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ウクライナ侵攻から1年 アメリカ世論は戦争をどう見るのか

 こんにちは。雪だるま@選挙です。2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻しました。世界に衝撃を与えた戦争は、開始から1年を迎えます。この1年を振り返ると、アメリカを中心とするNATO諸国の援助は、ウクライナの軍事的抵抗を強力に支えてきました。

 ロシアによる侵攻から1年となる中で、アメリカの国民世論はウクライナ戦争をどのように見るのでしょうか。世論調査を分析することで、その重層的な構造を明らかにすることを試みます。

戦争への見方はどう推移してきたか

ウクライナ戦争への関心

 アメリカ世論の中で、戦争への関心はどのように変化してきたのでしょうか。
 「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関するニュースをどのくらい密接に / 注意深く見ているか」を尋ねた世論調査の設問に対する回答は、次のように変化してきました。

2023 Pew Research Center's American Trends Panel
Q. "How closely have you been following news about Russia’s invasion of Ukraine?"

 この結果からは、この1年で戦争への関心はあまり変化していないことが分かります。
 「関心を持っていない」と答える人がやや増加していますが、侵攻開始から1年が経過したことを考えると、アメリカ国民の関心は十分に保たれていると言えるでしょう。

戦況の“変化” アメリカ世論にも影響

 侵攻開始からの1年で、戦況は大きく変わってきました。ロシアは当初、全土掌握を目指して3方向からウクライナに侵入しましたが、各方面から撤退を余儀なくされています。一方、局地的にはロシアが優勢となる場面もあり、東部の要衝・マリウポリなどを占領しています。

 アメリカの世論は、戦況をどのように捉えてきたのでしょうか。次の図は、「戦争の最終的な勝者がどちらになると思うか」を尋ねた世論調査の結果の推移(2022年4月~2023年2月)を示したものです。
 中間選挙のあった11月上旬、クリスマス休暇だった12月末は調査が実施されておらず、結果が反映されていません。

YouGov / The Economist Poll より筆者作成

 この結果からは、4月はウクライナが勝利すると回答する人が多かったものの、5月末にロシア優勢の見方が広がり、9月上旬から再びウクライナ優勢という見方が逆転、そして年明けから現在にかけて再びロシア優勢の見方が拡大する様子を読み取ることが出来ます。

 アメリカ世論の変化は、実際の戦況とどのように関連しているのでしょうか。4月上旬は、ロシア軍が首都・キーウ周辺から撤退した時期です。事実上の作戦失敗で、ロシア軍にとっては大きな痛手でした。

 一方、5月末にはロシア軍が東部の要衝・マリウポリを制圧しました。首都キーウから撤退し、東部ドンバスに集中したロシア軍にとっては「戦果」だったといえます。
 この時期にロシア優勢の見方が広がった要因は、ロシア軍がこの時期にマリウポリ制圧など、東部で複数の戦果を挙げたことだと考えられます。

 9月上旬の戦況では、北東部ハルキウ州でウクライナ側が反攻し、占領地を大きく奪還しました。秋にかけては南部ヘルソン州周辺でも、ウクライナ軍が占領地域の奪還を進めるなどの動きがありました。

 最近の戦況では、東部を中心にロシア軍が攻勢をかけていると報道されています。東部・バフムトの周辺では、ロシア軍が複数の拠点を占領したと主張しています。ロシア軍の攻勢に反応し、アメリカ世論でもロシア優勢の見方が広がりつつあります。

 これらの動きからは、アメリカの世論は実際の戦況に大きく影響を受けていると考えられます。

支援への態度には「党派性」

積極的な民主党、消極的な共和党

 ウクライナ支援の中心を担ってきたアメリカですが、世論は支援を巡って態度が分かれつつあります。民主党支持層は支援の継続に積極的である反面、共和党支持層では支援に消極的な意見が出始めています。

 世論調査では、侵攻開始直後は党派を問わず支援に積極的でしたが、時間の経過とともに共和党支持層では、消極的な見方が広がる様子が観測されています。

ウクライナへの経済支援に賛成する割合(赤が共和支持、青が民主支持、黄が無党派)
Chicago Council survey November 18-20,2022
ウクライナへの軍事支援に賛成する割合(赤が共和支持、青が民主支持、黄が無党派)
Chicago Council survey November 18-20,2022

