見出し画像

no.33 実現 ― コミット(誓約)

実現段階では、プロデューサーはまず、プロデュースの目的を永続的なコミットメントにする必要がある。そして、プロデュースを実現するための組織を構築する必要があるのだ。
 
プロデュースの目的は、この組織の土台であるべきだ。
実現段階は行動の段階である。そして行動するためには、プロデューサーが従うべきロードマップを持っていることが理想。このロードマップは、ロジックとデータを活用して慎重に設計する必要がある。
 
実現の段階で、プロデューサーは目的について心配するべきではない。 彼/彼女は自信を持ち、集中してそれを追求するべきだ。彼/彼女は、この目的を実現するための強力な駆動機械のようになる必要がある。

プロデュース・リーダーシップ・マネジメント

実現からは、実際のビジネスの要素を解説しながら、プロデュースを完成させるやり方を説明しよう。まず、「プロデュース」 「リーダーシップ」「マネジメント」の3つの用語の定義をおさらいしておこう。
 
プロデュースは、まずその目的を考えることから始まる。 プロデューサーは、発案の段階でこのアイデアを目的としてまとめ(コンポーズ)、第三者に説明する(コミュニケート)。
 
リーダーシップとは、利害関係者に手を差し伸べる方法である。発案と実現のステージは、プロデューサーにとってリーダーシップが必要な場面になる。リーダーはそれを実現するために目的を組織の信念としなければならない。
 
リーダーシップはまた、利害関係者のためにさまざまな社会的、実質的、経済的な目標を設定することでもあり、それを実現するための実行戦略をまとめることである。
 
これらの目標は達成されない場合があり、経営陣は原因を調査し、問題や障害を取り除く。そのための手段がマネジメントであり、さまざまなハプニングがあってもひとつひとつの目標を着実にクリアしていく方法がマネジメントである。
 
リーダーシップとマネジメントという 2つの重要な役割を全うするためには、目的へのコミットメントが必須である。
 
コミットメントとは、「責任を持って実行」し、達成することを意味する。それは目的や目標の達成のためのモチベーションの維持、組織力の最大化に全力を尽くすことを宣言するものだ。
 
私がウエラ・ジャパンを担当していた時、アジア・オセアニア地域全体を統括する本部長は、諸国のリーダーが集まる会議で「ハムエッグ」のスライドを見せながら語った。
 
「皆さんはこれが何かご存じですか?ハムエッグ。それがあなたが見ているものですね。この写真を例に『コミットメント』という言葉について説明します。このハムエッグを作るために、ニワトリがしたことを<関わり>といいます。一方豚がやったのが〈コミットメント〉です。」
これは冗談だったが、彼はコミットメントは献身であり、犠牲の感覚があると言いたかったのだ。もっとも 私はプロデューサーが自分の人生をあきらめることをお勧めはしないけれど。
 
リーダーのコミットメントは、プロデュースにおける組織の求心力だ。組織を 1つの目的のためにまとめる役割を果たす。リーダーが目的にコミットすることにより、他の利害関係者、組織のメンバーはそれが実現されることを切望するようになる。リーダーが真剣に取り組むほど、メンバーは確信を持ち、メンバー自身もコミットするようになるのだ。
 
コミットする ― 一時的ではなく、コミットし続け、プロデュースを実現しようとし続けることが重要だ。

目的へのコミットメント

コミットしているにもかかわらず、プロデュースの過程でさまざまな目標が実現されない場合がある。そんな失敗が発生した場合、マネジメントは原因を調査し、それを明らかにした後、失敗を正し、アクションを合理化するために必要な処置を行う。しかし、リーダーシップは、決して目的へのコミットメントをあきらめるべきではない。混乱が生じたときに、リーダーがプロデュースの目的について心配したり疑ったりすると、それは悪い習慣になり、チームは価値のある商品やサービスをプロデュースできなくなる。
 
プロデューサーには、テーマにコネクトし、貢献し、クリティカルコアに善・真・美を組み合わせ、ストーリーをつくって、実現する使命がある。プロデューサーは、組織のメンバーと共に戦略を実行し続け、目的の達成(または実現)を視覚化する必要があるのだ。
 
