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no.3 着想 ― コネクト(理解する)


着想の第一歩は、プロデュースのテーマを設定することである。
 
「コネクト」とは? J.P.ギルフォードの心理学の古典「 The Nature of Human Intelligence(人間の知性の成り立ち) 」によると、それは思考の最初の段階。 (②)
テーマのコグニッション(認識)の段階だ。
 
実際のビジネスの世界では、プロデュースのテーマが企業やプロデューサーに必然的に与えられることが多い。上司、取引先、顧客などからである。誰もがプロデュースしたいテーマを自由に選べるわけではない。
人生において、プロデューサーがたまたまテーマに出くわすということもある。
本当に自分の天職と思えるようなテーマを選び、それをやり遂げて、その価値を実感できる充実したキャリアや仕事に就くことができる人は、とても幸運で稀なケースなのだ。
 
「コネクト」とは、まずテーマを見つける為に周りと共鳴すること。次にテーマを深く感じ、理解することである。
 
 
テーマを探す
 
着想は、プロデューサーがコネクトすべきテーマを見つけ、それを達成するためのさまざまな手段を探し、それを可能にする最良の解決策を選択することから構成されるが、最初に、どうやってテーマを見つけたらよいのだろうか?
 
テーマの選び方は、企業のビジネスプロデュースにも応用できるし、自分自身の未来に向けた、セルフプロデュースと捉えてもいい。
会社にいたら、次の製品やサービスを考えることかもしれない。あるいは、自分の願望をかなえるために自分にとって最適なキャリアパスを選択することもそうかもしれない。
 
そのような場合、テーマを見つけるために考慮すべき重要な領域が6つある。
 
まず、セルフプロデュースであれば、第一に、あなたの願望、夢、期待である。達成したいことを明確に述べることができない場合は、ノートと鉛筆を用意して時間をかけ、それらの願望、夢、または期待について頭に浮かんだことを書き始めること。企業であっても、企業の夢や期待はあるはずである。あるいはぜひとも確保したい長期的利益、収益が設定されているかもしれない。それらに注意することから始めよう。次に、これらのメモについて考え、さらに明確にしよう。
 
第二に、希望はあっても、その実現を妨げる問題や障壁が存在する可能性がある。これらの障害のために、願望を達成することが困難だということがある。企業であれば、お金がない、顧客がいないなど、さまざまな問題がある。どのような問題があるのか? それらは、従業員の能力レベルやモチベーションかもしれない。これらも具体的に記載する必要がある。これが2番目のポイントである。
 
3つ目は、あなたの会社またはあなた自身の長所と短所だ。特に”本物の強み“、英語でコンピテンシーと呼ばれるポイントは充分考慮するに値する。しかしできるだけ客観的に評価する必要がある。まず、会社または自分自身の成果を分析する必要があるのだ。データを確認しながら、できるだけ客観的に考慮する。これが 3 番目のポイントである。
 
あなたや会社を取り巻く時代について調べよう。そして、その時代から、あなたやあなたの会社にとってプラスになる要因は何なのか? どんなチャンスがあるのか?次にマイナスになる要因についても考えよう。あなたの会社やあなた自身を危険にさらす可能性のある傾向は何なのか?時代について……これが4番目のポイントだ。
 
5つ目はパートナーである。あなたが人生で成功したいと思っている既婚者であれば、配偶者の期待や問題も考慮する必要があるだろう。それが企業であれば、一緒に事業を分かち合うパートナーの希望や心配、または所属するコミュニティや団体の意向を理解しよう。さまざまな利害関係者の懸念を考慮する必要がある。これが5つ目のポイントである。
 
最後の6番目のポイントは、特に企業にとって最も重要である。これは顧客に関するもので、顧客のニーズと要望は何かということである。特にプロデューサーは、現在自社を支えている顧客像をできるだけリアルに、かつ生々しく把握・分析する必要がある。あなたが独立した個人の起業家である場合、あなたの能力とサービスは誰のために提示されるべきかを理解する必要がある、またそれらを活用できる企業や個人について理解する必要があるのだ。
 
これらの6つの視点から、あなたやあなたの会社が今すぐやるべきこと、またはこれからやるべきことを見つけてほしい。
 
この6つの分析を経て全体像を把握し、攻めるテーマを決める必要がある。
 
企業であろうと個人であろうと、やり遂げなければならないテーマがなければ意味がなく、やりがいはない。
 
しかし一方で、「面白さ」だけでテーマを選ぶのは危険だ。
 
社会、業界、従業員、顧客が興味をもつテーマを選ぶということもある程度は必要だが、それよりも、また、それに捉われることなく、プロデューサー自身が、彼らにとって本当に良いと思えるテーマ、それが達成できれば「嬉しい」と感じられるテーマを選ぶ方がよい。
 
しかし、会社を興そうという人、独立して新しいことを始めようとする人は、顧客や従業員はまだ存在していない。その場合、この6つのポイントのうち最初に検討すべき点は、自身のコンピテンシーと時代。自分の強みと時代の展望だろう。創造的な人々は、時代の経過の中で、多くの人が見落としている何かを見つける。
身の回りのさまざまな現象や情景を見つけ、コネクトする。
 
