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"現代ジャズ×文学"のためのディスクガイド for 文學界"JAZZ×文学"

僕も寄稿している文學界の"JAZZ×文学"特集。

僕は”ジャズに言葉は不要なのか?”というテーマの評論を書きましたが、依頼されたお題が評論ではなかったら書けるなと思っていたアイデアがあるので、ここで紹介しておきます。

それは

"現代ジャズ×文学"のためのディスクガイド

です。

ジャズの新作を山ほど聴いていると定期的に文学や詩、本からのインスピレーションを形にしたとアーティストが語っているジャズ作品に出会います。普段は「そういうの意外とあるのね」と心の中で思うだけですが、せっかく出せるきっかけになる特集を文芸誌がやったのここにまとめておきます。

■ナオミ・クラインなど ⇒ ブライアン・リンチ・ビッグ・バンド - The Omni​-​American Book Club: My Journey Through Literature In Music

NY屈指のトランぺッターで、ラテンジャズやビッグバンドにも精通する名手としてその筋でも知られるブライアン・リンチ(Brian Lynch)は実は読書家。2019年に発表した自身の名義での初のビッグバンド・アルバムは、本をテーマにした作品だった。それぞれの楽曲に2人の作家に捧げる形で作曲。それぞれの楽曲ではかなり異なる音楽性のサウンドを奏でていて、それが本と繋がってる。アメリカ文学好きにおススメ。ナオミ・クラインタナハシ・コーツラルフ・エリクソンアミリ・バラカなど、音楽周りでもよく聞く名前も。
以下に作家のリストを箇条書きしておきます。

David Levering Lewis
W.E.B DuBois
Ta-Nehisi Coates
Albert Murray
Ned Sublette
Eric Hobsbawm
Naomi Klein
Mike Davis
Timothy Snyder
Masha Gessen
Isabel Wilkerson
Ralph Ellison
Nell Irvin Painter
Brené Brown
Chinua Achebe
Robert Farris Thompson
Amiri Baraka
A.B. Spellman

ジェームズ・ボールドウィン ⇒ ロン・マイルス - Rainbow Sign

コルネット奏者ロン・マイルス(Ron Miles)が名門ブルーノートからリリースしたアルバムは作家ジェームズ・ボールドウィン『The Fire Next Time』からのインスピレーションがあるとのこと。ジェイソン・モラン、ビル・フリゼール、トーマス・モーガン、ブライアン・ブレイドによる現代ジャズのオールスターによる演奏も素晴らしいロン・マイルスの新たな代表作になりそうな傑作。

ポルフィリオ・バルバ=ハコブなど ⇒ ロリーナ・カルバーチェ - Vida Profunda

コロンビア出身のピアニストで作編曲家のカロリーナ・カルバーチェ(Carolina Calvache)はコロンビアの伝統音楽と現代ジャズを融合させる南米のジャズシーンの注目株。

詩がコンセプトの全編歌もので、コロンビアを代表する詩人ポルフィリオ・バルバ=ハコブや、チリを代表する作家パブロ・ネルーダなどラテンアメリカの風土に根差した作風の作家から、コロンビアのガブリエル・ガルシア=マルケスのようなマジック・リアリズム、ギリシャの左翼系詩人ヤオス・リッツォなど、様々なタイプの詩が並ぶ。

バンドメンバーはギリシア出身のペトロス・クランパニス、ブルガリア出身のピーター・スラボフ(ベース)、日本出身の小川慶太、韓国出身のポール・ウォンジン・チョ、スイス出身のグレゴア・マレなどなど。

起用されたヴォーカリストはコロンビア出身のマルタ・ゴメス、キューバ出身のアイデー・ミラーレス、パナマ出身のルーベン・ブラデス、チリ出身のクラウディア・アクーニャ、ポルトガル出身のサラ・セルパなどなど。

と、世界中のアーティストが集まっているのも魅力に繋がっている。

イタロ・カルヴィーノ ⇒ ペトロス・クランパニス - Irrationalities

上のカロリーナ・カルバーチェの作品にも参加していたギリシア出身のベーシストで作編曲家のペトロス・クランパニス(Petros Klampanis)の2019年作はイタリアの作家イタロ・カルヴィーノの小説『マルコ・ポーロの見えない都市』からのインスピレーションが出発点。
編成はエストニア出身のピアニストのクリスチャン・ランダル、ポーランド出身のドラマーのボデク・ヤンケとのトリオだが、3人とは思えないカラフルで豊かなストーリーを奏でる。弦楽アレンジも上手い敏腕作編曲家でもあるペトロスの作曲能力の高さが光る。こんなピアノトリオはちょっと他にないです。

■テジュ・コール ⇒ ヴィジェイ・アイヤー - Break Stuff

インド系アメリカ人のピアニストのヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)の2015年作はデトロイトテクノのレジェンドのロバート・フッドやジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクへのオマージュまでもが収録された現代的な作品だが、その中の"Starlings""Geese""Wrens"の3曲はナイジェリア系アメリカ人の作家テジュ・コールとのコラボレーションを元にしたもので、テジュ・コールの代表作『Open Call』にまつわるもの。曲名は全て鳥の名前に由来している。

