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はじめて10km走った夜:LSDは朝がいい

 ゆっくり走るLSDは、体だけではなく、心にも余裕がうまれます。しかも血の巡りもいい状態。だから、考え事をする時間としても、とてもいいんです。机の上や会議やブレインストーミングなどでは解決できなかった仕事で抱えている問題も、30分も走っているうちに、「そうか。こうすればいいんだ」となぜか複数の問題をスパッと解決するようなアイデアが浮かびはじめます。そうなったらこっちのもの。「いいぞ、いいぞ」と距離を伸ばしているとアイデア同士が繋がってどんどん膨らんでいきます。身体や頭の中でいろんな化学反応が起こっているのでしょうが、僕は研究者ではないので、そのあたりはうまく説明できません。でも、こう仮説を立てています。走っているうちに「身体と心がポジティブになっていく」ことで、それまで頭を悩ませていた問題のマイナス面が大きすぎて隠れていたプラス面がポコポコと浮き出て見えてくる。つまり、走って考えているうちに、ひとつの問題を多面的に観ることができるようになるのではないかと。単なる思いつきではなく、走りながらあれこれ考えながら検証しているうちに、骨太な「使えるアイデア」が出来上がっているのです。それに気づいてからは、走り終わった後は「こりゃ、いいぞ!」と急いで家に帰り、シャワーを浴びる前にうまれたアイデアをメモすることが日課となっていきました。

 ちなみに、走り始めた当初は夜走っていました。なぜなら、日中だと恥ずかしいから。むちゃくちゃ遅いスピードで走っていたので、かっこ悪くて人に見られたくないと思っていたんです。ただ、夜のランニングには弊害があったんです。LSDを60分ほどしていると、頭が覚醒していろいろなことを思いつきます。となると帰ってからも、仕事をしてしまうんです。そのまま夜ふかしをしてしまって、気づいたら朝だった。ということも。だから僕は、走る時間を朝に変えました。

 ちなみに朝に切り替えたのにはもうひとつ理由があります。ある時、近所の運動公園でランニングセミナーがありました。講師は谷口浩美さん。男子マラソンの元日本代表選手で、バルセロナオリンピックでシューズが脱げて「こけちゃいました」でお馴染みのあの人です。

 そのセミナーでは、質問コーナーがありました。そこで出た質問が「朝と夜、走るならどっちがいいでしょう?」というものです。その質問に対する谷口さんの答えが見事でした。夜は二酸化炭素が出るし、朝だったら植物がフレッシュな空気を出してくれる。走るということは酸素を身体に取り入れるということ。だとしたら新鮮な酸素を吸って走ることができる、朝のほうがいいに決まっていると。この言葉を聞いて、僕は朝走ることに決めたのです。

 こうして、朝の5時とか6時に起きて走る生活が始まります。そして改めて、LSDは仕事にもいい影響があるということに気づきます。
 早朝の新鮮な空気を吸って、いろいろなことを考える。60分も走れば、いいアイデアを思いついているから、あれもしたい、これもしたいという気持ちになって会社に行きます。しかも、もうやることは決まっているから仕事も早いし、沈黙のまま長考するような会議も出る必要がありません。なぜなら、すでに朝走って解決しているから、「こうやるんです」と説明するだけで、会議も終わります。そういう生活をしていると、17時頃になると退社できてしまいます。

 LSDってその名のとおり、本当に麻薬なんです。仕事がうまくいかないなあ。とネガティブな気持ちになりがちだったときも、LSDのおかげでどんどんポジティブになっていきましたから。

 ただし、社会人としては社交性がまったくなくなりました。それまでは、会食を断らないことが自分の魅力だと思っていたのに、早起きして走って脳内麻薬を出したいがために、夜のお誘いすべて断るようになったのです。

 それまで毎晩のように、バーや居酒屋で遊んでいた仕事仲間や友人とは疎遠になりましたが、話したいことがある仕事仲間や会いたい友達とはランチや休日に家で夕食をともにしたりすることで、つながりは保てるもの。いまにして思えば、ほとんど酔っ払って「たくさん飲んでたくさんお金を使っていたこと」以外は覚えていない。そもそもぼくには必要なかったのです。ナイトライフがなくなったかわりに、ランニングがきっかけで年齢や背景も違う、新たな友人が生まれました。社会人になってから新たな友人を作るということはそうそうありません。飲み友達は減ったけれども、これから先の人生を楽しむにおいては、これくらいがちょうど良かったんじゃないか。そんなことも思うのです。

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この文章はただいま秋の発売を目指して絶賛制作中の書籍
「走るといいこと」〜走って、観て、伝える。
 EKIDEN Newsの試み(仮題)の骨組み、みたいなものです。

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