特に、このメモの主題であるビジネスをプロデュースするためには、「時代とつながる」ことが重要だ。
シャネル、スターバックス、イケアなど、これから何度も例に挙げていくブランドや企業を、この「時代とつながる」という視点から見てみよう。
 
シャネルは「孤独を愛し、真の美と直感を愛した」子供だった。ヨーロッパのパリ、20世紀初頭、女性が男性のためにドレスアップし、束縛された時代は終焉を迎えようとしていた。体を締め付けるコルセットから解放され、健康でアクティブに生きようとする新しい女性が誕生しようとしていた。シャネルは言う: (③).
「四半世紀の間、私はモードを創造してきた。何故だろう。それは、私が私の感じで時代の要求を表現する手立てを知っていたからである。」
 
「モードは単に、衣装の中にだけあるものではなく、空気の中にもあって風が持ってくるのだ。モードは、空にも歩道にもどこにでもある。思想や風俗や事件の中にもあるわけだ。・・・」
 
そんな時代の空気を感じ取ったシャネルは、「モード」をテーマにプロデュースした。
 
ハワード・シュルツ は、スターバックスがカフェではなくコーヒー豆の販売業をしていた時、時代から、どのようにテーマを見つけたのだろうか。彼は、この素晴らしい高級コーヒーを強みとするコーヒー販売チェーンを、本格的に顧客満足を追求する事業体に変えようと考えたのだ。
 
シュルツは、平和、愛、自由、幸福など抽象的な価値を重んじる60年代と70年代の文化の中で育った。彼は、ワーカホリックの同僚たちが、今もそれらの精神的価値を大切にしていることについて考えた。彼らが自分の心と身体を大切にし、休息し、瞑想できる空間と時間を欲している、と感じた。そしてそれを、コーヒーを通じて提供することも可能である、と考えたのだ。これは、有名な「第三の場所」コンセプトの発芽である。
 
イタリアのエスプレッソ バーを見て、スターバックスには何か重要なものが欠けていることに気付いた。それは重要な問題だ!と思った。お客様との絆に欠けていた。自分でコーヒー豆を挽いてコーヒーを淹れることができる家族だけとつながるべきではない。より多くのコーヒー愛好家とつながる必要がある。スターバックスは、顧客にエスプレッソを提供するイタリアのやり方を採用すれば、劇的に変化できる可能性があると感じた。「本場イタリアのコーヒー文化を紹介することで、多くのアメリカ人が私と同じ感動を体験できる。スターバックスは偉大な小売業者であるだけでなく、偉大なパイオニアになることができる.... (④)
 
イケアの創業者であるカンプラードも、時代とつながることの重要性を認識していた。彼は、第二次世界大戦後のヨーロッパで、力強い中流階級の文化が台頭することを予想していた。彼は裕福でなくても豊かに暮らしたいという人々の気持ちを理解した。そして低価格で良質の家具を提供することに注目した。彼の商売の才能、様々な小売りの経験からの強みを生かして、熱心にそれを達成しようとしたのだ。
 
一言で言えば、イケアは当時の社会の急速な成長の申し子だった。住宅政策、民主的改革、都市化現象、自家用車の増加と道路改良計画、労働市場に参入する多数の女性の存在、家族と住宅政策の改善、消費者の購買意欲がなければ、イケアは成長しなかっただろう。競合相手が存在しないほど劇的な方法で圧倒的に勝つことはなかっただろう。
起業家カンプラードは、この時代の社会の変化を見逃さなかった。研ぎ澄まされた感覚で、彼とイケアは時代の刻一刻の進歩を感じ取った。時代がより平等な社会を要求し、人々が敬称なしでお互いを呼び合うようになったとき、彼はすぐにそれを理解し、それをより充足させる実際的な方法を見つけた。 彼は「フォークヘメット(国民の家)」の概念を理解し、高品質の原材料を使用して「新時代の大衆にふさわしいデザインの製品」を生み出した。 (⑤)
 
人間は死の直前に、財産や地位、名誉よりも、人生で与えたり受けたりした愛について思うと言う人がいる。
本当かどうか、わたしにはまだわからないが、「愛」の大切さは感じる。 「愛」が存在するためには、この「愛」を与える何かがなければならない。それがテーマである。
言い換えれば、人生を豊かにし、実りあるものにするために、テーマを見つけることは不可欠であると考えるべきだ。
 
 
 
 
 
 
参考文献:
② 「The Nature of Human Intelligence」 J.P.ギルフォード著(McGraw-Hill Book Company)
③ 「獅子座の女 シャネル」 ポール・モラン著(文化出版局)
④ 「スターバックス成功物語」 ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング著(日経BP社)
⑤ 「イケアの挑戦 イングヴァル・カンプラード 創業者は語る」 バッティル・トーレクル著
(ノルディック出版)