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【2024年大統領選】共和党予備選 独走するトランプに死角はあるか

 こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、2024年大統領選挙の共和党予備選の情勢を概観し、首位を独走しているトランプ前大統領への支持が盤石なのか検討します。

 8月にウィスコンシン州・ミルウォーキーで行われた共和党の討論会には、共和党候補8人が出席しましたが、トランプ氏は欠席しました。討論会後も圧倒的なリードを誇るトランプ氏ですが、その支持基盤と死角について分析します。

 トランプ氏以外の候補に関する動向は、こちらの記事をご覧ください。


トランプ氏の支持率推移

 トランプ氏の支持率推移は、次の図に示した通りです。

 トランプ氏は一貫して首位を保っていますが、昨年秋の中間選挙後には支持率を10ポイント程度下げました。同時にデサンティス知事が支持率を急伸させ、一時はトランプ氏の40%に対して、デサンティス氏は30%まで迫りました。

 その後、2023年3月にトランプ氏は大統領経験者として、史上初めて起訴されました。起訴後から支持率は回復傾向で、再び独走状態に入りました。

「正念場」だった中間選挙

 トランプ氏にとって、2022年秋の中間選挙は苦い経験となりました。共和党はバイデン大統領の低支持率を追い風に出来ず、上院では事実上敗北しました。
 特に、トランプ氏の支援候補が相次いで敗北した一方、デサンティス氏をはじめとする“非トランプ系”候補が躍進したことから、不振の責任をトランプ氏に問う声が上がっていました。

 支持率も下落傾向となり、デサンティス氏が対抗馬として急速に浮上したのがこの時期です。トランプ氏にとっては「正念場」だったといえるでしょう。

史上初の起訴 トランプ氏の“復活劇”

 2023年3月の起訴以降、トランプ氏は支持率を回復させます。正念場を迎えていたトランプ氏は「起死回生」の復活を見せました。
 背景には、起訴によって、共和党がトランプ氏のもとに「再結集」したことがあります。

 共和党内の対立候補や政治家も、起訴を政治的な動機に基づくものとして非難し、中間選挙に苦戦した原因として批判されてきたトランプ氏への逆風が弱まりました。
 起訴によって、再び「民主党vs.トランプ」の構図に回帰し、トランプ氏の党内での求心力も回復しました。

対抗馬・デサンティス氏の失速 独走状態へ

 3月の起訴以降に支持を回復させたトランプ氏ですが、支持率推移をみると、トランプ氏が支持を伸ばしただけでなく、対抗馬のデサンティス氏が支持を失った側面もあることが分かります。

 デサンティス氏は、保守に旋回することで、トランプ氏を弱腰だと「右側から攻撃する」戦略をとりました。春頃の世論調査では、無党派/穏健層での支持率が比較的高い一方で、保守層からの支持に課題があったため、保守寄りの姿勢を強めました。

 中絶問題では、フロリダ州で6週間を過ぎた胎児の中絶を禁止する法案に署名し、黒人奴隷制度には「良い点もあった」とする教科書の記述を支持するなど、社会・文化的争点=文化戦争で保守的な立場を強調するようになりました。
 しかし、有権者の関心は「経済・移民」が中心で、文化戦争への関心は低く、デサンティス氏の戦略は失敗します。トランプ氏との差を埋められないまま、「勝てない候補」のイメージのみが定着し、支持率は失速していきました。

 こうして2番手争いが混戦する中、トランプ氏はデサンティス氏の支持層も引き離しながら勢いを増し、夏頃には独走状態に入りました。

トランプ支持の構造

“現職扱い” トランプ政権の実績

 トランプ氏を支持する理由として最も多いのが、「トランプ政権時代の実績」です。世論調査では、予備選でトランプ氏を支持すると回答した人の94%が「トランプ政権下で今よりも状況がよかったから」を、支持する理由として挙げています。

