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interview Andrea Motis & Stephan Kondert:about『Loopholes』

スペインのトランペット奏者でヴォーカリストのアンドレア・モティスはオーセンティックなジャズとボサノバのコンビネーションで人気を得ていました。1作目の『Emotional Dance』はジャズが多め、2作目の『Do Outro Lado Do Azul』はかなりブラジル音楽に寄った作品と言った感じ。

オーセンティックなジャズとボサノバの組み合わせの洗練されたサウンドとそのキュートな声が彼女の特徴。そんな音楽性だけにボサノバ人気が高い日本ではかなりファンも多く、何度も来日していました。

そんなアンドレは最初の2作をメジャー傘下のインパルスとヴァーヴからリリースした後、ドイツの名門ビッグバンドのWDRとのコラボアルバム『Colors & Shadows』をインディペンデントのレーベルから発表。メジャーから離れたのかと思っていたら、いつのまに自主でアルバムを制作。それを『Loopholes』というタイトルで発表しました。

これまでの路線はどこへやら。思いっきりエレクトリックでハイブリッドなサウンドになっていました。

でも、1995年生まれで、2022年時点で27歳。つまり、石若駿らの日本のミュージシャンよりも年下なわけですよ。そりゃロバート・グラスパーも聴いてれば、エスペランサ・スポルディングも聴いていて当然で影響を受けていない方がおかしいですよね。

というわけで大きく変わった本作ではキーボードにBIGYUKI、ドラムにグレゴリー・ハッチンソンのUSジャズ人脈、そして、ベースにはNYを拠点に活動し、ジャズ×ヒップホップなインスト・グループのRuff Packを運営するオーストリア人のステファン・コンダードが参加していて、しかも、わざわざスペインのバルセロナに呼び寄せてスタジオで録音したというのだから、本気度が伺えます。

とはいえ、やっぱり大きな変化なので驚きはあるわけです。そして、ただのジャズ×ヒップホップ風/ネイソウル系ジャズみたいなものでもなくて、少し捻りもあるわけです。どこかヨーロッパっぽさもある。そもそもカタルーニャ語で歌っている曲もあるので、そういったインスピレーションもありそう。ということで、インタビューしました。

まずは主役のアンドレア・モティス。そして、その後にプロデューサーを務めたステファン・コンダードの2本のインタビューを掲載します。ステファンはオーストリアのヒップホップ×バンドサウンドのシーンのことも少し聞いています。最後にBIGYUKIからもコメントを寄せてもらっています。ぜひ最後までどうぞ。

取材・編集:柳樂光隆 協力:MUZAK Photo by Clara Ruiz Gutiérrez

◆interview Andrea Motis

■アルバムのコンセプト

ーーアルバムのコンセプトを教えてください。

私の音楽のバックグラウンドには伝統的なジャズがあるんですが、そこに新鮮な風を吹き込むことのがコンセプトです。

ーーそのコンセプトに至ったきっかけは?

私は2世代くらい前の音楽やミュージシャンから影響を受けてきたのもあって、この音楽(=ジャズ)が好きになったのは事実ですけど、もちろん同時代の音楽にも常に関心を持っていました。

このアルバムは、私たちが現在進行形の音楽というよりは80年代から90年代にかけての音楽からのインスピレーションを主に受けていると思います。
きっかけになったのは、ベース奏者でプロデューサーのステフ・コンダードと知り合ったことです。彼はSK invitationalというバンドを率いていて、彼らはラッパーを招いたセッションを行っています。私は彼らのバンドがラッパーと共演する際に、ソロで何曲か参加させてもらったことがあるんです。その時に初めてそういった音楽を演奏したと言ってもいいと思います。そこからステフといい関係を築くことができたので、こういった制作は初めてでしたけど、彼との制作には安心感がありました。

■参加ミュージシャンについて

ーーこのアルバムでは前述のステファン・コンダードとクリストフ・マリンガーの2人のオーストリア人ミュージシャンが参加していますよね。

ステフは10年以上前からNYを拠点に活動するオーストリア人で、ジャズとヒップホップに夢中です。一方、クリストフは6年来の私のボーイフレンドで、私の息子の父親でもあります。彼は素晴らしいジャズ・バイオリン奏者で、ステフの親友で、ステフのヒップホップ・プロジェクトの一員です。つまり、クリストフはこのプロジェクトの各パートを結びつける”橋”のような存在ですね。

ーーグレゴリー・ハッチンソンを起用したのはなぜですか?

