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Live Review:生で見たパンチ・ブラザーズが凄過ぎた

パンチブラザーズの初来日公演(2016/08/04)がとにかく素晴らしすぎた。

彼らの音楽は、どう聴いてもブルーグラスだけど、どう聴いてもインディーロックブラッド・メルドーがロック経由で、ロバート・グラスパーがヒップホップ経由で、ピアノトリオのフォーマットのままジャズを拡張したのと近い革新。

ウィルコベッカ・スティーブンスと並べて聴きたいサウンドだと思う。

というか、21世紀に入って、音楽はどんどんすごいことになっていて、驚くばかり。ブラックミュージックに関しては、ジャズやR&B、ヒップホップなどの境界がどんどん溶けていって、あらゆるものが「音楽」になりつつあるなって実感があるけど、それはブルーグラスやカントリー、フォーク、クラシックそしてジャズに関しても同じなのかもしれない。あらゆる音楽が進化していく過程で、いろんなジャンルのものが同じ地平で繋がり始めたというか、むしろ、細分化する前の昔の状況に先祖返りしている感じもある。高橋健太郎さんの本のタイトルじゃないけど「音楽の未来に蘇るもの」って感じがある。この今の状況、めっちゃくちゃワクワクする。

さて、パンチブラザーズに戻ろう。
彼らの音楽を聴いていると、弦楽器5本でここまでできるのかと驚く。しかも、マイクは5人で1本。音量から音色からサステインなど、全てを完璧にコントロールしてて凄すぎる。ノンマイクの室内楽とかと同じレベルで演奏してて、立ち位置を変えたりして、マイクへの距離や位置関係でサウンドを調整したりもする。早いとか複雑とか以上の異常な演奏力。楽器のコントロールというか、音のコントロールがとにかくすさまじい。

ちなみにこの演奏力をジャズシーンがほおっておくわけはなく、マンドリンのクリス・シールブラッド・メルドーと共演しているし、ギターのクリス・エルドリッジジュリアン・ラージと一緒にアルバムを出している。彼らの存在はジャズシーンをも既に浸食しているのだ。


弦楽器なのに全てがリズム的なのも面白い。メロディーとリズムが合体しててグルーヴしていく感じは、全然違うけどジョイスとか思い出した。ジョイスの曲を聴いていると、元々メロディーも歌詞も、ギターも歌も、全てがリズムに貢献するように出来ているように感じるけど、パンチブラザーズのサウンドもそんなリズム的な魅力にあふれていた。全てが軽やかにリズム的に躍動してジャストに進む気持ち良さ。

アコースティックのギターとマンドリンとバンジョーの違う音色のアルペジオを絶妙に音量の差をつけてのアンサンブルはエフェクト無しでもエレクトロニカみたいな瞬間もあり。そのアルペジオを少しズラせば、ディレイかシューゲイザーかといった具合。でも、そういうのも全てブルーグラスの中で自然にスムースにやってて。つまり、足し算とか掛け算とかの感覚が全くない。ブルーグラスを演奏する中に、彼らが培ってきたもの、聞いてきたものが自然に溶けだしているという感じだろうか。

だから、聴いててもオルタナティブな感覚を感じないのに、ブルーグラスの枠だけで見ると違和感がある。ある意味では、ブルーグラスではないとも言える瞬間も多々ある。これはすげー新しいなぁと。こんな音楽をブルーグラスとして語っちゃうのももったいないし、デビッド・グリスマンだのビル・フリゼールだの的なアメリカーナみたいな括りでまとめ方もしないほうがいいなと素朴に思った。もちろんジャズにもフォークにも括れない。

個人的には、パンチブラザーズみたいな音楽こそ、ロックのメディアで新しい音楽として取り上げて欲しいなぁ。インディーロック的なところに届けてほしい。そのために「まだ名前のついてない新しい音楽」として紹介するのがいいと思うし、知恵を出し合って、過去との接続よりも新しさを語ろうぜと思う。アメリカーナとか言うとなんか古くさいから、もっと広がる文脈で紹介してほしい。

と書いてて、今、思い出したけど、JTNC作るときに、ベッカ・スティーブンスは新しいし、同時代性あるし、アメリカーナとかいうのやめて、彼女の世代らしいかっこいい紹介しようぜとか話し合った記憶がある。ECMを扱うときも、静寂とかいうと古臭くなるしやめようぜって言ってた気も。ま、なんか、そうやって、彼らと同世代、もしくは下の世代にも届ける努力をしないなと思う。

パンチブラザーズはそんなことまで考えてしまうような圧倒的に新しい音楽だった。

最新作の Punch Brothers『The Phosphorescent Blues』も最高なのでぜひ! 

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