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【2024年大統領選】民主・共和両党の予備選 2023年上半期の情勢

 こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、2024年のアメリカ大統領選挙に向けた、2023年上半期の情勢について、民主党・共和党でそれぞれ行われる予備選挙を中心に分析します。

 2023年上半期には、民主党から現職のバイデン大統領、共和党からデサンティス知事(フロリダ州)、ペンス前副大統領が出馬を表明するなど、大きな動きがありました。

 共和党の予備選は、トランプ前大統領に対してデサンティス知事が挑む構図ですが、トランプ氏の訴追など上半期にあった大きな動きを中心に、党内支持の動向を概観します。

 民主党の予備選は、再指名を確実にするバイデン大統領について、党内の求心力を保てるのかに焦点を当てます。

共和党予備選の動向

「トランプ訴追」で結束した支持層

 共和党予備選に関して、2023年上半期で最も大きな政治的イベントは、トランプ氏の訴追(3月下旬)でした。まず、予備選候補者の支持率推移を見ていきます。

共和党予備選挙 立候補者の支持率推移
(FiveThirtyEight の集計)

 トランプ氏は、ポルノ女優に不倫疑惑を巡って口止め料を支払った問題に関連し、3月下旬に初めて訴追されました。3月下旬の訴追後、トランプ氏は支持率を上昇させています。また、この動きに伴って、2番手のデサンティス氏は支持率を下落させています。

 3月下旬の訴追後、共和党の政治家はトランプ氏を擁護し、検察や民主党を批判することで結束しました。トランプ氏の捜査が民主党出身の検察官によって行われていたため、捜査は「政治的動機に基づいていて不当」だと共和党側から批判する声が上がりました。
 さらに、共和党支持層の多数はトランプ氏への捜査を「不当だ」と考えていて、共和党は政治家と支持層の双方がトランプ氏支持で結集する形となりました。

トランプ氏の訴追に賛成するか?
 共和党支持 賛成21%、反対79%
 無党派   賛成62%、反対38%
 民主党支持 賛成6%、反対94%

CNN / SSRS Poll d March 31 - April 1, 2023

 訴追後の政治的構造が「民主党vs.トランプ氏」になったことで、党の代表的人物としてのトランプ氏に支持が集中することになりました。訴追後にトランプ氏が支持率を回復した背景には、以上のような理由があります。

不発だったデサンティスの「出馬表明」

 もう1つの大きなイベントは、デサンティス氏の出馬表明です。昨年11月の中間選挙以降、トランプ氏の「最有力対抗馬」として注目されてきたデサンティス氏は、フロリダ州議会の会期末を待って、5月末に出馬を表明しました。

 出馬表明は、メディアの報道量が大きくなることから、候補者にとって支持率を上げる最も重要な機会のうちの1つです。候補者自身が有権者に売り込む上では、広告などを使わずに注目度を上げられる点で、出馬表明のイベントと討論会は重要です。

 ここで、先ほど示した支持率の推移をもう1度見てみます。

共和党予備選挙 立候補者の支持率推移
(FiveThirtyEight の集計)

 デサンティス氏の支持率は、出馬表明以降も大きく回復していないことが分かります。支持率にブーストをかけるという意味で、デサンティス氏の出馬表明は不発だったと言わざるを得ません。

 不発に終わったことをどう評価するか、は重要であるものの難しい点です。
 デサンティス氏の候補としての資質については、3月下旬から厳しい見方が浮上していました。ウクライナ戦争を「地域の領土紛争に過ぎない」として、支援の縮小を主張したことは、外交の専門家などから認識不足と指摘されました。また、ディズニー社とLGBTなどを巡って対立した問題では、ディズニー社に「出し抜かれた」として能力不足を疑う声が出ていました。

 さらに、人付き合いの悪さやカリスマ性の欠如が指摘されるなど、デサンティス氏には既に候補者としての資質が不足しているとの声があります。

 一方で、次に示すように、共和党支持層の中ではトランプ氏に並ぶ好感度を維持しています。

共和党予備選挙 立候補者の好感度(Morning Consultの集計、6月27日更新)
(グリーンが好感、赤が非好感、濃いグレーが意見なし、薄いグレーが聞いたことがない)