 トランプ氏は、現職大統領として減税や強硬な移民政策、保守派判事の相次ぐ任命など、共和党の党派色を前面に出した政権運営を展開しました。また、民主党のバイデン氏やクリントン氏、ペロシ前下院議長など、対立する政治家を厳しく批判するなど、「戦う」姿勢でも支持を集めてきました。

 トランプ氏支持の中核は、トランプ政権時に積み重ねられた、党派色の強い「実績」となっています。このことを背景に、トランプ氏は予備選の中で事実上「現職扱い」されていることが分かります。
 支持率で見ると、トランプ氏の党内支持率は、民主党予備選でバイデン大統領が得ている支持と同水準で、トランプ氏が予備選で他候補を突き離している理由が見えてきます。

“戦う”政治家としてのトランプ

 トランプ前大統領は、現職時代の攻撃的な政治手法を継続し、バイデン氏やデサンティス氏への攻撃を強めています。国を「分断」するとも批判される手法ですが、トランプ支持の背景になっていることが分かります。

 保守的な共和党員は、伝統的な「男性らしさ」「女性らしさ」を支持する傾向が強く、さらには現代のアメリカでは伝統的な価値観が脅威にさらされている、と考える人が多いことが分かっています。

 このような保守層に対し、トランプ氏は対立する政治家への攻撃的な言動などから、「脅威にさらされている伝統的な男性らしさ」を上手く演出し、自らと重ね合わせることに成功したとの分析があります。

 「戦う政治家」としてのトランプ氏の言動が、保守的な支持層と結びつくことで、感情的なレベルでの支持を生み出しているとみられます。

トランプが体現する価値観

 トランプ氏のスローガン「MAGA=Make America Great Again」は、1つの党派性・イデオロギーとなって共和党員の一部に浸透しています。
 次に示すのは、共和党員に対して自らを「MAGA Republican」(MAGA共和党員)だと思うか尋ねた世論調査の結果です。

 共和党員の約半数は、自らを「MAGA Republican」だと考えています。トランプ氏の主張するMAGAを重視し、トランプ氏以前の伝統的な共和党とは別の路線を志向しています。

 伝統的な共和党の政策よりも、MAGAであることがますます重視されるようになっています。MAGAを率いるトランプ氏自身が政治的な価値観、党派性そのものになっていく構造の中で、トランプ氏に支持が集中することになっています。

“独走”トランプの死角は

予備選初期州での番狂わせ

 共和党予備選で独走するトランプ氏ですが、予備選初期州で失速するリスクは残されたままです。次に示すのは、最初に党員集会が行われるアイオワ州、次いで予備選が行われるニューハンプシャー州の世論調査結果です。

アイオワ州の世論調査(RealClaerPolitics集計)
ニューハンプシャー州の世論調査(RealClaerPolitics集計)

 全国レベルの世論調査では、トランプ氏が約45ポイントの差でリードしているのに対し、アイオワ州では33ポイント、ニューハンプシャー州では30ポイント、サウスカロライナ州では32ポイント程度に差が縮小します。

 それぞれの州には、特殊な背景が存在します。アイオワ州では、キリスト教福音派に代表されるような宗教保守の影響力が強く、中絶権の厳格な制限など、保守的な立場を取る候補が支持を集める傾向があります。
 デサンティス氏が保守的な立場を強めるのに対し、トランプ氏は中絶権をめぐって比較的穏健な立場を示しています。また、トランプ氏はアイオワ州のレイノルズ知事と対立し、レイノルズ知事はデサンティス氏に接近しています。これらの経緯から、アイオワ州ではトランプ氏のリードが小さくなっていると考えられます。

 ニューハンプシャー州では、逆に穏健で中道寄りの候補が支持される傾向があります。特にトランプ氏に拒否感を示す有権者も多く、一定の「反トランプ」需要が共和党内にもあると考えられています。
 このため、2位はヘイリー元国連大使で、4位にはクリスティ元ニュージャージー州知事が上がっています。