私は若い頃からグレッグに憧れていました。実は私のフェイバリットだったロイ・ハーグローヴ『With the Tenors of Our Time』で演奏しているのが彼だと気付いたのは実はかなり後のことなのですが(笑。彼はパワフルで、テイスティで、セイフティで、クリエイティブ。グレッグは私にとって一時代を築いたサウンドを持つクラシック・ドラマーになんです。


ーーではBIGYUKIはどうですか?

BIGYUKIは特別な才能の持ち主だと思います。彼はモンクのようなヴァーチュオーゾです。今回のようなプロジェクトではミニマリスティックに演奏して、音楽の本質に迫ります。ブラッド・メルドーのようなソロ、ポップスやファンクのための完璧なコンピングに聴こえるリック・・・そのすべてを彼独自のものとして奏でてしまう。彼はその曲に対して最もふさわしく、完璧だと感じさせるコンピングをしてくれます。彼はそのフレーズが存在しないとその曲に聴こえなくなってしまうような演奏を加えるのが得意だと言っていました。それこそが彼の才能だと思います。このアルバムには、初めて聴いたときは気付けないし、2度目以降でもまだ聴こえないような音がすごくたくさん入っています。細かいディテールやシンセによる特別な周波数が違いを生み出しているんです。これはBIGYUKIのアイデア。彼はこのアルバムをもう一段階上のレベルに引き上げてくれました。

■インスピレーションになったアーティスト

ーーこのアルバムに関して、インスピレーションになった作品やアーティストはいますか?

もちろん。ロイ・ハーグローブRHファクターロバート・グラスパーエスペランサ・スポルディング

あまり知られていないところだとカタルーニャ人のメリチェイ・ネッデルマン(Meritxell Neddermann)

最近よく聴いているスケアリー・ゴールディング(Scary Goldings)と彼がコラボレートしているミュージシャン

あとはロサリア(ROSALIA)などなど......ですね。

■コロンビアのクンビアをカヴァーした理由

ーースペイン人のあなたがこのプロジェクトでコロンビアのJosé Barros「El Pescador」をカヴァーした理由は?

この曲はチリで発見しました。毎年1回、生徒たちと一緒に演奏するためにチリに行くんです。ある年、他の先生がこの曲を生徒たちに演奏させるためにアレンジしてくれて、私は1週間かけて、生徒たちと一緒にこの曲に取り組みました。それ以来、頭にこびりついてしまって、何年も経った今でも、私の中にとても力強くあるんです。だから、ずっとこの曲を歌いたいと思っていました。でも、こんなトラディショナルなクンビアは絶対(これまでの私がリリースしていたような)アルバムには合わなかったんです。でも、こんな(『Loopholes』のような方向性のアルバムなら)「El Pescador」のようなパワフルな曲を演奏できるはずって思いましたし、パワフルなバックのサウンドやドラムとも相性がいいかもしれないとも思いました。みんなに気に入ってもらえたらうれしいですけど、コロンビアやチリの人たちからすると、不思議な感じに聴こえるかもしれませんね。

■ポストプロダクションを駆使したプロセス

ーーレコーディングやミックス、エディットなどに関するこだわりについて聞かせてください。

「Loopholes」を録音した後、私の(トランペット)ソロ部分のバイオリンを無くして、私だけがソロを演奏するように編集しました。その後、時間をかけて、2、3種類のソロを試してみたりしていたんですけど、ある日、バイオリンとトランペット・ソロと一緒に演奏している元のバージョンを聴き返してみたら、明らかにその方が良かったんです。だから、元に戻すことにしました。こういうプロセスで制作をしているとプロデュースについて考えすぎてしまって、別の方法を取りたくなってしまうことがあるんですよね。でも、自然に考えるようにしたほうが美しいものが生まれるんです。

「Babies」でやっている1つのフレーズをエコーのように繰り返すようなことは今までやったことがないやり方でした。制作していて何か物足りなさを感じていて、そしたら、このアイデアが偶然降りてきたんです。こんなアイデアが聴こえてくることは初めてだったので、自分でも驚きました。

あと、「Babies」のリフレインではボコーダーを使ってみたいと思ったんです。(自分の頭の中では)それはとてもクリアに聴こえていたので、やる前は実現するのがとても楽しみでした。自分の声を使って新しいことに挑戦できるのは、とても幸せなことなんですよね。完成したときは本当に夢が叶ったような気分でした。私はずっとそのサウンドを頭の中で想像はしていたけれど、実際に試したことはなかったから。でも、今ではライブでこれをどうしたらいいのかを悩んでいるところです(笑)。