 高い水準の知名度と好感度を両立できている点から、今後デサンティス氏が浮上するタイミングはあるとの見方もあります。2月の記事で分析したように、トランプ氏とデサンティス氏の支持層には重複があり、これは今も大きく変わっていません。

 トランプ氏の訴追やデサンティス氏の失点によって、重複していた支持層が一気にトランプ氏側へ動いたのが2023年上半期の情勢でした。夏以降は、デサンティス氏が失った支持を回復できるかが注目点となります。

デサンティスの「保守旋回」戦略は成功するか

 デサンティス氏は、予備選でトランプ氏に勝利し、指名を獲得するためにどのような戦略を描いているのでしょうか。
 デサンティス氏の戦略は、基本的に「トランプ氏よりも保守に旋回し、右側からトランプ氏を攻撃する」ことです。トランプ氏は、中絶や社会保障などの争点について、必ずしも保守的な立場を示しているわけではありません。

 中絶問題に関して、デサンティス氏をはじめ保守派は「全米で禁止すべきだ」と主張していますが、トランプ氏は「判断を州に委ねるべき」とし、さらには「中絶などの問題に注力することで、選挙に勝てる可能性が下がる」という認識を示しています。

 このようなトランプ氏の態度には、保守派から不満の声が出てきています。デサンティス氏はこの点に注目し、文化的・社会的価値観を含む対立(文化戦争,Culture War)について、保守旋回することで右側からトランプ氏を攻撃することを中心的な戦略にしています。

 この「保守旋回」戦略は、成功するのでしょうか。現時点では、この戦略の勝算は高くなく、支持拡大においては課題が残ると分析しています。
 まず、共和党の有権者が重要視する政策の立場は、次のようになっています。

 重要な争点は経済に集中し、文化的・社会的争点の優先度は高くありません。文化戦争での保守旋回を強調することで支持を得る戦略には、限界があると考えるべきでしょう。

「準現職」のトランプ

 トランプ氏を支持する理由として、「大統領時代の実績」が最も多く挙げられています。

 背景には、2010年代後半のトランプ政権で、共和党に有利な政治的レガシーが積み上げられたことがあります。
 最重要争点の経済は、比較的堅調に推移しました。中でも「トランプ減税」は、減税を要求する共和党にとって極めて重要な成果といえます。経済も好調だったことから、トランプ氏の経済運営には無党派層も含め、ある程度の信頼が見られます。

 また、最高裁判事の任命を通じ、最高裁を保守化することにも成功しました。判事の任命時期は、現役判事の辞任・死亡によって左右されるため、必ずしもトランプ氏の手腕のみに帰着されるわけではありませんが、トランプ氏が任命した保守派判事によって、22年のロー対ウェイド判決破棄などが決定されました。
 福音派からも、中絶権制限に関するトランプ氏の態度に不満が出ている一方、保守派判事の任命については大いに評価する声が多く、トランプ氏支持の原動力の1つと言っていいでしょう。

 大統領としての実績や成果が、トランプ支持の背景になっています。つまり、デサンティス氏ら他の候補にとっては、予備選挙で現職扱いの候補に挑戦する難度の選挙戦を強いられていることになり、厳しい展開が予測されます。

トランプのリードは続くか、今後の展開

 デサンティス氏の支持率が下がると、トランプvs.デサンティス一騎打ちの構図が崩れ、複数の候補が乱立する選挙戦となりました。
 ペンス前副大統領、スコット上院議員、クリスティ元ニュージャージー州知事、バーガム知事(ノースダコタ州)が5月末以降に出馬を表明し、選挙戦に加わりました。2月に出馬を表明したヘイリー氏を含め、トランプ氏とデサンティス氏以外に、2桁の支持を獲得している候補はいません。

共和党予備選挙 立候補者の支持率平均(6月29日、FiveThirtyEight集計)

 候補が乱立し、「非トランプ」を志向する票が分散しています。一騎打ちに持ち込み「トランプの代替」としての地位を確立したいデサンティス氏にとっては、不本意な展開だった可能性が高いと考えられます。