 また、共和党の一部政治家からはウクライナ支援の継続に慎重な主張が出ています。マッカーシー下院議長は、昨年の中間選挙前に「白紙の小切手は切らない」と発言しています。

 このような状況から、「共和党はロシアに親和的だ」と主張されることも少なくありません。しかし、この記事ではデータをもとに共和党がロシアに親和的な政党ではないことを明らかにしていきます。
 また、上記のように支援への態度に党派性があるのは事実であるため、その背景についても、考え得る要因をデータから提起することを試みます。

共和党はロシアに親和的でない

 世論調査の設問から、アメリカ世論の対露認識を明らかにしていきます。「ロシアを友好的な国、あるいは敵対的な国のどちらだと考えますか?」という設問では、次のような結果になっています。 

YouGov / The Economist Poll Februrary 20-21, 2023 より筆者作成 

 このように、アメリカ世論はロシアを「非友好的/敵対的」とみなしており、その結果に党派間での違いは見られません。
 共和党支持層もロシアに厳しい姿勢を示していて、この態度は侵攻から1年が経過しても維持されています。

 すなわち、ウクライナ支援への態度に関して存在する党派性は、ロシアへの親和性を要因とする現象ではないと考えられます。

「党派性」の要因は

ウクライナは「同盟国」なのか

 それでは、ウクライナ支援への態度で党派性が生じている要因について検討していきます。
 先ほどの議論から、ロシアへの態度は党派を問わず厳しいことが分かりました。ここで、「ウクライナについてどのように考えているのか」を尋ねた設問の結果を見ていきます。

YouGov / The Economist Poll Februrary 20-21, 2023 より筆者作成 

 多くがウクライナに好意的な見方をしているものの、注目すべきは「同盟国」と答えた人の割合です。民主党支持層ではおよそ半数が「同盟国」だと答えていますが、共和党支持層では約2割に留まっています。
 また、無党派層でも同じく約2割に留まっています(無党派層の扱いについては、「外交への低い関心」で議論します)。

 この結果からは、支援に積極的な民主党支持層はウクライナを「同盟国」と認識しているのに対し、消極的な共和党支持層では「友好国」に留まっていることが分かります。

民主党:「リベラルな価値観への脅威」としての戦争

 このような違いにはどのような背景があるのか、を探っていきます。冒頭で提示した「戦争の最終的な勝者がどちらになると思うか」を尋ねた設問の結果は、民主党支持と共和党支持で大きく異なっています。

YouGov / The Economist Poll Februrary 20-21, 2023 より筆者作成 
(この図のロシアとウクライナが逆になっていたため、修正しました)

 民主党支持層ではウクライナが勝つと答えた人が多い一方で、共和党支持層ではロシアが勝つと答えた人が上回っています。
 本来、この設問は現状認識を尋ねるものであり、党派による違いが出ることは不自然です。党派間の差を生んでいる要因として、まずは民主党のイデオロギーに注目します。

 民主党支持層の価値観は社会的にリベラルであり、人種や性別に関してはマイノリティの権利を社会的に保護するよう主張しています。
 プーチン政権の少数派抑圧や言論弾圧と一連のものとして、ウクライナ戦争や虐殺行為を捉えるならば、民主党支持層が戦争をリベラルな価値観に対する脅威と捉え、「自由民主主義国家であるウクライナが勝利すべき/当然勝利するはずだ」と捉えている可能性があります。

 すなわち、民主党支持層が「権威主義国家であるロシアの攻撃から、自由民主主義社会を防衛するための戦争」としてウクライナ戦争を捉えている、という可能性を提起します。

 このような考え方に立脚すれば、ウクライナに対する支援は「自由民主主義社会を防衛するための連帯」として当然継続されるべきであり、民主党支持層でこの1年ウクライナ支援への態度が変わらなかった理由の説明になり得ます。

共和党:財政支出拡大への懸念

 共和党支持層で、ウクライナ支援への積極性が低下している要因について検討します。
 注目するのは、共和党支持層で「経済支援のほうが軍事支援よりも支持されていない」ということです。