目的のイメージに命を吹き込むことは、実現のこの段階で効果的だ。
「神は細部に宿る。」このイメージを可能な限り詳細に明らかにすることが、それを実現するための自信とエネルギーを作り出し、行動することにつながると言われている。

プロデュースは成長戦略


「プロデュース」とは、新しいモノやサービスを生み出すことであり、成長に向けた戦略が求められる。それには投資。一定量のリソースが必要だ。
まず、一定の金銭的投資が必要であり、この資本を作り続けることが重要になるのだ。
 
多くの人は、お金やエネルギーを節約するよりも、消費することに強い喜びを感じる。自分の利益や気晴らし、面白さ、カッコよさを優先すると、お金やエネルギーが出され、資本の蓄積にはつながらない。
成長戦略を目指すためには、プロデューサーは資源を蓄積し、目的の実現のためにこれらの資源を投入する必要があるので、プロデュースするには、それ以外のものを犠牲にしなければならない。
プロデューサーには、目的と目標を達成するために利益を上げ、投資をし続ける覚悟がいるのだ。
 
20世紀にファッション界で成功を収めたシャネルは、家族も夫も子供もいない人生を送った。彼女の最優先事項はファッションを生み出すことだったので、彼女はバランスの取れたライフスタイルを達成することは不可能だと判断したのだ。また、彼女にとっての孤独は、彼女がテーマについて深く創造的に考える原動力の1つでもあった。
 
イケアの創業者であるカンプラードは、普通の人が夢見るような贅沢な生活を送ってはいなかった。彼は世界で最も裕福な個人の1人だったが。彼は他人が彼をどう思おうと気にかけなかった。人は彼を吝嗇家と思ったかもしれないが、彼は将来のビジョンに賭けていた。自分の個人的な生活を彩るかもしれない他の世俗的な価値を犠牲にすることはできると考えた。彼はただ、世界のさまざまな国に事業を拡大するために投資した。
 
たとえあなたが ビジネスの世界で彼等のような巨人ではないとしても、成長することは自分の殻を破ることだ。そしてプロデューサーは、目的の実現の妨げとなる自分の弱点を自覚し、修正または克服しようとする必要がある。
コミットメントとは、進んで犠牲を払うことだ。


リスクを取る覚悟


これは自己犠牲のようなもので、コミットメントには、リスクを取ることも必要だ。
 
ハワード・シュルツ氏も著書『スターバックス成功物語』の中でこう語っている。(㊵) 「将来性ある会社の株をもち、会社のオーナーとしてマネジメントに参加できるなら、社会的地位が低下したり年収が減ったり、または社用車や家を手放す必要があってもそれは何でもないことだ。夢を見るだけでなく、夢が叶うチャンスと可能性を得るためには、慣れ親しんだ環境から離れることも時には必要だ。」
 
あなたがゼロから自分でビジネスを始める場合は、このシュルツの立場よりもさらに大きなリスクにさらされることになる。企業内起業家としてなら、あなたはシュルツのような立場になるが、それでも個人資産を投資するような覚悟が必要だ。
 
だからこそ、常に利益を上げることが重要なのだ。しっかりと目標を設定し、その目標の達成に努めてほしい。プロデュースは成長戦略であり、リスクの高い取り組みであることを認識しながら、プロデューサーは目標の数値を把握し、それに到達するために最善を尽くさなければならない。


一人でやる覚悟
 

プロジェクトやビジネスは、通常、プロデューサーだけでは実現できない。 プロデュースのほとんどでは、複数の人が協力して行う必要があるのだ。 しかし、プロデュースを一人で完結してはいけないということではない。
特に、最新の情報技術やOAの開発のおかげで、プロデュースはある程度までは1人で行える。
このため、プロデュース当初は、自分で実現できる範囲においてできる限りのことをやることを勧める。最初にプロデューサーが一人でやる覚悟があれば、一定の資金と時間を節約できる。
 
