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interview Joshua Redman"Where Are We":ソフトでスロー、リリカルでメロディックに紡ぐアメリカの理想と現実(8,200字)

ジョシュア・レッドマンブルーノートと契約したことには驚いたが、リリースした『ホエア・アー・ウィー』がまさかの歌ものだってのにはもっと驚いた。様々なチャレンジを行って、21世紀のジャズの道を切り開いてきたジョシュアだが、ヴォーカリストを加えての歌ものってのは彼のキャリアの中でも初めてだ。しかも、そこには定番のジャズ・スタンダードもあれば、ロックもあったりするカヴァーもの。これもまた驚きだった。

ただ、そこにひとひねりあるのがジョシュア・レッドマンだ。ただ過去の曲の演奏しているだけでなく、そこには別の楽曲がマッシュアップ的に合体されていたり、別の楽曲の中のフレーズが引用されていたりしていて、ただのカヴァー集とは言えない面白いつくりになっていた。しかも、ここでは(最後の1曲「Where are you?」を除いて)すべての曲はアメリカの地名に由来するものが選ばれている。それはメインの曲だけでなく、マッシュアップや引用に使われた曲もすべてアメリカの地名に由来している。つまり、様々な既存の曲を並べたり、組み合わせることでアメリカにおける何かを表現したコンセプト・アルバムとも言えるわけだ。

そんな実に深く、興味深い作品を読み解くためのヒントをジョシュア・レッドマン本人に聞く機会を得た。新鋭ヴォーカリストのガブリエル・カヴァッサとのコラボとも言える『ホエア・アー・ウィー』にはどんな意図が込められているのかを、ジョシュアは実に饒舌に語ってくれた。

取材・編集:柳樂光隆 | 通訳:川原真理子
協力:ユニバーサルミュージック


◉『Where Are We』のコンセプト

――まずはアルバムのコンセプトを聞かせてもらえますか?

まず、注意書き的なことを言っておきたいんだ。音楽のコンセプトは音楽そのものであるべきだと僕は思っている。僕がそう言いたいのは、もちろんこのアルバムには表面的に明らかなテーマやアイデアやコンセプトがあるけど、これは僕がプレイするどんな音楽にも言えることで、コンセプトが音楽を圧倒するようなことはしたくないからなんだ。音楽そのものが重要なわけで、感じたり考えたり体験したりすることが有効で重要なんだよ。

――わかりました。

とは言うものの、ここにおける明らかなコンセプトは、アルバム中の曲はすべて、場所に触れているということ。アメリカの地理的な位置に触れているんだ。ほとんどの場合は都市だけど、州や地域の場合もある。これは「場所」についてのアルバムなんだ。
 
当初このコンセプトは、単に選曲するためのものだった。ヴォーカリストのガブリエル・カヴァッサとは一緒に音楽を作ったことがなかったし、そもそもパンデミックのせいで一緒に音楽を作れなかった時期に作ったアルバムなんだ。だから、曲の広大な海、果てしない海を泳ぎながら、僕たちは曲を選んだんだよ。というわけで、当初はそのリストを狭められるようなコンセプトを考えようと僕は思っていた。だから、これから作ろうとしていたアルバムにそのコンセプトがどれくらい残るかわからなかった。でも、結果的に残ったんだ。

――なるほど。

だからある意味このアルバムは、アメリカについてではないけど、様々な側面からアメリカを、アメリカの理想を体験するアルバムなんだ。楽観的かつ希望に満ちた理想のアメリカについての曲もあるし、アメリカの現実の問題、困難、失敗、危険を扱った曲もある。それらはこの国の理想に従ってこなかったことについての曲だよね。でもアメリカだけについてではなくて、いろんな意味で時間を超越した人間のテーマである愛、喪失、希望、傷心、思い出、忘却、旅立ち、帰還と、アメリカに実際に存在する場所のあらゆるプリズムをフィルターに通しているんだ。

◉カヴァーとマッシュアップについて

――ここでは既存の2つの曲を組み合わせています。こういったアイデアはどこから来たのでしょうか?

