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尿切れの悪い秋、温泉旅行




カレンダーにふと、目をやる。どうやら今月はもう終わるらしい

気がつけばあたりは暗くなっていることが最近よくある。秋もそのうち終わるだろう。そもそも秋の定義が分からない。昔の人はどうやって四季を判別していたのだろうか。尿切れの悪さ?

尿切れの悪さと言えば、季節の変わり目の男子便所ではこの会話で持ちきりである。

「季節の変わり目だと尿切れが悪くなるんだよな〜」

男子便所で用を足す際の会話を思い出すとき、尿切れの悪さの会話しか思い出せないのでおそらく我々はもう尿切れの悪さの会話しかしてないのだろう。ただでさえ尿切れの悪い用を足してるのに勘弁してほしい。




カレンダーにふと、目をやる。どうやら今年ももう終わるらしい






10月、神無月、特段大きな出来事もなく過ぎていったが、私には頭にこびりついて離れない言葉がある。

「シャラク」

という言葉でみなさんは何を思い浮かべるだろうか。

私は日本酒に詳しくないのだがどうやら日本酒好きの間では有名らしい。というのも友人の友人が勧めてきたという信ぴょう性の無さであるが。


話は9月半ばまで遡る。まだ残暑がうっすら続く日の夜、私は高校の同級生男子4人と居酒屋にいた。話も盛り上がってきたころに1人が口を開き

「温泉旅行いかね?」

と提案した。私も含め4人全員賛成したのだがその中でも一際輝いていたのが新藤である。この新藤、かなりのバカである。

前回の記事で紹介した、温泉に入ってたら気持ちよくなって絶対に秘密にしなければならない情報をベラベラと喋ってしまうのは新藤である。

警察になりたくてパトカーとすれ違うたびに「本日もお疲れ様です」と叫びながら敬礼するという全然ウケないノリを半年くらい続けたのちある日を境に一切敬礼しなくなったのも新藤である(多分落ちた)。

モテるための夏に向けて一生懸命筋トレをしたら、胸筋ばかりが発達し一時期ガンダムみたいな体型になってしまい「計算ミスった」とガンダムみたいな体で笑いながら報告してきたのも新藤である。

そして今回旅行が決まってからというもの、当日まで毎日毎日朝から晩まで旅行のことを楽しみにしていたのも新藤である。

誤解しないでいただきたのは新藤は愛すべきバカであり、私も同級生も皆新藤が愛おしくてたまらないのだ。温泉旅行の話で一際輝いてたというのは比喩表現ではなく、今思えばあの期間は新藤君は本当に体から輝きを放っていたような気がする。





新藤とは週末にPS4のオンラインゲームなどで毎週会話をしているのだが、旅行が決まってからというもの


「いやぁ〜旅行久しぶりだなぁ〜」

「楽しみだなぁ〜万座温泉って日本で一番硫黄量あんだよな、湯あたり大丈夫かなぁ」

「あれ、そういえば俺日本酒好きの同期からめちゃくちゃ美味い日本酒教えてもらったから当日持って行くわ〜」

その日本酒シャラクって言うんだけどめっちゃ美味いらしいんだよな〜これ見て5000円もすんだぜ」

「さて今日も仕事疲れたな〜、そういえば俺シャラク予約したっけな〜当日に配送間に合うかな〜」







わ  か  っ  た  か  ら





わかったから、新藤、もう十分わかったから。


新藤が旅行を相当楽しみにしているということは4人のうちの他のメンバーも肌感で感じていたらしい。我々の脳裏ではこの旅行が終わったら

新藤はどこか遠くへ行ってしまうのではないか

という不安がむくむくと膨らんでいった。





10月半ば、男四人万座温泉の旅行の当日がやってくる。各々レンタカーを借りている駅に集合する。新藤はやはり輝きを放っている。朝日と肩を並べるほどの眩しさである。ふと新藤君の右手に持っているバックに気がつく、