既存のビジネスで社内起業家としてベンチャーに取り組むとき、会社の意思決定者が「やってみなさい」あるいは「よし、わかった、資金を準備しよう」と言ったとき、未知なる挑戦への不安ゆえに、この挑戦を分かち合う仲間を見つけたいと思うのは自然なことだ。リスクと責任を分かち合うことは、一人で背負うよりもはるかに楽だからだ。
しかし、そのような動機でチームを組むのは間違っている。とかく人は群れたがる。そして、感情を安定させるためにつくられた事業組織は、機能体<ゲゼルシャフト>ではなく、共同体<ゲマインシャフト>となってしまう。
目的を達成するための機能的存在として機能するよりも、安心感や快適さを求める方が簡単だ。しかし、この弱さがプロデューサーのコミットメントを弱める。コミットメントは、自分ひとりでもやりきる決意でなければならない。決してあきらめない姿勢である。


コミットする能力
 
自己貫徹力


 
多くの人にとって、コミットする能力は、 プロデュースに必要な能力の中で、最も難しいものだ。この能力はまさにその人自身の性格に近い。多くの人は瞬間的にコミットし、「よしやろう!決めた!」となるのだが、長くは続かない。
前に述べたように、コミットメントには、その決定を自分の人生に取り入れる。決意を持って最後まで実行する能力が必要だ。これは誰もが持っている力ではない。
 
まず、自己貫徹力には、一般的に「信念」と呼ばれるものが必要だ。プロデュースの実践には、この「信念」が欠かせない。そして、自分の中に「信念」 (自己貫徹力を生み出す源)が備わっていなければ、そのコミットメントは意味を成さない。
 
哲学や宗教の力は、この「信念」を提供するのに役立つ場合がある。
それは、仏教、イスラム教、キリスト教、神道、または儒教など、その文脈において抽象的なものである可能性が高い。この宗教や哲学によって表現された経典があれば、それはこの「信念」を補強する解釈、理論として機能するだろう。信念の文脈は、理想的には、単に盲目的に信じるのではなく、特定の理論によって強化されるべきなのだ。
 
もう1つの要因は、衝撃的または印象的な実体験だ。プロデューサーとしては、それをもとに「信念」を育んでいくかもしれない。有名な桜の木の話は、ジョージ・ワシントンを彼の「信念」に導いたはずだ。
 
アメリカの初代大統領であるジョージ・ワシントンは子供の頃、斧の切れ味を試すために、家にあった桜の木を切り倒した。しかし、その木はたまたま彼の父がとても大切にしていた桜だった。
その桜が伐採されたのを見て驚いた父親は、「誰が大切な桜の木を切ったか知っているか?」とジョージに尋ねた。
ジョージは「本当のことを言うと、父に叱られるだけでなく、がっかりさせてしまう… 」と心配したが、嘘をつくべきではないと決心した。 「お父さん、私がやりました。自分が斧で木を切り倒しました。」彼は正直に告白した。
父は怒るどころか、言った。「勇気あるね。真実を正直に言うのは難しい。おまえは勇敢で強い人間だ。」
 
この「信念」を維持するために、自己貫徹力にも弾力性が求められる。弾力性とは、負荷や失敗から生き残る力を意味する。弾力性は「七転八起」とよく言われるが、多少の不運には負けない意志である。 「信念」は、ただ単に強く揺るぎないものだと時に脆いものだ。
人間を、知性・感性・本能・魂・真我の5つの層を持つ同心円、立体的な球体として想像してほしい。それがガラス製かゴム製かで、高いところから地面に落ちたときの結果は大きく異なる。人生の過程やプロデュースの過程では、多くのことが起こる。そして「跳ね返る」:立ち上がる能力、この回復力が「信念」を維持し、コミットし続けるために不可欠である。
 
このように、信念と回復力に支えられた自己貫徹力は、プロデューサーが持つべき重要な能力だ。プロデュースの成否を左右する。
コミットメントの過程では、自己貫徹力が必須なのだ。




 
参考文献:
㊵: 「スターバックス成功物語」ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング著(日経BP社)