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まつげも凍るフィンランド

 「とんでもないところに来てしまった」。空港から一歩外へ出て、そう思った。大学卒業を間近に控えた2月。卒業旅行の最初の目的地はフィンランドだった。

氷点下の世界

 卒業旅行は、フィンランドとイギリスの二都市周遊プランを選んだ。大学のクラスメートでこのnoteのメンバー、NorikoとMihokoと一緒に行った初めての海外旅行だ。誰がフィンランドに行こうと言い出したのか覚えていないが、私でないことだけは確かだ。海外旅行はまだ二度目、初めてのヨーロッパだった。

 成田発のフィンエアーで、フィンランドの首都ヘルシンキへ向かった。空港に着き、国内線の飛行機に乗り換えるため屋外へ出た。一歩外へ出た途端、「とんでもないところに来てしまった」と思った。足元には雪が積もり、寒さに震え上がった。「激寒!」と書き残しているほどで、写真の中の私の顔は引きつっている。

 飛行機を降りると、北極圏に到達。その日はロバニエミという町に泊まった。翌朝、外を見ると、一面まさに白銀の世界。朝食の後、外へ出てみた。気温はマイナス23度。まつげが凍り、鼻の穴まで凍る。ホテルは川のそばにあり、川沿いの道を歩くことができた。木々はまっ白な氷の花を咲かせ、川からは水蒸気が立ち昇る。九州出身の私には、今まで経験したことのない寒さだった。

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サンタクロースが目の前に

 「サンタクロースの故郷」をうたう国はいくつかあるが、フィンランドはその代表格。私たちはサンタクロース村で、絵に描いたようなサンタクロースと対面した。赤い帽子に赤い服、つやのあるクリーム色の長い髭は、くるくるとカールしている。やさしい目でにっこり笑うサンタクロースと、順番に写真を撮った。サンタさんを前にすると、大人だってワクワクしてくる。私たちも、満面の笑みになっていた。

 サンタさんと会った直後だが、この日のランチは、トナカイ肉のステーキ。コケモモの甘いソースが添えられていた。ここから私たちはバスでさらに北、ラップランドと呼ばれる地域へ向かう。英語が堪能なMihokoは運転手さんに呼ばれ、まるでバスガイドのように、前方の席で延々と英語の説明を訳し続けていた。

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 その時の話で、「オーロラが現れる確率は三日に一度」という言葉があったと思う。私たちは、オーロラの出現を期待しながら、サーリセルカという村で4泊5日を過ごした。

空に揺れる緑のオーロラ

 夕食は、ホテルの部屋で、スーパーで買い込んだ食材を広げた。スモークサーモン、パン、チーズ、ヨーグルトにフィンランドのビールやサイダー(リンゴ酒)。順番に外へ出て、オーロラが出ていないか様子を見る。お酒に弱かった私は、途中でダウン。横になってうとうとしていたが、次は私の番だと起き上がり、部屋を出た。すると、頭上にオーロラらしきものが!

 急いで戻り、部屋の鍵を開けるのも面倒で、ドアをドンドン叩き、中にいる二人に向かって、「オーロラだよ!」と叫んだ。直前まで寝転んでいたので、初めは二人とも私の言葉を信じてくれなかった。酔って幻でも見たのだろうと出てきた二人も、夜空に現れた光を見て、慌ててカメラを取りに戻った。

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 オーロラは緑や赤などの色があるが、私たちが見たのは緑のオーロラだった。まるでカーテンのように、緑の帯がゆらゆらと揺れる。私もシャッターを切ってみたけれど、露出の設定もできないようなコンパクトカメラでは、何も写っていなかった。写真が趣味のMihokoが、見事にオーロラの姿をカメラで捉えた。

 オーロラを目にしたのは、この日が最初で最後。まさに三日に一度の確率という話通りだった。

トナカイぞりで遭難の危機?

 滞在中は、旅行会社のオプショナルプランを利用して、フィンランドならではの体験をした。トナカイぞり体験では、ラップランドの先住民族、サーミ人の男性がそりに乗せてくれる。トナカイ1頭が一人用のそりを引く。私は目の下までマフラーをぐるぐる巻きにして覆い、子どものころにかぶっていた毛糸の帽子を深々とかぶった。ガイドさんから、氷点下の世界では、帽子は必須だと教えられていた。

 最初はみんなのそりをロープでつなぎ、連なって移動する。しばらく進んでからロープをほどき、一人と一頭になる。ところが私のそりを引くトナカイは気分屋で、途中でまったく動かなくなった。みんなはどんどん先へ行き、私は雪の中に一人、ポツンと取り残された。だんだん不安になってくる。やがてそり使いのおじさんが雪の中を戻ってきてくれたので、手を振って合図した。

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 無事帰り着き、テントであたたかいベリージュースを飲み、ほっとした。私を遭難の危機に遭わせた気まぐれトナカイに苔をあげる。個性的な子だったらしく、トナカイぞりを操る男性の奥さんが、やさしくトナカイを撫でていた。

 当時の記録を見ると、この後、私は腹痛と熱で苦しんだらしい。体が冷えたからだろうか。夜にはサーミ人のご家庭を訪ねた。帰りにMihokoが車酔いをし、ホテルのバーでひと休みした。私は黄色いベリーの入ったお酒を飲んだ。酸っぱいベリーを食べてビタミンをとるらしい。Norikoは強いからと止められながらもフィンウォッカを注文。「日本酒みたい」と大いに気に入っていた。

サウナにスキーでフィンランドを満喫

 クロスカントリースキーにも挑戦した。ツアーに偶然、同じ大学の大学院生のグループが参加していて、一緒に回った。途中、ヘルシンキから来ていた女性に道を聞いたところ、親切にずっと案内してくれた。私は運動が苦手なので、一生懸命ついて行こうとするのだが、どんどん遅れてしまう。坂道になると、なかなか登れない。満面の笑みを浮かべた二人の間に、小さく私が写った写真が残っている。

 この旅では順番に誰かが風邪をひき、熱を出した。最初に風邪をひいたのは私かもしれない。ようやく治ってきたので、ホテルのスパへ。本場フィンランドのサウナも体験した。

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 こんなに雪の多いところは初めてで、旅行前に北海道出身の友人に、雪の上での歩き方を教えてもらった。降り積もった深い雪を踏みしめながら歩いていると、雪の中に、ニョッキリとお店の看板が立っているのも珍しかった。

 最後にヘルシンキで1泊し、凍った海を生まれて初めて見た。屋外マーケットでは、野菜や果物、アクセサリーや石で作ったトロル(妖精)の人形などが売られていた。フィンランドはコーヒー消費量が世界一と聞き、カフェではコーヒーとベリーのタルトを頼んだ。

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 旅行中、ラズベリーやクランベリーなどのベリーを使ったお菓子やジュースをよく見かけた。温めたベリージュースは初めてだったけれど、甘酸っぱくて大好きになった。ガイドさんの話では、フィンランドの人たちは夏になるとベリー摘みを楽しむという。いつか夏のフィンランドも体験したいと思いながら、まだ実現できていない。

(Text:Shoko, Photos:Mihoko,Shoko,Noriko)  ©︎elia



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