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アメリカの10代がSTANLEYのタンブラーを買い漁っているらしい。なぜ?


FOMOと関連があるようだ。

Fear Of Missing Out(以下、FOMO)は消費者心理学の分野で目新しトピックであります。

SNSが流行し、私たちにとって欠かせないツールになっていると言っても過言ではないと思います。それにより、同時にこのFOMOという概念が目立つようにもなりました。

FOMOは「取り残されたような感情」のことを意味します。

Salem(2015)

先ほど言ったように、FOMOはSNSの文脈でよく使われます。 SNSの文脈では、FOMOは、「あるユーザーが、SNSで他のユーザーが経験していることや所有しているものを投稿しているものを見て、それらが自分には経験したことがなかったり、持ち得ていないものだった場合、そのユーザーは不安に感じる」ことだとされています。

このFOMOはSNSの利用頻度や時間が増えること、常に誰かの体験を見ていたいという個人的な欲求が増すなどのSNS上での行動へ影響を及ぼしますが、それだけでなく、スマホ依存や、睡眠時間が減ることなどの実生活での影響があることも示されています。

このようにFOMOはSNSユーザーにとって、我々の日常生活に一定の変化を与えるような強い感情であるため、ソーシャルメディアマーケティングの文脈では、このFOMOというコンセプトについて注目を集めています。

今回は、アメリカの大学に在籍する3人の研究者が執筆した論文『Fear Of Missing Out Scale: A self‐concept perspective』を参照しながらスタンレーのタンブラーの事例を交えてFOMOについて述べていきます。

Self-Concept(自己概念)とFOMO

まず、FOMOは人間の心理的な問題です。そのため、筆者は自己概念に関する知識を使うことでFOMOという抽象的な概念にアプローチしています。
そして、FOMOという私たちが何かの経験を経ることを見逃し、取り残されたような不安を覚える心理的危機は私たちのThe Private Self(プラベートな自己)とThe Public Self(パブリックな自己)に影響を与えるとしています。

「プライベートな自己」は、自分自身による自己評価のことであり、一方で「パブリックな自己」は、他人が自分をどのように見ているかについての自己評価を指します。

冒頭でも述べたSNSでの文脈のFOMOは、このパブリックな自己に関連する不安です。

「他の人は何か報われるような経験をしているのに、私はそのような経験をしていない」というような他人との相対的な自己評価によるFOMOがSNSの文脈で起こるものです。

SNSを見てみると「この人は私よりも楽しいそうなことしてるな〜」や、「私はこんなことしたことない、この人はできていて羨ましいな〜」というようなことを思った経験はないでしょうか?

このような感情は更なるSNSの利用を促します。
FOMOは、孤独感や、世の中への不公平感、嫉妬を増幅させます。それらを解消して、ネガティブになった気持ちを満たすために、またSNSを見るという循環に陥るのです。

ここでFOMOに関する事例を紹介します。

なぜSTANLEYの水筒ブームは起きたのか???

1913年にアメリカで生まれたサーマルウェアブランド「STANLEY(スタンレー)」は、創業から100年以上が経過しています。その独自かつオリジナルなデザインは、今なお世界中の人々に愛され続けています。水筒(ボトル)に加えて、フードジャーやマグ、クッカー、クーラーボックスなど、さまざまな商品が販売されています。

最近の動向で、STANLEYのボトルをめぐり騒動が起きています。

現在のショッピングのトレンドとして、スタンレーの同一の商品(タンブラー)を大量買いするのが起きています。

TikTok上では、#stanleytumblerのハッシュタグのついた動画が12億再生させており、67000件投稿されています。

さらに、スタンレーのタンブラーのために、盗みまで起こっています。ある女性が、お店で、ショッピングカートいっぱいのスタンレーのタンブラーをお店から持ち出し、盗みをしたとして逮捕されました。

しかし、なぜ、スタンレーのタンブラーはこんなにも注目され、人々の購買意欲を掻き立てているのか。
その要因の一つとして「FOMO(Fear of Missing out)」が関連しています。

希少性による人間の衝動性の誘発

The NewYork Timesの記事でインタビューされていた女の子はスタンレーの異なる色の同一商品のタンブラーの大量に所有しており、そのために約$3,000費やしたと明かしております。
その時の気分やファッションに合わせて、異なる色のスタンレーのタンブラーを使ったり、また、色鮮やかなスタンレーのタンブラーを棚に整列させています。