ーー確かにこのアルバムではこれまでにやっていない様々なチャレンジがありますよね。

あと「I had to write a song for you」のイントロをレゲエの「Is this love」(ボブ・マーリーの名曲)にするってクレイジーなアイディアがあって、リハーサルでは様々なミュージシャンと一緒にやってみて、すごくハマっていたんですけど、レコーディングでは変更してしまったりしました。でも、いつかライブで演奏する日が来るかも。いつやるかわからないけど。

あと、ステフの曲には、もっといろいろなパートがあって、かなり長いものもあった。でも、このバンドと私のヴォーカル/トランペットが引き立つようにできるだけ短くしたり、一貫したものにするために、特に私のお気に入りの部分をピックアップして、最終的にこのアレンジになりました。

クリスの曲の一部を「Babies」のために使わせてもらったりもしています。"Now I see that you where the night, you where the day..."という部分は、もともとはクリスが書いた別の名前の曲だったんです。でも、この部分はまさにこの曲のコンポジションに欠けていたピースだと思ったので、クリスを説得して入れさせてもらって、あのような形にしました。だから、この曲の名義は二人のコンポジションになっているんですよ。

という感じでいろんなことをやっているので、このアルバムのディテールに関してなら、あなたがうんざりしてしまうくらいいくらでも話し続けてしまうので、このくらいで切り上げますね(笑)

◆interview Stephan Kondert

■Stephan Kondartの影響源

ーーあなたが影響を受けたビートメーカーやプロデューサーがいたら教えてください。

J DillaDJ PremierHitekGeorgia Anne MuldrowFlying Lotusなどのビートメーカーからは間違いなくインスピレーションを受けました。

ヒップホップ以外だと、クインシー・ジョーンズデューク・エリントンチャールズ・ミンガスセロニアス・モンク。彼らは僕が尊敬する最高のプロデューサーであり、最もフレッシュなビートメーカー/コンポーザーだと思っています。

ーーなぜ彼らにインスパイアされ、惹かれたのか、その理由も教えてもらえるとありがたいです。

私にとって最も重要なことは、オリジナリティとタイムレスなサウンドです。上に挙げた人たちは、それぞれに異なる時代に活躍した人たちですが、それぞれがオリジナルで、自分自の強いサウンドを持っていました。
僕は『Loopholes』でも同じことを実現しようとしました。クラシックで、オリジナルで、時代を超越したサウンドですね。

ーーあなたが影響を受けたベーシストがいれば教えてください。

私のベースの師匠はオーストリアのベーシスト、Adelhard Roidingerです。彼のペンタトニックハーモニーのコンセプトはジャズシーンでは伝説的で、彼の音楽アプローチはとても刺激的でした。残念ながら彼は2週間前に亡くなりましたが、私は彼の遺産とアプローチを生かし、次の世代に伝えようと思っています。

※Adelhard RoidingerはECMにリーダー作『Schattseite』を残すほか、MPSやENJAに録音多数の名ベーシスト。日本では山下洋輔や坂田明との録音でも知られる。

彼以外にも、マット・ギャリソンティム・ルフェーヴルは私に大きな影響を与えました。特に彼らがヨーロッパでツアーをしているときや私がアメリカにいるときは、できるだけ多くのベースレッスンを受けようと思っていました。二人ともエレクトリック・ベースの偉大なジャズ・プレイヤーであり、音楽全般に対して独自のアプローチを持っています。

ニュージャージー州のウィリアム・パターソン大学で勉強していたときは、素晴らしいアップライト・ベース奏者のスティーブ・ラ・スピナに師事し、伝説のピアノ奏者マルグリュー・ミラーとも親しく仕事ができて、さまざまなレベルで多くのことを教わりました。

※Steve LaSpinaは80年代のJim Hallや90年代のAndy LaVerneを支えた名手。
ステープルチェイスに録音多数

■The Ruff PackとSK invitational

ーーあなたにグループのThe Ruff Packはどのようなコンセプトだったのか教えてください。

The Ruff Packを結成したのは私とギタリストのMatt 'Pedals' Loescherです。ジャズとヒップホップを融合させるというアイデアが沢山あったので、それを形にしたかったのと、もうひとつのプロジェクトSK Invitationalはビッグバンドだってこともあってロジカルな作業が多かったので、もっとコンパクトなバンドをやりたかったというのもあります。

2010年の最初のアルバム『Introducing The Ruff Pack』は、現在Thundercatと一緒に活動しているドラマー、Justin Brownと一緒に作りました。その後、Jack WhiteのドラマーであるDaru Jonesがバンドに加わり、彼との最初のレコーディングはライブDVD『The Ruff Pack live @ LOOP Vienna』に収められています。ダルと私たちは7年の間、共にツアーを行いました。今はドラマーのCharles Haynesと一緒に仕事をしています。

ーーさっきも名前が出たSK invitationalはどんなプロジェクトですか?

