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SMALL RACEという考え方

辛抱強く待っていれば、これまで通りレースができるだろう。

昨年のいまごろは、そんなことを考えて、OTT(オトナのタイムトライアル)で予定していたレースやイベントなどをすべて中止にすることにしたのですが、どうやらもっともっと長引きそうだということがわかってきました。最近、オリンピックを目指す選手たちの、その多くがインタビューで「目標が見えないまま練習を続けていくモチベーションを維持するのは大変です」と話しているのをみて、オリンピアンでもない自分も心の底から、そのとおりだと思ったのです。

振り返ってみると去年の春はやたらと走りました。それまで10kmくらいだったジョグの距離が12~15kmくらいに伸びていき、そのうち距離じゃなくて、時間で走るようになり、気づいたら2時間くらい走っていることも。

2020年4月はアメリカ・オレゴン州ユージーンで行われるユージーンマラソンを走る予定でした。世界陸上2021(2022に延期されたが)のために改装されるスタジアム、ヘイワードフィールドを見に行くという強い動機がありましたが、そのマラソンも1年後に延期。延期が決定したばかりの2020年の春は「待ってろよユージーン」とモチベーションもあがって走る距離もどんどん伸びていったのだけれども、そのうち、「アメリカに行くこと自体がそもそも無理っぽっくね」ということがわかってきた夏くらいからトーンダウン。年末を迎えるころは、ついにまるまる一ヶ月走っていない時期もありました。

「いつも同じところを走っていて飽きない?」と聞かれるたびに、いやいや、砧公園はクロカンやロードなどいろいろなコースがとれるし、森の中を走れば、季節の移り変わりも楽しめるから飽きないもんなんですよ。と、答えてきてたのだけれども、秋口くらいからうすうす感じ始めてきたんですよ。「走ることに飽きつつある自分に」。

やっぱり目標とする大会があったり、たまに旅行先で走ったり、選手だったら、合宿をしたりすることで、身体や心にいつもとは違う刺激が入るから、ホームグラウンドで走る日常のランニングが継続できる。そういうことにも気付かされたのがこの1年でありました。先日、新谷仁美選手に昨年を振り返りながらじっくり話を聞いたのだけれども、昨年の春は気分が落ちて「全く走れなかった」という。「そんなこと言っても、練習はしてないだけで習慣的に走ってるんじゃないですか?」と水を向けると「本当にゼロ。せめて体幹トレーニングでもしなければ、とは思っていたけど、それすらできなかったもの」という。よくそんな人が年末には10000mの日本記録を大幅に更新できたな、とは思うけど、夏にホクレンで1500mを走るというレースを入れたことで、ハーフや10000mほど、距離を積むことなく、集中して練習する環境に戻すことができたんです。と。

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つまり、オリンピック選手と市民ランナーも競技レベルの差こそあれども、モチベーションを維持するには、目標や刺激が必要なのは、変わらないということ。ここを立脚点としてOTTの再開に向けて考え始めました。

幸い、公道を使うロードレースとは違い、陸上競技場というクローズドな場所であれば、参加人数をしぼり、感染予防対策も徹底できることがわかってきた。ホクレンディスタンスやインカレやグランプリシリーズでの感染対策をじっくり研究して、自分たちでもやってみたのが「東京陸協ミドルディスタンスチャレンジ」や距離を短くすることで大会そのものをコンパクトにした「OTTセンゴ」。これくらいの規模感であれば、運営コストも確保しながら、誰も無理をすることなく継続的に開催できることが検証できました。

そこでできたコンセプトが「SMALL RACE」という考え方です。
OTTのページにこう書きました。

SMALL RACEを走ろう。
世界中で多くのマラソン大会が中止や延期へと追い込まれています。
去年のいまごろは「1年我慢すれば元通りになるだろう」。そんな楽観的な気持ちでいたことが、もはや懐かしく感じるほどです。

2020年は多くの人にとって、レースを走る機会だけでなく、レースを見る機会、レースで応援する機会、レースを支える機会も失った一年でした。
いまだに公道を走るマラソンや駅伝大会の開催は難しいですが、OTTセンゴや「もう一つのインカレ」こと東京陸協ミドルディスタンスチャレンジの運営を通じて 陸上競技場のようなクローズドな場所であれば感染予防対策を徹底することで、走る人にとっても、それを支える人にとっても、 安心、安全な環境でレースができることがわかってきました。