その彼女は、「(スタンレーのタンブラーに)夢中になっている。」と述べていました。

『Why Does Anybody Need 37 Stanley Cups?』The Wall Street Journal

University at Buffaloのビジネススクールの助教授でマーケティングの研究をしているチャールズ・リンジーは、「各バージョン、色の異なるボトルを得る毎にドーパミンが放出している。」と述べています。
さらに、同氏は、特に、珍しいものや手に入りにくい商品は、ドーパミンの放出につながると言い、「スタンレーのボトルには、『希少性』の性質がある。それは人間の行動要因に大きく寄与する」とも述べています。

実際にスタンレーは、顧客の新しさへの欲求やFOMOに着目し、数量が少ない限定商品を発売し、待ちリストや転売サイトでの高い価格を促進しました。

スタンレーは数少ない限定商品を発売することで、若者の注目を集め、若者の商品の購買を促進させることに成功しました。このような限定ブランドの成功の潜在的な説明として、Herman(2000)は、FOMOの概念を導入しました。

多くの市場経済では大量の情報が流通することによって、消費者が得られるすべての選択肢に目を向けることができなくなりました。それにより、消費者は望ましい機会を逃すリスクを感じます。

Herman(2000)

今回のスタンレーの限定ボトルは、SNSを中心に若者で多くの注目を集めると同時に、数量の少ない限定商品という「希少性」が、スタンレーのボトルに魅了されている若者の購買意欲を増大させたと考えられる。

同じ商品を買い揃えてしまう!?

また、同一商品を複数購入する消費者の購買行動もFOMOと関連すると言えます。

論文で、筆者らは、FOMOは感情であると述べています。

FOMOは、個人が自己概念を向上させたり維持する経験を逃すことから生じる恐れの感情です。

『Fear Of Missing Out Scale: A self‐concept perspective』(2020)

このような経験を逃すことは、個人の心理的な幸福感を脅かすものです。

The Wall Street Journalのインタビューでウェルズ・ファーゴのアドバイスとプランニングの責任者であるマイケル・リアシュは複数の同じアイテムを購入することは、自己表現の一種であり、購入行動と個性を結びつけるものだとおっしゃっています。

SNS上で棚に並べられた大量のStanleyのタンブラーを見せることや、その所有者の気分やスタイルによって異なる色のタンブラーを使い分けるといった消費活動は、自身のプライベートな自己とパブリックな自己、それぞれの自己概念の維持と向上という個性を示す自己表現であると言えます。

FOMOはSNSに限った話ではない!

この論文で、示されていることとしてFOMOは自己概念に対する危機に対する人間の感情的な反応と述べています。これによって主張されることは、FOMOはSNSに限った話ではないということです。
上記でも述べたように、FOMOというのは、SNSの文脈で語られることが多いです。しかし、FOMO自体は、SNS特有の概念ではなく、人間の感情です。そのため、FOMOはオンライン、オフライン関係なく生じるものとなります。

実際に、この件では、ターゲットというスタンレーのタンブラーを取り扱っていた海外のディカウントストアでは、新発売のiPhoneを手に入れるために夜通し店の前で待つ人たちのように、オープン前の早朝からタンブラーを買うために若者がお店の前で列を作ったり、実際に盗みを行い、大量のタンブラーを手に入れようとするという騒動まで発生しました。
このように、FOMOはオフラインでの行動変容を促すことは明らかです。

FOMOは学術的にも発展途上!

今回は、一つの論文の研究成果とスタンレーのタンブラーを事例を使い、FOMOという抽象概念について触れきました。FOMOは人間の感情として、強い購買行動に繋がりうるものとして、ソーシャルメディアマーケティングの分野で注目を集めています。

しかし、このFOMOという概念は比較的新しい概念であるため、抽象的な表現が多かったり、FOMOに関する意見もさまざまなものがあります。
今回の論文では、FOMOは人間の感情であると主張されていましたが、別の研究者で、「FOMOは個人が基本的欲求不満を抱えている際に活性化する、状況的な傾向」という意見もあります。
正解は私でもわかりません。ただ、SNSを使っている人は多いと思うので、FOMOについて考えてみてはどうでしょうか?

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