私は、オーストリアのリンツにあるアントン・ブルックナー大学での最終リサイタル・コンサートのためにビッグバンドを始めました。私は大きな編成のプロジェクトのために作曲することが好きだったし、オーストリアの音楽シーンで活動していた友人たちをひとつのプロジェクトで繋げたいとも思っていました。

セルフタイトルのファースト・アルバム『SK invitational』は、ドラムンベースとヒップホップの影響を受けた音楽が多く含まれています。コンセプトはたとえそれがプログラムされたように聴こえるものでも、すべてをライブで生演奏することでした。全ての曲は私自身が作詞・作曲・編曲したもので、ジャズやヒップホップの世界とはまた違った制作や作曲の機会がたくさん生まれました。

2枚目のアルバム「Raw Glazed」と3枚目の「Golden Crown」では、ドイツ、オーストリア、イギリス、アメリカの有名なラップアーティストやシンガーをフィーチャーしていて、M.O.P.Sadat XHomeboy SandmanTYBlumentopfTextaBlak TwangPhatkatThe Real Live Show..... など、ドイツ、オーストリア、イギリス、アメリカの有名なラップアーティストやシンガーが参加してくれました。

ーーSpotifyであなたの様々なプロジェクトを聴きました。あなたがオーストリアにあるジャズとヒップホップが融合したシーンで様々な活動をしていることを知りました。オーストリアのこのようなハイブリッドな音楽シーンでのあなたの活動について教えてください。

オーストリアのラップグループのパイオニアであるTextaのFlipと初めてコラボレーションした後、オーストリア、イギリス、ドイツの多くのアーティストが、通常のDJセットアップの代わりに、私と一緒に仕事をしたい、SK Invitationalのサウンドをバックに演奏したいと言ってきました。

そのようなラップグループは通常はDJとプレイするので、ドラムセット2台を持つ20人編成のビッグバンドが自分たちの曲を演奏することに彼らはとても興奮していました。私はいつもアレンジを細かく調整し、ラッパーたちが既知のDJと同じようにサポートできるようにしました。

Textaと仕事をした後、FivaBlumentopfMono&NikitamanNazarYasmoLylitといった(オーストリアやドイツの)アーティストが、ツアーやプロダクションにビッグバンドを起用するようになったのです。

ラップに関しては、常にアメリカに注目していました。ラップの発祥の地であり、ベストの中のベストが生まれる場所ですから。M.O.P.との仕事は間違いなく最大のハイライトでした。

オーストリアには、SK InvitationalThe Ruff Packに触発された才能ある若いミュージシャンがたくさん出てきています。自分の国の新しいシーンに影響を与えることができ、彼らが音楽界の別のコーナーに進出できるようなプラットフォームを提供できていることがとても誇らしいことです。

■ソロアルバム『SKxAngelite』

ーーソロアルバム『SKxAngelite』は、様々な音楽的要素が混ざり合ったアルバムです。このアルバムのコンセプトについて教えてください。

The Bulgarian Voices - Angeliteと働くことは、この素晴らしい女声合唱団を初めて聴いたときから、私の夢でした。ブルガリアの民族音楽は、私がこれまで感じた中で最も強烈で感動的なサウンドの一つであり、これをどのように別の音楽の場に持っていき、私の音楽の世界に統合するか、すぐに多くのアイデアが浮かんだのです。

彼らのマネージメントからブルガリアの伝統的な曲を使って仕事をする許可を得たとき、私はそれに全力を尽くし、可能な限り最高のアルバムを作ろうと思いました。

このプロジェクトに参加したミュージシャンには、マイルス・デイビス、スティング、マーカス・ミラー、そして多くのワールドミュージック・プロジェクトで演奏してきた伝説のパーカッショニスト、ミノ・シネリを含む、スペシャルなメンバーです。

また、キーボードにはThe RootsRay Angry、ドラマーにはAnwar Marshallを迎え、NYのパワフルなエネルギーとオリジナリティにあふれた演奏を聴くことができます。ハング・プレイヤーのManu Delago (Bjork)、Matt Pedals Loescher (Lauren HIll, Talib Kweli, Busta Rhymes,...) とバイオリニストのChristoph Mallingerは、この親密な制作を可能にした素晴らしいミュージシャンです。


私は、良い音楽は様々なスタイルで演奏することが可能だと思います。SK X Angeliteは、私のバージョンのブルガリア音楽と言えると思います。

■プロデューサーStephan Kondartが語る『Loopholes』

ーーアンドレア・モティスから、あなたの『Loopholes』への貢献が非常に大きかったと聞きました。ベーシストとしてだけでなく、プロデューサーとしても参加されたわけですが、『Loopholes』プロジェクトはどのようなプランを持っていましたか?