 今後の展開を予測する上で重要な2点は、①:トランプ氏のリードは持続するのか、②:乱立した候補はどう収束するのか、です。

 まず、トランプ氏のリードが持続するかどうかについてです。トランプ支持の原動力は「大統領時代の実績」や「経済運営」であるため、文化戦争に傾注するデサンティス氏が、通常の選挙活動でトランプ氏を追い抜くことは考えにくく、また、その兆候もありません。
 仮に、トランプ氏の勢いが減衰することがあるとすれば、トランプ氏の行動に大きな失点がつき、求心力が低下する場面です。昨年11月の中間選挙で事実上敗北した後の支持率低下は、この条件が成立した結果でした。

2022年11月12日時点での共和党予備選挙 立候補者の支持率平均
(RealClearPolitics集計)

 今後の選挙戦で、トランプ氏にとって障壁となり得るのは「討論会」と「検察による捜査や裁判」の2つです。
 トランプ氏は討論会を欠席する意向だとも報じられていますが、討論会でトランプ氏への批判が拡散する事態になれば、対応を迫られる可能性があります。また、候補が乱立した影響で、討論会では多方向からの批判を同時に受ける可能性があります。

 また、これまでは追い風となっていた自身への捜査も、一転して逆風となる可能性があります。トランプ氏は、ジョージア州の州務長官に、2020年大統領選挙の結果を覆すよう圧力をかけた疑いについて、捜査を受けています。
 ジョージア州のラッフェンスパーガー州務長官は共和党で、ケンプ知事も共和党です。ニューヨーク州や司法省による捜査は、民主党による政治的動機だと批判することが出来ましたが、ジョージア州の捜査に同様の主張をすることは難しくなります。
 トランプ支持で一枚岩だった党内の反応が、トランプ氏批判に代わっていく可能性があります。この2つが、トランプ氏の「アキレス腱」になるとみています。

 候補乱立の状況は、今後どのようになるのでしょうか。予備選挙では候補の撤退が秋以降に順次表明されますが、主な要因は「支持率低下と、それに伴う資金不足」です。
 実際に投票が始まる来年の年明けまでに、何人の候補が撤退しているか見通すことは難しいですが、トランプ氏かデサンティス氏以外の候補が指名を獲得することは極めて困難な情勢です。

 仮に、1桁台の候補が相次ぎ撤退を表明し、「トランプ阻止」でまとまった場合にはデサンティス氏が支持を急伸させることもあり得るとみてよいでしょう。比較対象になりそうな過去の予備選は、2016年共和党予備選、2020年民主党予備選です。

 2016年の共和党予備選では、トランプ氏のほかにクルーズ氏、ルビオ氏、ケーシック氏が指名争いに残り、票を分散させ、トランプ氏の指名獲得阻止に失敗しました。
 2020年の民主党予備選では、3月のスーパーチューズデー直前に、クロブシャー氏とブティジェッジ氏が撤退して、バイデン支持を表明しました。スーパーチューズデーではバイデン氏が圧勝し、急進左派サンダース氏の指名獲得を阻止しました。

 今回の予備選挙が、どちらの類型に当てはまるかは、今後の情勢次第になりそうです。

民主党予備選の動向

予備選の構図

 まず前提として、バイデン大統領の再指名は確実な情勢です。近年では、現職の大統領が再選出馬し、予備選で候補指名を得られなかったケースがありません。また、民主党内の政治家はバイデン氏支持を表明し、有力な対抗馬は出ない見通しです。

 出馬を表明している中で、世論調査で支持率をある程度獲得している候補は、活動家のロバート・ケネディ氏、作家のマリアン・ウィリアムソン氏の2人です。特にケネディ氏は、ジョン・F・ケネディ元大統領の甥で、10%台の支持率を獲得しています。
 次に示すのは、民主党予備選の支持率平均です。

民主党予備選挙 立候補者の支持率平均
(RealCkearPolitics集計)

 ケネディ氏は、環境活動家である一方、陰謀論を主張していることでも知られています。政治家としての実務経験はなく、指名獲得も絶望的であることから、泡沫候補とみなされていましたが、1割台の支持率をキープしていることで、その影響に注目が集まっています。

バイデンへの「軟弱な支持」

 バイデン氏の再選出馬は、そもそも表明前から党内で広く支持されていたわけではありません。2月の世論調査では、民主党支持者のうち、本選で勝てる候補について、バイデン氏がよいと答えた人が55%、他の候補がよいと答えた人が41%ととなっています。

