no.21 発案 ― コンポーズ (構築) I
目的の構築<コンポーズ> --- 信念にする
多くの成功した起業家の伝記やインタビューでは、成功した組織には、生き残り成功するための独自の信念があり、その信念に対する熱意が、ひとりひとりの協力者に伝えられていることが確認できる。信念に従って、プロデューサーはプロダクションを実現するために必要なポリシーと行動基準を設計する。
信念は、特定のプロデュースに特徴的な使命のことである。
稲盛和夫は、著書「生き方」の中で次のように書いている。
人間の心は多層構造であり、いくつかの層が同心円状に構成されている。外側から、
1. 知性–人生で獲得した知識と論理
2. 感性 – 感情と五感
3. 本能 – 肉体を維持したいという欲求など、人間の行動を司る
4. 魂 –経験から人生の真実を個性に形作る
5. 生命の真実 – それは人の心の核であり、真・善・美に満ちている
これが人間の心の外側から中心への多層構造である。 (㉚)
稲盛のテキストを読むと、彼は人間の核心に真、善、美があり、この3つの価値が人間をやる気にさせる出発点であると信じている。
今日、真、善、美のいずれでもない製品やサービスの提供で生き残ることはできない。 「売れるかもしれない」とか「流行るかもしれない」では通用しない。
今道友信も、著書「美について」の中で真・善・美について次のように述べている。
真・善・美は、人間の文化活動を保証し、鼓舞する価値である。幸福、健康、才能、富、快楽、権力、名誉を備えた人でさえ、真善美の追求を放棄すれば、獣のような生き物に陥る可能性がある。
これは、幸福、健康、権力など、上記のステータスの多くが高等動物の生態でも見いだされるものだからである。 (㉛)
また、著名な大学教授であり経営コンサルタントでもあるジェームズ・C・コリンズは著書の中で、次の3つの要素が偉大な企業の経営者と従業員の信念を育む基本原則であることを発見したと述べている。
自社が世界でオンリーワンになれる部分
会社が利益を上げるための経済的な原動力
働く人の目線で情熱を持って取り組めるコンセプト
(㉜)これも真・善・美の視点に沿ったものである。
自社が世界で唯一になれる部分=真
会社が利益を上げるための経済的な原動力=善
働く人の目線で情熱を持って取り組めるコンセプト=美
真・善・美は、ビジネスではこのように解釈されるべきだ。
プロデュースの成否は先ほど説明したようにストーリーの生命力にかかっている。
そして、これらの真・善・美の価値観が「使命」や「信念」としてプロデュースに存在するかどうかにかかっているのだ。さらに詳しく説明すると、次のとおりだ。
プロデューサーは、そのような質問に対する答えを提供する必要がある。目的の構造であり、プロデュースの本質である。
信じる価値 --- 真
アップル社のデザインチームのトップであるジョナサン・アイブ氏は、次のように述べている。
アップルの目標はお金を稼ぐことではない。きれいごとに聞こえるかもしれないが、それは本当だ。素晴らしい製品を作ることが私たちの目標 <真>であり、私たちをワクワクさせる。
良い仕事をすれば愛される、オペレーションがうまくできれば利益が増えると信じている。しかし、利益を上げることは私たちの目標ではない。 (㉝)
モノやサービスの「真」という価値は、テーマの完成状態であるべきだ。ビジネスにおいて、それは他の人には真似できない独自のもの。プロデュースの目的には、この真を定義するアイディアが含まれている必要がある。
信じる価値 --- 善
アップルの目標はお金を稼ぐことではない。きれいごとに聞こえるかもしれないが、それは本当だ。素晴らしい製品を作ることが私たちの目標であり、私たちをワクワクさせる。
良い仕事をすれば愛される<善>、オペレーションがうまくできれば利益が増える<善>と信じている。しかし、利益を上げることは私たちの目標ではない。
ジェイムズ・コリンズが提唱した概念に関連して、「善」とは、生産された物やサービスが、それらを購入または使用する人に、良い感情、便益、スタイル、快適さなどを与えることを意味する。言い換えれば、それは彼らにとって何が良いかということの本質である。また、それゆえに、利益の源泉にもなる。
