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#13-2 嘘

 学校から帰ると、祐二は居間でタブレットのスイッチを入れ、床に並行になるように置いた。筋トレ動画がアップロードされるのはそろそろだ。二週間前、初めてアップロードされた映像で、筋トレについての概要が説明された。映像は、中岡監督が内容を説明し、萩中コーチが実演をする形で進む。

 「最初の2週間は自重でのトレーニングがメインのため、自宅や公園など、スペースを見つけて行って下さい。2週間を過ぎたら、ジムに通ってもらいます。ジムに関してはCyber FCにスポンサードしていただいている、everytimeフィットネスさんにご協力いただいています。皆さんのお住まいを調べると、遠くても10km圏内にeverytimeフィットネスさんがあることがわかっています。正規のお値段よりも格安で使用させていただける契約です。もちろん、残りの会費はこちらで負担致します。ただし、このことに関しては他言がないようにご注意下さい」

 トレーニングジムを無料で使えることに気持ちは高まった。ジムに通うというだけで、少し大人になった気がするからだ。おまけに、最新式のAIパーソナルトレーニングジムだ。マシンが一人ひとりの筋力量や筋肉の可動域を測定し、最適な負荷量を提案してくれる。さらに、高度なセンサーが搭載されたカメラによる画像認識技術で、どんな動作をしているかを認識し、フィードバックをもらうことができる。トレーナーを横につける必要がないのだ。

 「次の2週間に進んだら、ジムでトレーニングを始めてもらいます。最初の6週間は、筋肥大を目的としたトレーニングです。デッドリフト、スクワット、ベンチプレス、フロントプレスを行い、最後に懸垂をします。重量は最大反復回数の65~80%、回数は8~12回、レストは1~2分、頻度は週2~3で行って下さい。AIパーソナルマシンのデータでもおおよそ同じような内容が出てくると思います。次の4週間は、最大筋力を向上させる目的で行います。重量は最大反復回数、1RMと言いますが、1RMの90%の重量、回数は3~5回、レストは3~5分、頻度は週2~3回で先ほどのメニューを行って下さい。大会まで1か月に迫ったあたりから、負荷量をコントロールした別のメニューを提供します」

 詳細なメニューとともに、上下動のランニングに関する体力や、試合中のスプリントに課題がある祐二には、中岡から個別のメニューが提示された。

 「サッカーで必要な持久力を間欠的高強度持久力と言います。有酸素も無酸素もどちらのエネルギー系も使用し、ダッシュとランニングを繰り返しながら90分間動き続けられることが目標です。この能力が高まれば、祐二くんの秘めたる才能が発揮されます。それらを向上させるトレーニングとしては、Repeated Sprint Training、つまり、反復スプリントトレーニングが必要です。一回の運動が6秒以内のスプリント、直線でいうと40m以内ですね、40mスプリントは20mで折り返しを6本×3セット、本数間休息20秒でセット間休息は4分。20mスプリントは7本×3セット、本数間休息10秒でセット間休息3分を継続して行ってください。もちろん、ボールのトレーニングは欠かさずに、オフの翌日は行わないようにしながら、能力を向上させていきましょう」

 ここまで専門的に、詳細に、自分の身体のことについて教わったことも考えたことも、祐二にとっては初めてのことだった。「自分の秘めたる才能?」そんなものが本当にあるのかと、疑わしい気持ちを持ちながらも、悪い気はしなかった。明日からついにジム通いだ。惰性で2週間続けてきたが、ジムに通えばモチベーションはきっと維持されるだろう。

 そんなことを考えていた時だった。祐二の耳にPINEの通知音が届き、そこに表示されたメッセージにはアユミからの短い言葉が書かれていた。


 
 「嘘だったの?」



【著者プロフィール】

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映画監督を志す小説家。日本が初出場を果たした1998年のフランスワールドカップをきっかけにサッカー強豪国の仲間入りを果たすためのアイデアを考え続けている。サッカーとテクノロジーが融合した物語、 11G【イレブンジー】は著者の処女作である。

Twiiter: https://twitter.com/eleven_g_11

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