そして無観客レースであっても運営ボランティアとして参加してもらうことで より多くの人々にレースを走るだけでなく、見ること、応援すること、支えることを楽しんでもらう機会を 増やすことができることにも気付かされました。OTTでは数万人が一緒に走るレースはまだ作れないけれども、 数百人が参加するSMALL RACEなら持続的に開催することができる。そこで2021年のOTTはトラックをベースに SMALL RACEをたくさん作っていくことにしました。

さっそく2月28日と3月21日の2ヶ月連続でOTTを開催します。 場所は世田谷区大蔵運動公園陸上競技場。昨年、スタンドが改修され、 都内で一番きれいな陸上競技場です。より多くの人々に走ってもらいたいので 種目は1500mと5000mの2種目を用意しました。つまり、「OTTセンゴとゴセン」です。(追記:4月18日にも行うので3ヶ月連続となりました。)

まだレースを走るのは不安だ。という人はぜひ運営ボランティアへ。
実際のレースを感じてから、3月にエントリーするのもいいでしょう。
そしてOTTのようなSMALL RACEを地元で開催したいという方も ぜひ、ランナーやボランティアとして参加してください。

日本中で大きなレースが中止になっても、それを補うように たくさんのSMALL RACEが産まれる一年にしたいと考えてます。
みなさまのご参加をお待ちしております。
OTTスタッフ一同

これまでの大会は「より多くの人」に参加してもらうことを集まってもらうことが目的となっていました。より多くの人が集まるとエントリーフィーによる収入も増えるし、多くの人に目に触れることで広告収入も見込めたからです。一方で、より多くの人を集めるためには、規模がどんどん大きくなるにつれ、予算もどんどん膨らんでいく。損益分岐点に達するには、より多くのランナーを呼ぶ必要があるし、エントリーフィーだけでは賄えないからスポンサーも必要となってくる。近年のマラソン大会はこのスパイラルに陥っていたように感じます。日常が戻って、例年通りのマラソン大会を実施しようとしても、これまで通りのスポンサーがつかないことも大いに有りえます。事実、マラソンブーム時に地方自治体が中心となって立ち上がった市民マラソン大会においても、主催者が開催継続を断念するケースも増えてきました。

陸上競技場をベースに考えるSMALL RACEはこれからの大会運営のヒントになっていくような気がします。陸上競技場の付帯設備だけで運営のほぼすべてはまかなえますし、無観客とすることで会場に入れる人員をコントロールすることで感染予防対策も徹底することができます。無観客であったとしても、そこには出走するランナーや運営をささえる熱意あるボランティアの方々が集います。つまり、あるときはランナーとしてレースを走り、走り終えたら、別の組を走る選手に声援を贈りながら、ボランティアとして会場の片付けを手伝って帰る。ひとりで「ランナー」「観客」「ボランティア」と3つの役割を果たすことで、たとえ無観客だとしても、熱量のあるレースは作れるということがOTTの運営を通じてわかってきました。

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先日行われた大阪国際女子マラソン。全国ネットで放映されたレースですが、あのレースも陸上競技場をベースにしたSMALL RACEといえます。例年は大阪市内の名所をまわる名コースですが、規模を長居競技場周辺のクローズドコースとすることでコンパクトな開催となりました。いっぽうで「日本記録更新」をテーマに掲げることで、日本中が注目する放送も成立させた。周回コースの是非もあるでしょうが、一観客として思うのは「何度も選手が見れてお得」という感想です。町中をサーキット場のように周回するロンドン世界陸上のマラソンは楽しかったですよ。(ドーハ世界陸上のマラソンコースは退屈でしたが笑)

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まずは都内近郊の方から定期的に大会に参加できる仕組みを発信していきます。OTTへの参加を日本中から募ることはできませんが、そのかわりに日本中で、誰もがSMALL RACEを簡単に立ち上げる仕組みも準備しています。つまり、「大きな大会を補う以上の小さな大会がたくさんできればいいんじゃないか?」という考えがSMALL RACEのベースとなっています。

つぎの大会は4月18日。こちらにランナーやボランティアとしてOTTにご参加ください。レース未経験という方は1500mをゆっくり走るところから始めてみませんか?

会場でお待ちしております。

お申し込みはこちらからどうぞ。

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ツイッターや「今日の一枚」では掲載するタイミングをうしなった写真やテキスト、これからやってみたいことなどを、ここでこっそりとはじめています。ちょっとびびって月10回と書いてますが、一日10回更新する日もたまにあると思います(笑)情報誌のようなことを期待している方はやめておいたほうがよいかも。ツイッターやオープンなネットとは違ってクローズドかつバズらない場を作ろうと思います。

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