この善を具現化するために、世界的に有名なファッションデザイナー、 Issey Miyakeの製品シリーズ「プリーツプリーズ」を例に挙げてみよう。これは、今までにないものを作成するためにIssey Miyake と彼のチームによって制作された。今までにない制作工程を用いて初めて成功した作品である。
人間の感性を魅了するために、厳選された多彩な色彩を革新的な染色法で具現化した。消費者にとって、この生地で作られた製品は非常に軽く、動きやすい。折りたたむとコンパクトになり、持ち運びに便利でシワにならない。生地が薄いので、色や形を組み合わせたり、重ね着もしやすい。
これらの製品においては、それを使用する人々への貢献度が際立っている。善の要素が美しさとともに存在しているのだ。
信じる価値 --- 美
アップルの目標はお金を稼ぐことではない。きれいごとに聞こえるかもしれないが、それは本当だ。素晴らしい製品を作ることが私たちの目標であり、私たちをワクワクさせる<美>。
良い仕事をすれば愛される、オペレーションがうまくできれば利益が増えると信じている。しかし、利益を上げることは私たちの目標ではない
以下は「スターバックス」のミッションステートメントである。(㉞)
このミッション ステートメントには、世界中のスターバックスの活動と経営理念がまとめられている。
この一文を、お客様の立場で読むと、会社への信頼感や好感を持てると思う。
一方で、スターバックスで働く社員が読み返してみると、プライドと情熱をかきたてるものだとも思う。
このスターバックスのミッションステートメントは、この章で説明した価値で構成されており、それがスターバックスのビジネスがうまくいっている理由の 1 つである。
善・真・美
もう一点、この3つの価値を本稿で説明するプロデュースの制作過程と照らし合わせて考えると、真・善・美の順序は、 善・真・美の順になる。
対象となる顧客(見込み客)のニーズやウォンツに役立つ、喜ばれる<善>を見出し、それを本物の、唯一無二の<真>である実際の商品やサービスとして開発する。さらに、この貢献は、従業員とパートナーに誇りと情熱を与える <美> でなければならない。
善・真・美の順でプロデュースが進む。
稲盛和夫の事業のエピソードで、 KDDI を創業したとき、彼は自分の心に厳しく問いかけた。「通信事業を始めようとする動機は善なのか、そこに私心はないのか?」彼はこの厳しい問いを自問自答し、KDDIの起業を決意した。
つまり、善はどこで戦うかを定義する。そして、真と美はそれを実現するための手段である:どのように勝つか、製品、サービス、そしてチームワークを活用してその貢献をどのように実現するかだ
もう少し掘り下げてみると、善の価値はチームの感性に、真の価値はチームの知性に、美の価値はチームの行動に結びついているといえる(真・善・美の表を確認しよう)。ここに真・善・美のもう一つの側面がある。
この価値観(真・善・美)をチームのパートナーやメンバー、さらにはお客様や消費者の心に刻み込み、行動に移してもらうのがプロデューサーの役割である。
目的の構造
プロデュースのターゲット/目的の構造は、上の図で示されている通称ダビデの星と呼ばれる星の形である。二等辺三角形が重なった形だ。逆三角形は、構想のプロセスを表している。コネクトし、貢献し、クリエイトする、ストーリーの3つの段階である。
もう一方の正三角形は、底辺が下にある形で、3つの頂点のそれぞれが善、真、美を表している。プロデュースの目的を構成するこれらの要素を、分かりやすく箇条書きにする必要がある。
参考文献:
㉚: 「生き方」稲盛和夫著(㈱サンマーク出版)
㉛: 「美について 講談社現代新書」今道友信著(㈱講談社)
㉜: 「ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則」ジェームズ・C・コリンズ著(日経BP社)
㉝: 「ジョナサン・アイブ」リーアンダー・ケイニー著(日経BP社)
㉞: スターバックスミッションステートメント(スターバックス ホームページより)