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interview Aaron Parks Little Big 2019:6年の構想を経てリリースした『Little Big』のこと

2019年の10月、アーロン・パークスが自身のプロジェクト「リトル・ビッグ」名義で来日し、コットンクラブでライブを行った。

Aaron Parks (p) Greg Tuohey (g) Jesse Murphy (b) Tommy Crane (ds)

2008年に名盤『Invisible Cinema』をリリースした後、ECMと契約し、ソロピアノの『Arborescence』とピアノトリオの『Find The Way』を発表した。『Invisible Cinema』にはハイブリッドな要素もあり、その後のシーンにも影響を与えた傑作だったが、そこから自身の名義ではピアニストとしての活動に軸足を置いていた。

アーロン・パークスはインディーロックやエレクトロニカ好きとしても知られていたので、その側面を出すのを待ち望んでいたファンも少なくなかったはずだ。

そんな中、実は水面下でアーロンは『Invisible Cinema』に続くもの、『Invisible Cinema』を更に推し進めるものを地道に準備していた。それがようやく形になったのが2018年の『Little Big』だった。

そんなアーロンが『Little Big』のプロジェクトで2019年に来日した際に僕はインタビューを行っていた。事情がありお蔵入りしていたのだが、2024年、リトル・ビッグの3作目『Little Big Ⅲ』がリリースされたのを機にここに掲載する。リトル・ビッグがどんな経緯で生まれたプロジェクトなのかをしっかり聞いている。

ちなみに『Little Big Ⅲ』のインタビュー記事はRolling Stone Japanに掲載されている。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:渡瀬ひとみ | 協力:コットンクラブ


◉『Invisible Cinema』と『James Farm』

――今日は『Little Big』について聞きに来ました。

この『Little Big』のストーリーは日本で始まった。たしか2005年のエリック・ハーランドのグループでのツアーだったはず。彼はマット・ペンマンカート・ローゼンウィンケル、そして僕とのグループで日本全国をツアーしたんだ。それは僕がカートと初めてプレイしたツアーだったし、ギターとピアノのカルテットで演奏するのも初めてだった。そのツアーのために僕が書いた曲があって、それをギターとピアノの組み合わせで聴くようになったら、そのサウンドに惚れ込んでしまった。だから、そのツアーは僕のキャリアにとってものすごく重要なものだった。その後、僕がカートのバンド(※2012年の『Star of Jupitar』)で演奏するようになったきっかけでもあったから。それにエリック・ハーランドとマット・ペンマンとやったこともね。

その後、彼らとは『Invisible Cinema』をレコーディングしたし、そのリズムセクションとジェームズ・ファームもやった。だから、あのツアーは、このツアーからたくさんのことが生まれたんだ。(※Office Zoo主催のツアー)

――日本でのツアーが全ての始まりだと。

『Invisible Cinema』は2008年。その後10年間『Invisible Cinema』っぽい音楽はリリースしていなかったんだけど、ずっと取り組んではいたんだ。つまり、ギターとピアノが一緒になった音楽は作り続けていた。フュージョンではなく、きちんと混ざり合ったもの、深い感覚のものが欲しいと思っていたからね。だから、『Little Big』に辿り着けてとてもうれしかったし、すごく楽しいんだ。

――さっきも名前が出ましたが、ジョシュア・レッドマンによるジェイムズ・ファームにあなたは参加していましたよね。

ジェイムズ・ファームに関してはジョシュアが僕を誘ったんだ。彼は『Invisible Cinema』を聴いて、僕と一緒にバンドをやりたいと思ったみたい。だから、当初は僕たち2人でバンドをリードするって考えだった。でも、僕はエリック・ハーランドの音楽が大好きだったし、マット・ペンマン『Catch of the Day』でも一緒にやってマットの作曲が好きに鳴っていた。だから、ジョシュアにはふたり主導のバンドではなく、4人全員が音楽を提供する「本物のバンド」にしようと提案したんだ。そもそもエリックとマットと僕の間には、僕らならではの化学反応があった。それにジョシュアもふたりとはよく共演していた。それら全てを組み合わせてバンドの音楽をやろうとしたんだ。

◉リトル・ビッグのコンセプトが固まる過程

――なるほど。『Invisible Cinema』がきっかけでジョシュア・レッドマンのプロジェクトが生まれたと。その後、『Little Big』が出来上がるまでにはどんなことをやっていたんですか?

何度もリハーサルをやっていたんだ。『Little Big』に収録されているいくつかの曲のバージョンを録音してる。

まず2012年にいろんな人たちと組み合わせてリハをやった。レギュラー・ドラマーのトミー・クレインは、その時のレコーディングの一部に参加していたんだ。他にはデイナ・スティーヴンスチャールズ・アルトゥーラマット・ブリューワーRJ・ミラーネイト・ウッドベン・ストリートなどなど。どれも素晴らしかったんだけど、でも、どこか物足りなかった。優れたミュージシャンが僕の曲をすごく上手く演奏しているなって思ったけど、優れたミュージシャンの組み合わせ以上のものにはなっていなかったから。それに「ジャズミュージシャンがロックの曲を演奏しようとしているもの」みたいにも感じたんだ。それはそれで素晴らしかったんだけど、僕が思い描いていたものとは違っていた。

――なるほど。

それから2年後の2014年にもまたリハをやったんだ。ジャズの経験があって、様々なジャンルを演奏できるけど、ロックバンドで演奏した経験が多いミュージシャンを集めたんだ。