「シャラク」だ



まぁ持ってくるわなとは思ったがまさかクーラーボックスに入れて持ってくるとは思わなかった。このようなチェック柄のバックに氷と一緒に「シャラク」が気持ち良さそうに眠っていた。注目するのもなんだか新藤の思惑通りな気がしたのでそこそこの反応にしておいた。本当はめちゃくちゃ面白かった。




行きの移動は新藤が運転することになり、後部座席で手持ち無沙汰になった友人の一人が新藤に向かって

「新藤、シャラク飲んでいい?」


と聞くと

「馬鹿野郎!」

と激怒し、高速を走っている我々のミニバンが揺れる。新藤は本気だった。こいつは何しにわざわざ万座まで行くのだろうと秋のいわし雲を見つめながら私は思った。この絡みが面白くて3回はやった。



万座温泉に行くには草津白根山の道路を通る。高度はどんどん高くなり、卵が腐ったようなにおい(硫黄臭)が温泉が近いことを感じさせる。白根山は2018年に噴火しておりその際の噴石や溶岩などが散らばっていた。

あちこちで煙が噴き上がっており木々が無く大変見晴らしがいいためドライブコースには最適だろう。

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しばらく車を走らせて旅館に到着


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「シャラク」ではない



万座ホテル聚楽を宿に選んだ理由として日本でいちばん硫黄含有量の多い万座温泉の中でも硫黄含有量がトップだからである。

簡単にいうと硫黄泉として認められるには1kgあたり2mgの硫黄含有量が必要となるが、ホテル聚楽は1kgあたり313.5mg(ホテル聚楽館内張り紙から引用)という桁違いの硫黄成分を含んでいる。


泉質は単純硫黄温泉(硫化水素型)であるので、血管を拡張させ高血圧や動脈硬化の予防・メラニンを分解させることによりシミ予防・美肌効果が期待できる。

なによりも、卵が腐ったような硫黄臭とエメラルドグリーン・乳白色のお湯は嗅覚と視覚を刺激させ「温泉にきているんだな」と実感が湧く。


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(朝9時40分から10分間は撮影可能時間となる)

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景色も抜群である。






さて1日目の夜、夕食・入浴を終えた我々はソワソワがピークに達した新藤に対して提案する。


5000円のシャラクと100円の鬼ごろしを新藤が飲み比べてシャラクを当てたらみんなでシャラクを飲める



我々がなんとなく新藤におあずけを食らわせていたので新藤はシャラクを飲みたすぎてイライラしている。新藤はもう限界である。事は一刻を争う。


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新藤「俺にシャラクを飲ませろ!!!!!」


この歯はどの時の歯だよ。日本語を喋っている限りありえない"th"の形になっている。新藤は限界である。



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新藤を落ち着かせ、グラスを2つ用意する。しかしここで我々は早く正解を当ててシャラクを口にしたい新藤に秘密で


飲み比べの2つのグラス、両方鬼ごろし


作戦を強行する。

まるで千と千尋の最後のシーン、主人公の千尋が豚になった両親をこの中から当ててみろという最後の課題で大量の豚の選択肢を与えられたとき、「この中にお父さんとお母さんはいないよ!!!!!」と見事に当てるシーンのようだ。