それは僕から来たんだろうね。元々のマッシュアップのアイデアは「Alabama」だったけど、これは一番マッシュアップしていない曲だね。イントロは「Alabama」からの引用で、それから「Stars Fell On Alabama」からの引用をして、そこからジョン・コルトレーンの「Alabama」をやっている。どっちの曲もやりたいってアイデアがあったんだ。どちらもアメリカのアラバマの現実のかなり別の側面を表わしているからね。

「Stars Fell On Alabama」は、クラシックでロマンティックで楽観的なアメリカの曲だ。理想的なロマンスや喜びの世界に住んでいて、周りの世界のことはほとんど気に留めていない。ただ、星が落ちてくるところを2人が眺めているんだ。

一方で、ジョン・コルトレーンの「Alabama」は、ジャズ界における素晴らしい社会正義の曲、プロテスト・ソングだと思う。アメリカの人種問題、特に人種間の暴力、この国で行なわれた残虐行為を取り上げた曲だ。とっかかりとして、僕はこの曲をやりたかったんだ。

ーーなるほど

他のマッシュアップはそこまで(内容的に)重くはない。もうちょっと音楽的(なマッシュアップ)と言っていいと思う。最初にやったのは「San Francisco」のマッシュアップだった。まず「I Left My Heart In San Francisco」に取り組んでいたら、セロニアス・モンク「San Francisco Holiday」を思いついた。だから、ふたつを繋げたんだ。サンフランシスコのフィーリングには反してはいるけど、(音楽的には)うまく行った。ケーブルカーが音を鳴らしているような感じかな。

僕が一番うまく混ざり合っていると思うのは、「Goin’ To Chicago Blues」スフィアン・スティーヴンス「Chicago」だね。異なる音楽的要素が見事に融合していて、スフィアン・スティーヴンスの曲のメロディックかつハーモニックな要素にブルース形式/ブルースの表現が注入されているんだ

◉スフィアン・スティーヴンス「Chicago」

――今、名前が出たスフィアン・スティーヴンスはアメリカの各地にまつわる曲を意識的に書いて発表してきたアーティストです。そんなスフィアン・スティーヴンスの楽曲がここに選ばれていることは、このアルバムのコンセプトと関係あるのでしょうか?

それは特にはないね。もちろん、「Chicago」が収録されているアルバムについては知っているよ。『ILLINOIS』は素晴らしいビッグなアルバムだから。初めて聴いたときからすごく気に入ったことを憶えているよ。このアルバムのアイデアがそこから来たとは言えないけど、ガブリエルが“「Chicago Blues」をやりたい。それが私たちのシカゴの曲になるから”と言った時、僕はスフィアン・スティーヴンスのあの曲のこと、それを大好きだったことを思い出して聴き返してみたんだ。すると、“これはブルースとは何の関係もないけど、ブルースに関連したものにできるかどうかやってみよう”と思って、まとめ方を探したんだ。すべてのマッシュアップ中、これが一番本格的でオーガニックだと思ってるよ。

――ところで、このアルバムをなぜ“バラード”のアルバムにしたのでしょうか?

バラードだけではないけど、ソフトでスローでリリカルでメロディック寄りの音楽表現であることは間違いないよね。これが僕たちにとって一番ふさわしくて自然であるように思えたんだ。特にガブリエルとのコラボレーションにおいてはね。彼女は美しいバラード・シンガーだからね。彼女自身も、自分は生まれながらのスロー・シンガーだって言っていたよ。彼女はゆっくり歌うのが大好きなんだよね。そして僕もスローなプレイをするのが大好きなんだよ。これまでファストなプレイはかなりやってきたし、このアルバムでも一部そうしているけど、ここではスローでロマンティックでメロディックでリリカルな僕のプレイ的側面を活用するチャンスだって思ったんだ。

◉「After Minneapolis (face toward mo[u]rning)」とジョージ・フロイド

――では、ここからは個々の曲についても聞かせてください。まず冒頭の「After Minneapolis (face toward mo[u]rning)」はこのアルバムにとって重要な曲だと思います。あなたの作詞作曲で作ったこの曲はどんな経緯でできた曲なのでしょうか?

