカコさんが最も恐れていたのは
「無知が招く誤解」だった。
不可解な言動にも必ず理由があって
それを知ってもらいたいのだと言う。

「リンちゃんはみんなと同じように
できないのだから、理解してあげなさい」

それは、優しい声に聞こえるけれど


「どうしていつも、ボク(わたし)だけが
我慢しなくちゃいけないの?」


という気持ちに蓋をすることになる。


同じクラスの仲間だと思えなくなるのは
当たり前だ。いわゆる「お客様」になってしまう。
それは、リカコさんにとって何よりも
悲しいことだったのだ。


もちろん、集団生活に多少の我慢は必要である。

お互いの言い分に耳を傾け、
お互いの辛さを分けっこしよう。

どこまでなら折り合いを付けられるか
納得できるまで話そうよ、何度でも。


リカコさんは、そんなメッセージを送り続けた。


放課後、公園で出会うクラスメイト達にも
気さくに声をかけるリカコさんは
すぐにみんなと仲良くなる。


たまには、輪の中に入って一緒に遊ぶこともある。
その様子は、大人が遊んであげてる風ではない。
本気なのだ(笑)


でも、その時間は、「リカコさんがリンちゃんに
どう接しているか」を生で学ぶ時間になる。
「我慢」が「歩み寄り」に変わる瞬間
私は何度も目にしてきた。


リカコさんは、子どもの心を掴むのが
本当に上手い。自ら接し方のお手本となり

いつのまにか、みんなが
リカコメソッドを身につける。


子ども達が高学年になる頃には、みんな
リンちゃんの扱いがすっかり上手になった。
手伝いすぎず、絶妙なタイミングで
手を差し伸べるのだ。


リカコさんのおかげで、うちの息子も
心地良い学校生活を送れた。結果的に
みんなの理解が深まったからだ。


理解してくださいと言わなくても
理解してもらえる。
それを間近で学べた私はラッキーだった。


何年もかけて地盤を整えてきたリカコさんには
頭が下がる。それまで、なんとかして周りに
譲歩してもらいたい一心だった私にとって
リカコさんの考え方は新しい風であり
その後の人生の指針となった。


今でも、忘れられないシーンがある。


何年生の時だったか、3学期の終業式の日のこと。
支援学級のママさん達と、校門の側で立ち話を
していた。


すると、同じ学年の女の子が二人
校舎から出てきた。リンちゃんの姿を見ると

「リンちゃん!またおんなじクラスに
なれたらいいね!バイバーイ!」


そう言って、元気よく駆け出して行った。


たったそれだけのことなのに、そこにいた
お母さん達はみんな目を赤くしていた。
ちょっと異様な光景だったかもしれない(笑)


ど真ん中じゃなくていい。
あの子達の瞳の中で、ちゃんと視野に
入っているのが嬉しいのだ。


目頭をそっと押さえながら、女の子達の姿が
小さくなるまで見ていた。ずっとずっと。




踊るように去って行く

二つの小さな背中を追いかけて

ふわりと温かい風が吹いた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?