YouGov / The Economist Poll December 17-20, 2022 より筆者作成

 このことから、支援に消極的な理由は、戦争に関与することや巻き込まれることへの懸念ではなく、財政支出を問題にしているからである可能性が示唆されます。

 背景にあるのは、共和党に伝統的な小さな政府・財政均衡主義です。政府による国民生活への介入を最小限に抑えるべきという考え方から、あらゆる増税に反対し、支出の徹底削減を伴った減税を求めています。

 共和党やその支持層は、国内問題においても予算の膨張には極めて厳しい態度を示します。したがって、ウクライナ支援に対しても同様に、予算を拡大することを許容しない人が多いと考えられます。
 一方で、戦車やミサイルの供与は一定の予算措置を伴いますが、現物の供与であることや、使途が明確であることを背景に、経済支援よりも共和党支持層の理解を得ているとみられます。

 マッカーシー下院議長の発言をここで再び参照します。「白紙の小切手は切らない」という発言の背景には、予算の膨張に厳しい姿勢を示す共和党支持層に向けたアピールの意図があるとみられます。 
 予算の使途を調査することなどを要求する可能性はありますが、ウクライナ支援の打ち切りや縮小を直ちに求める文脈のものではないことに十分留意する必要があります。

 共和党支持層でウクライナ支援への積極性が低下している要因は、侵攻から1年が経って戦争に終わりが見えない中で、予算管理に厳格な姿勢から支出の拡大に懸念を示しているためだ、と推測できます。

 ウクライナを同盟国ではなく、友好国だとみなす背景も同様に議論できます。NATO加盟国ではなく法的に防衛する義務がないウクライナを、予算を拡大して支援することに慎重になっているからという理由であると考えられます。

 さらには、民主党支持層のように「リベラルな価値観への脅威」として戦争を捉えておらず、ウクライナを防衛する誘因が比較すると低いことや、一般に反対党の外交政策には反対する傾向が強いことも、理由として考えられます。

支援の党派性は「国内問題の延長」

 ここまで、民主党支持層にはウクライナ支援を積極的に支持する要因があり、共和党支持層には支援に消極的な姿勢を示す要因があることを述べてきました。

 外交上の理由では、モンロー主義(孤立主義)が挙げられます。アメリカには伝統的な孤立主義があり、アメリカに直接的な脅威を与えていない戦争や紛争への介入を否定する主張です。
 ウクライナはNATO加盟国ではなく、この戦争はアメリカに直接的な安全保障上の脅威ではないと考える立場からは、ウクライナ支援に懐疑的な見方が示されています。しかし、この孤立主義は共和党に特殊な要因ではありません。

 トランプ前大統領を中心とするMAGA運動からは、ウクライナ支援を否定する主張が提起されていて、ウクライナが「国際福祉にフリーライド(タダ乗り)している」と主張する政治家もいます。
 しかし、ウクライナに反感を抱く層は共和党支持層では約2割で、民主党支持層(約1割)と比べてやや多くなっていますが、支持層の中でも少数派であり、MAGA運動がウクライナ支援への積極性に与える影響は限定的といえるでしょう。

 ここまでの議論では、ウクライナ支援への積極性に党派性が現れている要因について検討してきました。
 民主党はリベラルな価値観、共和党は財政支出拡大への懸念を背景に、それぞれの党派性を示していると考えられます。
 党派性は外交政策への立場や国際秩序のパワーバランスなどを考慮した結果ではなく、むしろ「国内問題の延長上に存在する」とすべきだという結論を得ました。

具体的な支援への賛否

人道支援から米軍介入まで

 ここからは、アメリカ世論がどのようなレベルのウクライナ支援を支持しているかを検討していきます。
 支援のレベルとしては、医療などの人道・民生支援から、武器を含む軍事支援、米軍の直接介入などを想定します。

 具体的な支援への賛否は、次のような結果になっています。

YouGov / The Economist Poll Februrary 20-21, 2023 より筆者作成 

 人道支援への支持は、広範に及んでいます。民生分野が中心であり、財政面でも大きな支出を必要とするものではないため、党派間の違いもほとんど見られません(民主党で84%、共和党で73%の賛成)。