確かに作詞作曲は僕がしている。音楽はジョージ・フロイドが殺害されてから5日後に作ったんから、2020年5月31日に作ったものってことになる。僕の人生の何かに対する直接的な反応で音楽を作ったのはあの時が初めてだった。この場合は僕の人生ではなくて、世界の人生だったけどね。特定のことに対して、もしくはそれに反応して僕が音楽を作ることはあまりないけど、今回はそうなったんだ。おそらく何かを吐き出すためにやったんじゃないかなって思うよ。何かを表現する必要性を感じたんだろうね。当初、それをプレイすることを必ずしも考えていたわけではなかったんだ。でも、このアルバムの計画を立てていくにつれ、アメリカやそこの場所についての曲をやることがわかってくると、この曲をまた掘り起こしてそこに歌詞をつけようと思ったんだ。僕が歌詞を書いたのはこれが初めて。もしかしたら最後になるかもしれないね。書いていた時は自信がなかったけど、ガブリエルと一緒にやってみたら、うまく行きそうだったし、実際うまく行ったと思ってるよ。

「After Minneapolis」「Alabama」は、このアルバムの枠組み、つまりブックエンドのようなものになったんだ。アメリカの生活の現実のもっと難しくて問題のある側面を扱った曲でもある。どちらの曲もそういったことを扱っているし、痛みや苦悩を伴ってはいる。でも、僕たちのプレイのやりかたには希望に満ちた愛情溢れる精神が宿っていると思うよ。僕のメッセージは悲観的なものではないんだ。アメリカの、世界の、人類の現実は難しいよね。でも、僕は人間の共感力や魅力や向上心に対するある程度の信念と希望を持っているから。

――「After Minneapolis (face toward mo[u]rning)」の冒頭に「This Land Is Your Land」のフレーズが引用されています。この曲では「This Land Is Your Land」のフレーズはどんな意味を持っているのでしょうか?

あそこで僕は「This Land Is Your Land」のモチーフに沿ってサックス・ソロをインプロバイズしている。僕はウディ・ガスリーやあの曲の専門家ではないけど、あの曲はアメリカのフォーク・アンセム的なものなんだ。でも元々ウディ・ガスリーは、多少批判的なスタンスであれを作ったんじゃないかなと思ってる。特にオリジナルの歌詞を読んでみると、彼はアメリカの商業的な側面や大企業、アメリカの私有地のアイデアを批判しているから、そういう(批判的な)要素もあると思うよ。

ここで僕はメロディもそうだけど、若干破壊的なプレイをしているんだ。ある種のパワーを込めてるし、怒りを込めているとも言えるね。ここは至福の瞬間ではないけど、このプレイがこの曲を、このアルバムを紹介するために僕が納得のいくやり方だって思ったんだ。この(アルバムの)音楽にはロマンティックなリラクゼーション、愛、希望、楽観性が多々ある。だから、僕としてはこのアルバムにとって意味のあるストラクチャーを見つけたかったし、様々な感情や経験のバランスも見つけたかったと思うんだよね。

◉ブルース・スプリングスティーン「Streets Of Philadelphia」

――「Streets Of Philadelphia」ブルース・スプリングスティーンのカヴァーです。この曲を選んだ理由を聞かせてください。それは映画「Philadelphia」とは関係ありますか?

あの曲は、あの映画で大ヒットしたんだ。あの映画が公開された時、シアターで映画を観たことを憶えているよ。いい映画だった。当時の重要な映画だった。あともちろん、とてもパワフルな曲だった。まさか自分がこれのジャズ・カヴァーをやるなんて、思ってもいなかったけどね。ブルース・スプリングスティーンのことは大いにリスペクトしているよ。彼の音楽は素晴らしいけど、まさかそれをジャズ風に解釈できるとは思っていなかったんだ。でも都市にまつわる曲について話をしていた時に、この曲が挙がったんだよ。「Streets Of Philadelphia」はどうかなって。当初は「そんなのできないよ」と思っていたけど、アレンジに取り組みだすとね。聞けばわかるけど、歌詞は同じだし、メッセージの一部も同じだし、曲の基本的なストラクチャーも同じだ。でも僕は、オリジナルとはかなり違うものも入れたんだよ。プレイのグルーヴとか、ハーモニーとかの面でね。結果的にとてもパワフルな曲になったと思う。出来には満足しているよ

――映画はLGBTQ的な物語ですし、そういう性自認の問題とかを盛り込もうと思ったのかなと思ったんですけど、どうですか?

同性愛嫌悪やLGBTQの人達に対する差別、そしてエイズの問題に真っ向から取り組んだ、最初の大掛かりなハリウッド映画のうちの1本だ。だから、当時にとってとても重要な映画だったよ。当時の僕の好きな映画ではなかったし、僕個人に多大な衝撃を与えた映画とは言えないけど、僕たちの文化や社会にとってはとてもとても重要だったんだ

◉ガブリエル・カハネ「Baltimore」

――ガブリエル・カハネ「Baltimore」を選んだ理由を聞かせてください。

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