私は、アンドレアと一緒に、彼女のジャズにおける素晴らしい歴史を象徴するような音楽を作り、彼女のために別の音楽的な道を開く手助けをしたいと思いました。そして、アンドレアは繊細で多才なミュージシャンであると同時に、強くパワフルで愛情深い母親でもあるのです。私は『Loopholes』のレコードによって彼女のそういった様々な側面の全てを捉えようと考えました。

私たちは一緒に曲を書き、彼女が感じ、聴衆と共有したいと思うグルーブやヴァイブを探しました。また、ポップ、ファンク、ヒップホップのジャンルから他の聴衆にアプローチすることも重要でした。

バルセロナで行われたレコーディング・セッションには、伝説のドラム奏者Greg Hutchinsonと唯一無二の鍵盤奏者BigYukiを迎えました。ミュージシャン同士の相乗効果はすぐに現れ、曲を試した瞬間にこのアルバムが特別なものになると全員が確信しました。

ーーなるほど。

ポストプロダクションでは、個々の曲のエッセンスを強化し、ジャンルにとらわれずにアンドレアを輝かせることに気を配りました。アンドレアは強い声とトランペット奏者としての強いヴォイスを持っていて、それはあらゆる種類の音楽スタイルと組み合わせることができるものです。彼女の伝統的な側面をすべて活かしながら、同時にそれを現在のサウンドに活かすことが重要でした。この作品は、これまでの彼女の作品の中で、最もパーソナルで親密な音楽になったと思います。

ーーアルバム『Loopholes』の中でプロデューサーとして、あなたはどんなことをしたのでしょうか?

このアルバムでは特別なことをたくさんやっています。作曲のプロセスからして、すべての曲で異なるやり方が行われています。制作面では、このアルバムの冒頭にある「Overture」「Pescador」に顕著ですが、アンドレアの声のためにできるだけ多くのスペースを残すために、できるだけ音を削ぎ落しています。彼女のヴォイスとファースト・メロディを捉えられないことは耐え難いことですよね。

ーーベーシストとしてはどうですか?

まさか「Jungla」のようにベースコードだけの曲を作るとは思ってもいませんでした。アンドレアはこの曲から感じ取ったものを取り出して歌うことでアナザーレベルに引き上げてしまいました。特にブリッジでは、彼女の美しい声がとてもユニークに表現されています。また、フラジオレッツ(=
=ハーモニクス)のトラックをオーバーダビングして、さらにベースサウンドの層を厚くしたりもしています。

「Heat」にはデチューン(※チューニングを意図的にずらした)されたベースが聴こえます。こういうのは楽しいですけど、演奏するのは難しいですよね(笑)

◆interview BIGYUKI

■BIGYUKIが語る『Loopholes』

このアルバムはステファンがプロデューサーを務めています。彼はruff pack ってバンドで、昔はダルー・ジョーンズ 最近はチャールズ・ヘインズCharles Haynes 入れてやっています。そのステファンが彼がバンドも編成して 俺に白羽の矢がたちました。

レコーディングはグレッグ・ハッチンソンも含めてみんなでバルセロナのスタジオで連日集まって録りました。ピアノとローズはグレッグも入れたバンドで一緒に演奏して録りました。その時点でみんなハッピーだったんですけど、次の日にキーボードのオーバーダブがあって、その時にモーグやオルガン、シンセを色々入れて、かなりアイディアを出したのを覚えています。ステファンからは”アンドレアが今までとは違うテイストの作品作りたがっていて、そのためにはYukiのサウンドがばっちりなんだよ”って言ってくれていて、基本的に俺のアイディアをすごく尊重してくれました。曲はアンドレアとステファンとマリで作っていて、音楽性や曲のイメージは既にしっかりあったから、やりやすかったです。イメージはしっかりあるんですけど、音楽的にすごいオープンだから、やってて楽しかった。

そもそもステファンはヒップホップ・オタクで、ジャズも超好きで、ずっとNYのジャム・シーンにいるので音楽的嗜好も似てますから。それにruff packのギターのMattはローリン・ヒルのバンドとかで一緒だったりもします。あと、エンジニアもベルリンで活躍する人で、彼とマリとステファンはみんなオーストリア出身で、その友情関係・信頼関係がすごくあったのも感じました。

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