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「上原ひろみ 全米ビルボード・ジャズ・チャートで一位」について考えた海外/日本とか、洋楽/邦楽のこと

1月ごろリリースされた上原ひろみ『Spark』全米ビルボード・ジャズチャート1位記念ということでREAL SOUNDから依頼されて、上原ひろみについての論考的なものを初めて書きました。上原さんのすごさなんて、書けること山ほどあって、いくら字数があっても足りないので、要点をかいつまんで書いてみました。是非、読んでもらえると嬉しいです。
➡ 上原ひろみはなぜ世界のトップ・プレイヤーであり続けるのか? 

そういえば、上原ひろみって、もともと日本のジャズカルチャー的な聴き方に当てはまらない特殊なミュージシャンだ。誰の門下で、誰の影響下、誰の系譜、誰っぽいスタイルみたいなジャズマニア=ジャズ喫茶的なやり口で語りづらいピアニストだ。つまり、「現代の○○」とか「和製○○」とかそういう安易な煽りが使えない人。そのオリジナリティこそが成功の最大の要因なんだけど、そこが逆に日本のジャズリスナー泣かせの要因になっていたといえる。ここまでの大物なのに、インタビュー記事はウェブ上に沢山あっても彼女についての論考めいたものが、ほとんど存在しなかったのもそんなところに理由があるんだろうなと思った。彼女はインタビューでも影響源とか元ネタとかを全然喋らないしね。音を聴いて耳で判断して書くしかないのも、論考を書くハードルが上がってる理由なのかもね。

あと、今回、自分で記事を書いてみて気付いたことなんだけど、上原ひろみに関しては、クールジャパン的な文脈に全く当てはまらない人なんだよね。そもそも彼女の音楽の中には日本的な何かみたいなものが存在しない。(逆輸入的に)日本で売ろうって意図もないだろうし、逆に日本発のオリエンタルなものとして世界に売ろうという気もないだろう。そういう自分の出自的な部分を全く押し出さずにどこにもない自分だけの道で勝ってしまった。しかも、音楽のすごさだけで勝ってしまった。この驚異的な事実も、メディアが彼女について語るのを少し難しくしているのかもしれない。(例外的に<さくらさくら>をやってるスタンリー・クラーク・トリオ名義の『Jazz In The Garden』ってのがあるけどね。)

全米のチャートで一位になってもその事実を《現象》として分析することが不可能で、《音楽》を語らなければならない。それこそクールジャパン云々の話もそうだし、ガラパゴス云々の話もそうだし、音源の売り方や活動形態なども含めて、市場分析や、社会学的な分析が入り込む隙が僕には見当たらない。彼女はとことん《音楽》の人なんだよね。それに気づいてから、上原ひろみって別の次元にいる人なんだなとの思いを、更に強くしたり。

でも、ちょっと考えてみると、これは今、USで活躍してる日本人ジャズミュージシャン全員に言えることだなと。「日本人であること」と関係ないところで勝負している。これはジャズっていう音楽がフラットに参加できるフォーマットだから、というのもありますが。彼らの存在を音楽でなく、現象として捉えることは難しいなと。(※唯一、現象として語れるとしたら、以前も書いたけど、音楽大学への留学についてとかかなぁと ➡ バークリー音楽院という<場所>:リオネール・ルエケが言っていたこと )

僕が今、すごく楽しいのは、日本人のジャズミュージシャンが、当たり前に世界の最前線にいること。そこには洋楽とか邦楽とかの線引きはなくて、完全にフラットに、ロバート・グラスパーやブラッド・メルドーやエスペランサ・スポルディングと同じ土俵同じ物差しで彼らの音楽を聴くことができる。もちろん、それは辺境扱いでもないと。

つまりそれはスポーツの世界と同じなのかもしれない。ダルビッシュや香川真司や錦織圭が活躍しているのと同じように、僕は上原ひろみや黒田卓也の音楽を聴いて、語ることできる。しかも、彼らは日本人なので、世界の最前線で戦う人の話を日本語で簡単に聞けてしまう。彼らの言葉をありのまま受け取ることができる。こんな楽しいことはない。僕のワクワク感はそんな感じなんですね。

ちなみに、上原ひろみ、黒田卓也以外にも、世界で活躍している日本人ジャズミュージシャンは今、たくさんいるんですよ。


グラミー賞を二度も受賞している現代ジャズ屈指のバンド、スナーキー・パピーのメンバーでもあるパーカッショニスト/ドラマー 小川慶太

NYでもファーストコール、誰もが認める世界屈指のベーシスト 中村恭士(※唐木元さんがバークリィに留学するきっかけになった人でもある ➡ ROOTSY)、

ホセ・ジェイムズやユリシス・オーウェンスJrと活動。オーセンティックからクロスオーヴァーまで何でもいける鍵盤奏者 大林武司

グラミー賞受賞の現代最高のジャズボーカリスト、グレゴリー・ポーターのバンドの中核でもあるサックス奏者 佐藤洋祐

ストリングスを組み込んだ世界のどこにもない斬新なサウンドを武器にUSのラージアンサンブル/ビッグバンド・シーンで活動する作曲家 挾間美帆
※挾間美帆、米・ダウンビート誌「ジャズの未来を担う25人」に選出 ➡  http://realsound.jp/2016/06/post-8107.html

Qティップやビラル、タリブ・クウェリ、更にマーク・ジュリアナやマーカス・ストリックランドまでもが重用するUSシーンの最先端で活動する鍵盤奏者 BIGYUKI(平野雅之)


などなどがいる。

他にも、アーロン・パークスやグレッチェン・パーラトとの作品でも知られる阿部大輔、少し上の世代でもウィントン・マルサリスにも起用される中村健吾、ケニー・バロンやブライアン・ブレイドとの作品でも知られる北川潔、ソーミなどのバックも務めるピアニスト百々徹など、実は日本人のジャズミュージシャンはめっちゃクチャ活躍してるんですよね。

個人的には、洋楽とか邦楽とか分けて考えるのもめんどくさいし、海外でも通用するだのしないだの世界レベルだのどうだのみたいなのを勝手に国内で妄想して強弁したりするのもめんどくさいし、みたいなのがある。インターネットで世界が繋がってるんなら、全部フラットに見ちゃいたい。そういう自分にとっては、日本とか邦楽とかってくくりで考える必要のない今のジャズシーンは面白すぎてしょうがない状況なのです。

ちなみにテレビ朝日の報道ステーションがNYで活動する黒田卓也、中村恭士、小川慶太、大林武司、馬場智章のスペシャルバンド J Squad によるテーマ曲「Starting Five」を採用。上原ひろみに続き、彼らの活躍が日本にもっと知られるきっかけになるといいなと思います。

 ➡ http://www.tv-asahi.co.jp/hst/opening/

※参考

上原ひろみはなぜ世界のトップ・プレイヤーであり続けるのか? 

 ➡ http://realsound.jp/2016/04/post-7212.html

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