 出馬表明後の調査では、バイデン氏の支持率が平均値で約65%に対し、ケネディ氏の支持率は約15%、ウィリアムソン氏の支持率が約5%となっています。現職大統領と泡沫候補の対決としては、バイデン氏の求心力不足が鮮明です。

 2020年の共和党予備選と比較すると、この傾向は顕著です。2019年7月上旬に実施されたEmerson大学の世論調査では、現職のトランプ大統領が91%、ビル・ウェルド元マサチューセッツ知事が9%という結果でした。

 バイデン氏の支持率が停滞している理由を明らかにする必要がありますが、特にどの層がケネディ氏支持へ流れているかという点に注目し、分析します。

無党派層や非大卒有権者が弱点に

 バイデン大統領の支持率は、特に無党派層や非大卒有権者の間で低くなっています。次に示すのは、5月に実施された世論調査の結果です。
 民主党予備選に参加する有権者を想定して実施され、全体での支持率はバイデン氏60%、ケネディ氏20%と、平均値よりは少しバイデン氏に厳しい結果でした。

 特にケネディ氏の支持率が高くなっているのは、無党派層や非大卒有権者です。
 まず、無党派層や穏健派・保守派だと答えた人の間では、バイデン氏にケネディ氏が迫る結果となっています。バイデン大統領の支持率が無党派層で低いことは、他の調査からも明らかになっています。

バイデン大統領の支持率(無党派層)
 支持する:35%、支持しない:57%
トランプ前大統領の好感度(無党派層)
 好感:36%、非好感:58%

YouGov / The Economist Poll June 10-13, 2023

 また、非大卒有権者は大卒有権者と比較すると、リベラル傾向が弱く、無党派層に近い投票行動をすることが多いため、バイデン大統領の支持率がどうように低いと考えられています。
 ケネディ氏の支持率が高い、というよりは「バイデン大統領の求心力が無党派層や非大卒有権者の間で低下している」と考えられそうです。

 6月に実施されたEmerson大学の世論調査では、重視する争点別の支持率も明らかになっています。中絶や教育など、民主党の中でもリベラル派が重視する傾向にある文化戦争的争点では、バイデン大統領が大きく上回っています。

 しかし、経済や移民政策など、民主党の中でも穏健派や保守派に近い人たちが重視する争点では、ケネディ氏が一定の支持を集めています。
 世論調査の分析からは、バイデン大統領が民主党内のリベラル派など「コアな支持層」は依然として掴んでいるものの、穏健派や無党派層などに対する求心力が弱体化しつつあることが分かります。

「バイデン再選戦略」に予備選の影響はあるか

 通常、現職大統領の再選戦略には、ほとんど予備選の影響は考慮されません。本選に向けた支持固めのために集会を行うことはありますが、予備選で勝利することを目指すキャンペーンを行う必要はないためです。

 今後、バイデン氏が求心力を回復させ、80%以上の支持を得る状況になれば、予備選が再選戦略に影響することはなくなります。ここでは、予備選でバイデン氏が支持を固められなかった場合や、初期州の日程変更を巡る混乱が影響する可能性について分析します。

 予備選のためのキャンペーンが必要になった場合、懸念されるのはバイデン氏の政治的・物理的双方の体力消耗です。
 政治的には、予備選のための集会や広告で資金を使用することや、「現職大統領が泡沫候補を相手に苦戦している」というイメージの拡散が懸念されます。
 物理的には、バイデン大統領が年齢的による体力の減衰で公務を減らしていると指摘される中、予備選対応に追われることで、本選に余力を残すことが難しくなる可能性があります。

本選の見通し

 共和党の大統領候補が決定していない状況であり、本選の投票日までは約16か月あります。
 本選の状況や構図を今から見通すことは厳しいですが、概観としては、バイデン氏、トランプ氏ともに無党派層からの支持が低迷する中、仮に両氏の再戦となる場合は「2020年から、どちらの支持基盤のほうが弱体化したか」を競う選挙となりそうです。

 2020年よりもバイデン、トランプ両氏の求心力は弱体化していますが、依然として党内では最有力候補です。党内での支持や、無党派層の動向含め、今後の情勢を注視する必要があります。

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