 サウスカロライナ州では、元州知事のヘイリー氏と、現職の州選出上院議員のスコット氏が立候補しているため、一定の支持が地元の政治家2人に集まっています。このため、トランプ氏やデサンティス氏の支持率はやや抑えられる傾向が出ています。

 2020年の民主党予備選でも、最有力だったバイデン氏が序盤のアイオワ州で敗北し、その後の予備選でも立て続けに敗北しました。この間、全米での支持率も急落し、対立候補のサンダース上院議員を下回ることとなりました。

2020年民主党予備選挙の支持率推移(RealClearPolitics集計)

 バイデン氏はその後、サウスカロライナ州での圧勝を機に支持を回復し、スーパーチューズデーを乗り切って指名を確実にしました。
 トランプ氏も、初期州以外では独走状態の州も多く、むしろ「特殊な事情がある初期州だからこそ」リスクを抱えることになっています。そのため、初期州で苦戦しても最終的に指名される可能性は高いですが、確実にリスク要因とはなるでしょう。

 このような状況を見越して、トランプ氏は共和党予備選を事実上終了させる方向にシフトしています。11月に予定されている討論会の中止を要求し、本選に向けて「事実上の現職」である自身に候補の一本化を進めたい考えを示しています。選挙活動を本選に集中させると同時に、予備選段階でのリスクを取り除くねらいがあります。

“法的リスク” 選挙と裁判の両立

 トランプ氏は、今年の春以降4回にわたって起訴されています。不倫疑惑の口止めに伴う会計処理、機密文書の管理、大統領選結果を覆す試み、ジョージア州選管当局への不正圧力の4件で起訴されています。

 相次ぐ起訴は、トランプ氏にとって予備選での支持率を反転させる契機となり、選挙活動上はプラスの影響をもたらしてきました。しかし、本選に向けては選挙と裁判の両立がリスクになる可能性が浮上しています。

 まず、裁判費用が膨張し、選挙活動の資金を圧迫することが懸念されています。大統領選の選挙活動は、各地で行う集会や広告など、様々な運動に費用が必要となります。
 本選に向けて資金を投入したい時期に、裁判費用がかさむことは、必要な投資を制限せざるを得ない事態を引き起こす可能性があります。

 また、裁判への出席自体も時間的な負担となります。本選の最終盤に向けて激戦州で集会を開きたい時期に、4件の裁判で出席を求められる事態になれば、選挙活動への大きな制約となります。

 これ以外にも、元側近との法的なトラブルも浮上しています。一連の選挙結果を覆す試みや、議会襲撃事件の対応に関わったトランプ前政権の幹部は、トランプ氏とともに起訴され、同時に裁判が行われています。
 複数の元側近は、トランプ氏に裁判費用を支払うよう求めていることが明らかになっていますが、トランプ氏は支払いに消極的な態度を示していると報道されています。

 元側近のジュリアーニ氏は、裁判費用を賄うために自宅を売却したとされるなど、資金的に苦しい状況に陥っています。このような状況が続けば、トランプ氏を裏切って不利な証言をする元側近が現れる可能性は十分にあり、裁判で有罪となる可能性が高まります。

 トランプ氏が大統領に当選すれば、連邦レベルでの事件に関しては、有罪判決を受けても自身を恩赦することが出来ますが、州レベルの事件を恩赦ウする権限はありません。
 ジョージア州の裁判で有罪となれば、トランプ氏はこの裁判結果を受け入れるしかなく、法的には非常に厳しい立場に置かれることになります。

トランプ氏の選挙活動 

 今後のトランプ氏の選挙活動は、予備選での独走状態を維持することが前提となります。可能であれば、年内にも全ての候補を撤退に追い込み、予備選を終了させることが視野に入っているといえます。
 これに対し、他候補からは撤退の声は聞こえてこず、来年1月にも予備選が行われる公算が現段階では高いといえます。

 本選に進めば、不支持率の高いバイデン氏と互角に戦える見通しです。しかし、裁判の進展で本選の選挙活動に支障が出る可能性があり、今後の見通しは不透明となっています。

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