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世界の終わり #1-3 プレミア

 頷いて返される。ぼくはかぶりを振る。椅子から離した手を太ももにあてて、強く擦っている荒木に同情する。皮膚へ伝わった何者かの名残を消し去ろうとしているのだろう。
「警戒を怠るな。どこかに隠れているはずだ」
「どこかにって……どこに、誰が? ぼくらがガラスを割って入ってきたことに驚いて、慌てて外に逃げたのかもしれないよ」
「逃走する音を聞いたのか? 聞いてないだろ? おそらくまだ建物内にいる。どこからか、おれたちの様子を窺ってるはずだ」
 冗談じゃない。
「あ、あのさ、降参したほうがいいと思うよ。相手が何者なのかわかんないんだし、それに人数も不明だからさ。大体、ぼくたちって不法侵入している側だから、素直に謝って、屋敷からでて行けば見逃してもらえるんじゃないかな。ええっと……あ、あのぅ。聞いてますかぁッ!」
「馬鹿野郎!」
 荒木に小突かれた。だけど続ける。屋敷内に潜んでいるのが市民団体の人たちだったら、互角にやりあえるかもしれないが、自衛軍や警察関係者なら、取り押さえられて、連行されるのがオチだ。
「ごめんなさい、すぐにでますから。だから、あの、もし銃を持っているなら、絶対に撃たないでくださいね。え、えぇっと……怪しいやつらって思ってるでしょうけど、それほど怪しい者でもないんです」
「白石ッ! 黙ってろ」
 後頭部を叩かれた。渇いた音がリビング内に響き渡る。さほど力はこめられていなかったが、暴力に対する嫌悪感が頭の中に広がって、気持ちが一気にクールダウンした。口を結んで周囲の様子を窺うことにする。我ながらテンパりすぎていたことも反省して。

 室内は一〇畳ほどの広さで、グールが縛られているリビングの奥には、カウンターキッチンが備えつけられている。外観からは古い屋敷の印象を受けたが、内装はリフォームされていて、洒落た感じだ。視線をキッチンのほうへ向ける。すぐさま玄関へ通じる扉へと移す。ぐるりと一周して、紐で縛られたグール。そして再びキッチンへ戻してみたが、屋敷内に潜んでいる者の姿はおろか、気配すら感じ取れなかった。

「椅子、本当に温かかったの?」
「あぁ」
「勘違いじゃなく?」
「疑うんなら、自分で触ってみろ」
 荒木が椅子を指さした直後に、声が、悲鳴が、玄関で待機している板野が、脳を揺さぶるほど大きな悲鳴をあげた。
「おいッ」
「わかってるよ!」
 ぼくらは慌てて駆けだす。
 荒木の踵を追いかけて、転がるように廊下へと飛びだす。

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