見出し画像

Technics SL1200mk2~mk6 フルメンテの内容

下北沢 エレガントピープル ( www.elegant-people.com ) 松澤と申します。
当店はプロミュージシャン・プロDJ・スタジオ・店舗・一般のお客さまを対象に、アナログ/デジタル音響機器の製作・修理および屋内音響改善を行っています。

今回はメイン業務でもあり、年間約200台、累計で2,000台弱手がけている、Technics SL1200 mk2~mk6 ターンテーブル(レコードプレーヤー)のフルメンテナンスについて、具体的に内容をご説明します。

当店は小さな故障修理でも初回は必ずフルメンテナンスを行い、安定性と音質を向上させることで、みなさまから絶大な信頼を得ています。

1.症状を聞く。
一応聞きます。聞きますがチェックリストをもとに改めてチェックを行います。症状を聞いて「特に問題ない」と言われた場合でも、実は数カ所時限爆弾が隠れていますので爆弾を除去します。

たまに「診てもらってから考えたい(診断のみ)。」という方がいらっしゃいますが、診るだけで注油もできない(注油くらいしろと思われるでしょうが、前歴が不明なので、分解洗浄せずに注油すると故障するかもしれません)、動作保証もできない上に時間工賃(12,000/h)が無駄に発生しますし、修理・フルメンテナンスを始めてしまえば2時間でとっとと完了するのでお断りしています。

2.ピッチコントローラのチェック。
本体を裏返して分解し、ピッチコントローラ内部を分解清掃したのち、センターピッチの抵抗値を工場出荷値(2.7-2.875KΩ)に校正します。mk5G・mk6はこの時点で基準周波数調整も行います。mk2〜mk3でボリュームの劣化が激しい場合は新品に交換します。メンテのつもりでピッチコントローラにCRC5-56を吹く方がいらっしゃいますが、成分のケロシンで内部の抵抗が溶解しますので絶対にやらないでください。

mk2〜mk3はセンタークリックでLEDが点灯しますが、このLEDが暗いといずれ回転トラブルが発生する(爆弾その1)ので、ボリュームを交換します。mk3D〜mk6にはリセットスイッチが付いていますが、スイッチが劣化すると回転不良を起こす(爆弾その2)ので、対策を施します。

3.スタイラスライトのチェック。
mk4までの機種は、レコード針の針先を照らすスタイラスライトが切れることがあります。切れている場合、白色LEDに交換します。ちなみにR401をマイクロスイッチのNC端子側だけ切り離せば、そのままLEDの電流制限抵抗として使えます(この程度の技術情報が分からない方は、電子機器の修理をしてはいけません)。

4.ベースユニットの増し締め。
ベークライト製およびゴム製のベースユニットが必ず緩んでいますので、適正トルクで増し締めします。ただし、mk5の場合プラッターと干渉する一本だけ緩めます。ついでに電源・回転数スイッチの動作チェックと、ボタン周りのネジも増し締め。必要に応じてスイッチを交換します。mk5は金型トラブルでボタン周りのプラスチック部品がボロボロに崩壊するロットがあり、注意が必要です。

本体裏側はこれで終了です。足(インシュレーター)のゴム部分を清掃し、劣化防止のため薄くグリスを塗っておきます。

5.トーンアームのチェック。
まずはアームが折れていないかチェック。折れていたら鈑金修正または交換します。次に、コネクタを清掃し、酸化皮膜を除去します。そして赤白の音声ケーブルおよびアース線の導通をチェック。ダメなら交換します。ごく稀にですがアームの内部配線劣化が原因の場合、アーム交換(リサイクル品)します。ケーブル交換は、適切な温度の半田ごてと、基板表面を熱で傷めずにシールド線を半田付け/外しする技術がなければ大失敗しますので、いい加減な道具と生半可な知識で行わないでください。

アームのガタまたは締まりすぎが9割方発生していますので、特殊工具を使って適正圧に修正します。衝撃などで酷く破損している場合、ベアリングを交換して修理します。アームのガタ調整は、特殊工具と精密機械組立の技能がなければ破壊しますので、絶対に行わないでください。

アームレストの破損は、当店ではアームベースを分解せず、特殊なドライバーを使用して新品と交換します。

アームの高さを変えるエレベータの固着は、力を加えても全く動かない場合、回転部の金属が電食で溶け固まっていますので治りません。治らない場合はターンテーブルシートで高さを調整します。

最後に、インサイドフォースキャンセラーをチェックし、不良の場合バネ位置を修正します。

6.スピンドルのチェック。
プラッター(回転盤)の回転軸をスピンドルと言います。スピンドルとベースを分解清掃し、指定の油をさして再組み立てします。

mk2やmk3の場合2割位、mk5の場合ほぼ100%の確率で、銅合金の含油軸受けがアルミ製ベースとの結合不良により分離脱落します(爆弾その3)。分離脱落すると軸ぶれやワウが発生し、いずれスピンドル固着→ベース破損に至りますので、再結合の修理をします。軸受けの正しい構造を知らず、分離脱落したまま注油して修理完了とするメンテナンス業者が多い(回転系・ベアリングの基礎を知らない)ので、注意が必要です。

7.モーター基板のチェック。

トラブルで多いのはmk5のヒューズ不良です。スローブローヒューズに交換します。mk2〜mk3Dはヒューズがありませんので、本番中に回転しなくなる事故はありません。
mk5のピッチ不良は、制御ICが枯渇しましたので修理不能です。

モーターが回転しない場合はトランジスタを交換します。

次に、基板のハンダをチェックします。トランジスタの発熱でハンダが割れる箇所があり(爆弾その4)、そのままにしておくといずれ高速回転を起こすので、その部分のハンダをやり直します。

最後に、ピッチコントローラ基本周波数(262.08KHz)調整と、電磁ブレーキ調整を行います。元どおりに組み立てて回転チェック、ピッチコントロールチェックを行い、問題がなければメンテナンスは終了です。

8.クリーニング
各部ごとの清掃は終わっているのですが、最後に全体を出来るだけ一生懸命磨きます。

以上。予備時間含め一台2時間半、つまり即日で修理&メンテナンス完了します。

最後に
・初代は356、mk2〜mk3はナロー。mk5G以降は水冷みたいな感じ。
・中古購入する場合、精度が良く頑丈なmk3・mk3Dをお薦めします。

・mk5G・mk6のピッチボリュームと制御ICは入手不能です。
・mk5は劣化トラブルが多く、ピッチ不良が発生すると修理不能です。

・都内のタンテは、ほぼ当店でメンテしています。
・著名ミュージシャン、アーティストのタンテ数十台も当店でメンテ。

・ほぼ分解して組み立て直すので、ばらつきが無くなります。
・安定感が向上し、びっくりするほど良く鳴るようになります。
・幸せあふれるヴィンテージトーンで、幸せな人生にかわります。

結論として、当店でフルメンテナンスすると安心して使えます。
そして、使う程に愛着が湧き、手放せない相棒となるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?