ギターのグレッグ・トゥーイー、デンマークのベース奏者のアンダース・クリステンセン、そしてイギリスのドラマーのダレン・ベケットだね。何度もリハをやったら、僕らは何かを見つけ始めたし、実際クールだった。しかも、楽しかったんだ。でも、最終的には2012年のリハの逆方向に行き過ぎた気がしたんだ。僕が書いた曲を、僕が書いたパートをみんなが演奏してくれるんだけど、やっぱり生々しい即興が恋しくなってしまった。その時に「これは始まりに過ぎないんだな」って気づいたんだ。

2回目のセッションよりももっとエネルギーが必要だったんだ。それで、僕はもう一度、考えた。それで2回目のセッションからギタリストのグレッグ・トゥーイを連れてきて、最初のレコーディングからドラムのトミー・クレインを連れてきた。そして、バンドにとってのパズルの最後のピースはベーシストのデヴィッド・ギンヤードだってわかった。

――そこで固まったんですね。

デビッドことDJとはNYでテレンス・ブランチャードEコレクティブにサブとして参加していたときに出会ったんだ。僕もデビッドも両方ともサブだった。僕はファビアン・アルマザンのサブで、デヴィッドはジョシュア・クランブリーのサブだった。でも、デヴィッドは今やテレンスのバンドのメインのベーシストになったんだ。2015年の12月だったか、2016年だったか正確には覚えていないんだけど、グレッグ、DJ、トミーと一緒にNYで演奏したんだ。その時、ここには何かあるなって感じたんだ。すべてのエネルギーが一緒になって、ひとつのものになれるんじゃないかって思った。

◉ポストプロダクション前提の制作のこと

――では『Little Big』を作り始めたときのプロセスを聞かせてください。

『Little Big』の制作において非常に重要だったのは、ふさわしいエンジニアとスタジオを見つけることだった。ドラマーでラッパーのカッサ・オーヴァーオール(Kassa Overall)を知ってる?彼はシアトル時代からの友人なんだ。彼はブルックリンのストレンジ・ウェザーというスタジオでいくつかのアルバム(『Go Get Ice Cream And Listen to Jazz』など)を作っていて、僕はそのサウンドに衝撃を受けたんだ。特に印象に残ったのはドラムの音。そのスタジオで録ったドラムのヴァイブスが気に入ったんだ。エンジニアは人柄も良かったし、エフェクトを試す際にも作業が早いし、気配りもできた。彼の名前はダニエル・シュレット。僕はそこでダニエルとレコーディングしたいと思ったんだ。

――カッサのおかげでスタジオが決まったと

でも、そのスタジオには4人で同時にレコーディングできるようなアイソレーション・ブースがなかったのは課題だった。

そして、DJとトミーが揃う日程が見つかったんだけど、グレッグはどうしても調整が付かなかった。グレッグは僕と一緒にリトル・ビッグの音楽を最も長く演奏しているから欠かせない。でも、その時に最も重要なことはこれまでの自分のアルバムとは異なる方法で録音してみようって思ったんだ。だったら、スタジオを楽器としても使用したいなと思った。だから、2017年の5月だったと思うけど、トミーとDJとの3人ですべての曲を録音したんだ。そして、その5月のテイクのそれがいいかを決めて、その後、7月にグレッグをスタジオに呼んで、オーバーダビングをしたんだ。彼が僕らと実際に演奏しているように感じさせたかったから、後から編集も施した。完璧になりすぎないようにすごく慎重に編集したんだ。その出来に僕はすごく満足してる。ピアノとギターのインタープレイがとても自然に感じられるからね。

――なるほど。ポストプロダクション前提で作ったと。

『Little Big』の際に編集や制作をすべて行うことで、自分たちのバンドの理想的な鳴らし方がわかってきた。ある意味では、『Little Big』は僕らのバンドが鳴らすことができるサウンドのスナップショットのようなもので、そこでのピアノとギターの間の流れに関するテンプレートのようなものも作ることができたんだ。

――リトル・ビッグのひな形ができたと。

そして今、僕らは『Little Big』を録音してから2年が経った。今、僕たちはあのレコードでやったことをライブの場で実現できるようになった。むしろ、レコードでやっていたことよりも良いと思う。オーガニックなバランス感覚があるんだ。それは素晴らしいソロを取る必要はないって感覚だね。個人の演奏にフォーカスするんじゃないんだ。演奏者が自分のできることをすべて見せることではなくて、もっと集団的なグループとしてのサウンドを奏でること、それにより人々を別の世界に連れていることが大事だと思うんだ。できればリスナーにはただ夢中になっていてほしいし、音楽には催眠術のような感じであってほしい。ストーリーテリングのような感じが欲しいし、リスナーには僕らが創造している世界に身を委ねてそこに浸ってほしいと思う。僕らが目指すのは、自分たちが創り出している世界にリスナーを招待することなんだ。

――「バンド」として「リトル・ビッグの物語」を演奏することと言いますか。

僕がどれだけクールな演奏をするか見てくれって思わせる必要はないってことだね。僕らのバンドがそんな音楽を演奏できるようになって、興味深いことにふと気づいた。ライブで観客がソロの後、いつ手を叩けばいいのかわからない状態になっているんだ。なぜなら、ソロがメロディーに溶け込んでいるからね。だから、僕らのライブに関しては、ソロがいつ終わるかわからなくてもいいし、ソロのための拍手も必要ないんだ。ただ、音楽の流れに身を任せてくれればいい。曲の終わりになったら、個々のソロに注ぎ込んだであろうすべてのエネルギーを僕らに向けてくれたらうれしい。

◎ストレンジ・ウェザー・スタジオでの作業について

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