あれだけ楽しみにしていた新藤にはぜひバシッと「この中にシャラクはないよ!!!!!」と当てて欲しかった。そのとき、私はきっと感動で膝から崩れ落ちてしまうだろう。




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新藤は2つとも鬼ごろしのグラスを飲み比べる


においを嗅ぎ、舌先で嗜む彼の様子は熟年のソムリエのようだ


静寂が続く



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新藤は真剣な面持ちで硬直する。とても悩んでいる

我々は「流石にわかるっしょ新藤」とひやかしを入れる

それでも新藤には届かない。無理もないなぜなら





どちらも鬼ごろしだから


である。正直ここまで真剣な新藤を見るのは久しぶりだった。なんとしてでも当ててみんなでシャラクを楽しみたいというまっすぐなバカを見て少し心が痛くなった。



少しして新藤が口を開く。

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新藤「後味がピリッとしているな、、、、


こっちがシャラクだ!!!!!!!!!!」




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本当に面白かった。笑いを堪えるのが大変だった。

面白すぎたのでとりあえず新藤は不正解ということを告げ、新藤が選択していない方のグラスをシャラク(もちろん鬼ごろし)だと伝え飲ませて答え合わせをした。


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新藤「これ本当にシャラク?」



顔が痛くなる程笑いを堪えた。とにかくまっすぐな新藤の頭の中には二つとも鬼ごろしという悪魔のような考えは無い。心が痛い。きっとこの時の歯の出具合を見ると必死にシャラクの”シャ”を発音しているのだろう。

次に我々は本物のシャラクの味を新藤に覚えさせラストチャンスを与えた。これで当たらなかったら我々はシャラクを飲まないと宣言した。新藤の顔つきが変わる。

運命の二回戦が始まる。

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1回目に外してしまいすでに満身創痍の新藤。目が虚である。新藤に可視化できそうなほど重いプレッシャーがかかっている。なんでそこまで?


さてここでお気付きの方もいるかと思うが、この最終戦、中身はもちろん


両方とも鬼ごろし


である。本当に申し訳ない。


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新藤「クンクン」


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新藤「ゴクッ」


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新藤「・・・」


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新藤「クンクン」





我々にも緊張が走る




一ヶ月も前から誰よりも楽しみにしていた新藤




わざわざ鬼ダサいクーラーボックスに入れてきてまでシャラクを飲みたかった新藤



次第に私の中で「当ててくれ新藤。この中に正解はないと当ててくれ」と思うようになる。





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新藤「この圧倒的に違う深み・・・



やめてくれ新藤



新藤「さっきとは比べ物にならないほどの・・・・




もうやめてくれ新藤






新藤「こっちが本物の!!

シ  ャ  ラ  ク  だ  !!!!」





全員「鬼ごろしです!!」




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新藤「ホントに終わった・・・もう無理だ」





新藤は仰向けに静かに倒れ込んでしまい、自己肯定感がズタズタになってそのまま動かなくなってしまった。

流石に可哀想だなと思い我々は種明かしをすることにした。




私「新藤・・・実はさ・・・」



新藤は動かない。目だけはこちらを見ている。

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私「新藤・・・聞いてる・・・?」


間をおいて新藤が口を開く


新藤「・・・なに」


私「あのさ、どっちも鬼ごろしなんだよね」


新藤「・・・・・・」


新藤「じゃあ、俺が選んだのは・・・?」


私「うん、鬼ごろしだね、、、」


新藤「じゃあ、俺が選んでないのは・・・?」


私「うん、鬼ごろしだね、、、」






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新藤「・・・・ッハッ」




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新藤「ッカッッッッッ!!!」






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新藤、無茶苦茶キレた。






とまぁこんな具合の温泉旅行を終えたのだが万座温泉という湯質や景観も素晴らしく、全体的に大満足の温泉だった。

新藤のことをバカ呼ばわりしていた我々も写真フォルダを見返せば私の全裸の写真が大量に撮られスクロールすると画面いっぱいに肌色が広がるほどだったり

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今まで生きてきて初めてする撮り方の割にはやけにクオリティが高い撮り方をしたりなどバカなのは新藤だけでは無いのだと後々実感することになる。







毎日コツコツ書いていたら膨大な文字数になってしまった。分割して記事を書いているとオチが定まらなくなってしまう。


季節柄、尿切れも悪いし、歯切れも悪い記事もたまにはいいんじゃ無いかと思ってます。あれ、これオチましたかね。


体調に気をつけてお過ごしください。

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