■キャサリン・オルムステッド ⇒ ダーシー・ジェイムス・アーグーズ・シークレット・ソサエティ - Real Enemies

本誌でも紹介した現代ジャズ屈指のジャズ・ラージ・アンサンブルの作編曲家ダーシー・ジェイムス・アーグー(Darcy James Argue's Secret Society)の2018年作はキャサリン・オルムステッドが2009年に出版した『リアル・エネミーズ:陰謀論とアメリカ民主主義(Real Enemies: Conspiracy Theories and American Democracy, World War I to 9/11)』からのインスピレーションを形にしたもの。

それを高度なジャズ・アンサンブルだけでなく、サンラ的なコズミックなフリージャズ、80年代的なシンセファンク、ヒップホップなど、様々なサウンドを融合させながら描く。一部、朗読も入ります。

■ジョン・クロウリー ⇒ アーロン・パークス - Little Big

現在のNYのシーン屈指のジャズピアニストで、エレクトロニカ、インディーロック好きでもあるアーロン・パークス(Aaron Parks)が2010年代末に取り組んでいるプロジェクト”リトル・ビッグ”の名前はアメリカの作家ジョン・クロウリーのファンタジー小説『Little Big』から取ったもの。

ジャズの素養もあるロック畑のミュージシャンとのバンドによる演奏を、ウォー・オン・ドラッグスなどを手掛けるエンジ二アのダニエル・シュミットやグリズリー・ベアのクリス・テイラーらとともにアーロン・パークスが手を加えるプロジェクトで、ミックスやエディットにもかなり時間をかけたポストロック的な発想のジャズ作品。ジャズ的なライブ感や生々しさとは異なるサウンドからそのタイトルの理由が聴こえてくる。

■清少納言 ⇒ ベッカ・スティーブンス - Regina

スナーキー・パピーやジェイコブ・コリアーとのコラボレーションでも知名度が上がりつつあるNYのジャズシーンなどで活動するヴォーカリストで作曲家のベッカ・スティーブンス(Becca Stevens)が2017年にリリースした『Regina』収録の「Well Loved」は清少納言『枕草子』がインスパイア源とのこと。

ベッカ・スティーブンスは日本人の作曲家Aya Nishinaが詩人の高村光太郎の詩集『智恵子抄』からのインスパイアを形にした曲でも歌っていて、日本の作家にまつわる歌が2曲あるのが面白い。ちなみに枕草子もAya Nishinaが教えてくれたそう。

■ラングストン・ヒューズ ⇒ ストゥ・ミンデマン - In Your Waking Eyes: Poems By Langston Hughes

アメリカのシカゴ出身のピアニストのストゥ・ミンデマン(Stu Mindeman)は2010年代末以降、ジャズシーンでも最も注目されているマカヤ・マクレイヴン~インターナショナル・アンセム・レーベル周りのシカゴのコミュニティのひとり。彼のデビュー作はラングストン・ヒューズの詩からのインスパイアを音楽にしたもの。全ての曲がラングストン・ヒューズの詩に対応しているとのこと。ブレイクビーツっぽかったり、アフロビートっぽかったり、様々な音楽性が入っているのが面白い。この次に発表した『Woven Threads』ではチリのシンガーソングライターでチリの民族音楽研究家でタペストリー作家で詩人のヴィオレータ・パラからのインスパイアを語っていて、テーマ設定が面白い人でもある。

■ラングストン・ヒューズ ⇒ シード・アンサンブル - Driftglass

ロンドンのアルトサックス奏者のキャシー・キノシ率いるシード・アンサンブル(SEED Ensemble)は今のロンドンの若い世代のジャズそのものでヒップホップやグライム、レゲエやアフロビートの要素が入り混じるサウンド。その中の"The Dream Keeper"、"W A K E (for Grenfell) feat. Cherise Adams-Burnett"の2曲はラングストン・ヒューズの詩に曲をつけたもの。

アーシュラ・クローバー・ル=グウィン ⇒ マーク・ターナー - Lathe of Heaven

21世紀以降のジャズに最も大きな影響を与えたテナーサックス奏者マーク・ターナーはSF好きだと度々語っている人でもある。マーク・ターナー(Mark Turner)がECMから発表した本作はアメリカの作家アーシュラ・クローバー・ル=グウィンのSF小説『天のろくろ』からとったもの。アーシュラ・クローバー・ル=グウィンはジブリがアニメ化した『ゲド戦記』の作者としても日本では知られている。「僕は変な音楽が好きだ」みたいなことをインタビューでも語るマークの音楽は一見スムースで洗練されているが、かなり複雑で入り組んだ奇妙なもの。その根底にSF小説があるとしたら納得できるリスナーも多いのでは。

ーーー

以下、後日追加します。

・Alexis Cuadrado - A Lorca Soundscape

・Sons of kemet - Lest We Forget What We Came Here To Do

・Kurt Elling - Secrets Are The Best Stories

・Manuel Valera New Cuban Express Big Band - Jose Marti En Nueva York

・Stacey Kent - Breakfast on the Morning Tram

と言った感じで文学からのインスピレーションを形にした現代のジャズもいろいろあるので、文学好きの方もたまに現代ジャズも聴いてもらえたら、嬉しいです。

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