 軍事支援と経済支援は、先述したように共和党支持層では軍事支援のほうが支持される傾向にありますが、全体でみると支持に大きな差はありません。
 具体的な支援内容では、戦車や防空ミサイル(パトリオット)の供与は経済支援と同様か、それを上回る水準の支持を得ています。

 戦闘機の供与は最も難しく、経済支援の支持を下回っていますが、賛成が反対を上回る状況です。特に民主党支持層では賛成(62%)が反対(18%)を大きく上回っており、バイデン政権が判断すれば、世論レベルでは供与が許容されるとみてよいでしょう。

 一方、米軍の介入は反対が上回ります。民主党支持層から共和党支持層まで反対が賛成を上回っていて、これは年代や人種など様々なカテゴリほぼ全てで同じ傾向を示しています。
 侵攻前からバイデン政権は、米軍を介入させない方針を明確にしてきましたが、世論レベルでも米軍派遣は反対が多く、現実的ではないといえます。

外交への低い関心

 外交への関心は、そもそも低い水準に留まる傾向があります。世論調査で、最も重要なテーマが外交だと答えた人は、1~2%程度しかいません。

YouGov / The Economist Poll Februrary 20-21, 2023 より筆者作成 

 比較のために、日本の状況を見ていきます。例えば、昨年夏の参議院選挙では、投票の際に外交・安全保障を最も重視した人が19%に上り、最多となっています。

参議院選挙(2022年) NNN全国出口調査
「参院選の争点として特に重視した政策は何ですか?」に対する回答

 このように、日本と比べても、アメリカでは外交が全く争点になっていません。外交政策より、経済や雇用などの国内問題を重要だと考える人が多いことは、次の調査からも分かります。

YouGov / The Economist Poll Februrary 20-21, 2023 より筆者作成 

 アメリカの外交政策は、特に西側の同盟国を大きく左右するため、国際的には大きな注目を集めますが、その一方で国内世論では重要度が低い争点であるということを留意しておく必要があります。

 支援に積極的な傾向がある民主党支持層でも、比較的所得が低く、経済などの国内問題に関心が集まっている黒人層は、ウクライナ支援に必ずしも積極的ではありません。
 また、党派性を議論する際には保留した無党派層についても、政治への関心が低いことを背景に、民主党支持層ほどウクライナ支援に積極的ではありません。

今後の支援はどうなるのか

 バイデン大統領は、ウクライナ支援を推進する方針を示しています。一方で、アメリカ世論は1年前と比べて、支援に積極的な割合が減少してきています。
 世論の変化がウクライナ支援に影響することはあるのでしょうか。

 筆者は、世論の反対がウクライナ支援を滞らせる可能性は低いとみています。外交への関心は内政と比べて低く、世論が政権の方針を転換させるほど強い支援反対の動きを見せることは、考えにくいでしょう。
 さらに、民主党支持層では支援に賛成の割合が強いことから、バイデン政権が世論の動きを理由に支援を減少させる動機はありません。この状況が転換する可能性があるなら、恐慌レベルの経済危機が発生するなど例外的な状況に限られると考えられます。

 ただし、議会の動きには注意が必要です。外交が世論の関心事にはならないとしても、一部の政治家はウクライナ支援の縮小を求め始めています。
 バイデン政権は議会の多数派を失い、共和党指導部やマッカーシー下院議長の求心力も十分ではない中、世論の動きとは別の次元(議会内の駆け引きなど)で円滑な支援に悪影響が出る可能性は想定しておくべきでしょう。

結論

 この記事では、ウクライナ支援に対してアメリカ世論がどのような態度を示しているかを分析してきました。

 民主党支持層のほうが、共和党支持層よりもウクライナ支援に積極的であるものの、それは外交政策やロシアとの距離感における差を示しているのではなく、「国内問題の延長上」に存在する差であると推定しました。
 ただし、外交政策への関心は低く、支援に対して世論が積極的でなくなっているとしても、実際のウクライナ支援に直接影響を及ぼす可能性は低いでしょう。

 バイデン政権が継続の意思を持っている限り、ウクライナ支援は同様の規模で継続する可能性が高いと考えられます。さらに、世論レベルでは戦闘機供与などハイレベルの軍事支援も許容されるとみられ、バイデン政権の判断が注目されます。

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