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あゝおもしろい蟲のこゑ。「英語のそこのところ」第93回

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2015年10月15日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 Native English SpeakerもNative Japanese Speakerも同じ人間なので、同じように他者を認識すると思っていたのですが、意外に違うようです。(著者)

拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。

2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。

お待たせしました! 最終巻 発刊!  
「英語の国の兵衛門」「英語のそこのところ」の作者 徳田孝一郎の作った英語テキスト「English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト10 基準を設定して比べる=比較表現」販売中!

 前巻の「形容詞とその仲間たち2 関係代名詞・関係副詞」で文で名詞を飾る関係代名詞・関係副詞のスキルを身に着けていただきましたが、今回は、「何かと同じぐらい」や、「何かより上」、「一番」ということを伝えたいときに使う比較の表現です。
「その塔は30階建てのビルと同じ高さです」
「フットボールを観ることはフットボールをするのと同じように面白い」
と言った日本語を英語にする手順をすっきり身に着けることができます。

【本文】

 暑い夏の次には、長雨、そのあとまた暑くなってとなんだか天候不順が続きましたが、ようやく秋めいてきました。気温もいい感じに冷えていて、原稿書きや調べものなんかで夢中になってちょっと放っておくと足がじーんと冷えているのに気が付いて、慌ててこすり合わせたりしてます。いま、仕事場にしているマンションはフローリングに直接、机といすを置いてるんです。絨毯かなにかを敷けばいいんでしょうけど、もうちょっとすれば、電気ストーブのお世話になることだし、まぁいっかぁっと思っていまして。

 出歩くのにもいい季節ですね。旅行に行くにも、スポーツするにも、芸術鑑賞にもいい季節ですが、私は生来の出不精なので、旅行は面倒だし、スポーツするほど体力はないし、芸術にはトンと縁がないので、出歩くといっても呑みに出かけるかスポーツ観戦。
 ということで、このあいだNative English Speakerと連れ立って横浜の日産スタジアムにJリーグを観に行ったんですが、これまたへぇ~ということに遭遇する。つくづくNative English Speakerというのは違う人たちだなぁと、びっくりさせられます。

「いやぁ~、久しぶりに俊輔、観たけど相変わらずのキックだねぇ」
「だろぉ~、俊輔が現役でいるうちは、絶対観といたほうがいいって、あんなスーパーなフリーキックはヨーロッパでも観られないんだから」
 アメリカ人のDidoが、そう力説して徳田に言う。Didoは日産で働いていたことがあるのでFマリノスのサポーターなのだ。
「確かに、あれはすごかった。叩きこむとは思わなかったよ。トレメンダス! だね」
 イングランド人のRichが同意する。
「でも、レフティなら、うちのトットナムにいたベイルもすごかったよ」
 Richがおらがチームの話に持っていく。
「どんなところが?」
「そりゃぁ、レフティなのに左からシュートを叩き込むんだぜ。ふつう考えらんないよ」
 ゴールの左からシュートするときは、右足でというのはフットボールの常識なのだ。ベイルはそれを覆すキックの精度を持っているということらしい。
「そりゃすげぇことは認めるけど……、そういえばベイルってマドリーに移籍してるんじゃなかったっけ? トットナムを振って
 悔しかったのかDidoが、Richに絡む。
「あれ、それをいう?」
 Richが顎を上げて、気色ばんで見せる。
「まぁ、まぁ」
 徳田もそのじゃれ合いに参加した。こういう気が置けない連中との会話ほど愉しいものはない。
「いい秋の夜長で、綺麗な虫の声も聞こえてるんだし、ここで一句ってどう?」
 DidoとRichが、怪訝な顔で徳田を見た。
「ここで一句」という馬鹿な提案に呆れ顔を期待していた徳田も怪訝な顔で二人を見つめ返す。
 いいおっさんのNative English SpeakerふたりとNative Japanese Speakerが突っ立って、怪訝顔。シュールな光景だ。
「徳さん、今なんだって?」
「徳さん、なにが聞こえるって?」
 ふたりのNative English Speakerに問い詰められて、徳田は改めて言い直す。
「いや、だから、虫の声をネタに俳句を……」
 悪ふざけを説明させられている気分になって徳田がへこむ。真面目にこられても困る。
「虫の音なんて聞こえる?」
 DidoがRichに訊く。
「いや、でも……」
 Richが耳を傾ける。
 堤防の上の道に3人は立っている。日産スタジアムから最寄り駅の小机駅までの近道だ。左右は草っ原だ。
「言われれば、聞こえるな」
「え~、そう?」
 Didoは疑わしげだったが、しばらくすると
「ああ、確かに」
 とうなづいた。
「徳さん、良く聞こえてたねぇ」
「いや、聞こえてないDidoとRichのほうにびっくりだよ」
 鈴虫のリーン、リーン、という声がうるさいほどに聞こえてるのだ。
「聞こえてなかった?」
「まったく」
 アメリカ人とイングランド人が、ハモってうなずいた。

 いやぁ、ものの本に外国人は「虫の音」が聞き取れないという話があることは知っていましたが、実際に遭遇するとびっくりするものです。ホントにそんなことあるのか? と思っていましたので。
 まぁ、その本には「外国人は右脳で、虫の音をとらえるために雑音として分類してしまっていて聞き取ることができないが、日本人は左脳で、虫の声を言語としてとらえるので聞き取りやすい」なんて似非科学なことが書いてあって、信用できないなぁっと思ってたんで、ますますビックリ(あ、もしかしてと思いますが、あのどちらかの脳半球が活発化していて、右脳人間だとか左脳人間だとかっていわれてるのは俗説ですよ。脳内電位などを調べると総合的に脳は活性化しているそうです)。

「でも、なんで聞き取れなかったんだろうねぇ」
 パブに落ち着いた3人は、改めてさっきの話を始めた。
「どうだろ?」
 RichがDidoを見る。
「関心がないからじゃないかな」
「関心?」
 さすが即物的なアメリカ人が言うと説得力がある。
「だって、虫の音を聞く習慣なんて、おれたちないもの」
 Richもうなずく。
「虫なんて嫌なものだからね。わざわざ聞こうとは思わないよ」
 幕末に、鈴虫を虫かごに入れて愉しんでいた日本人を見て外国人がビックリしたという話を徳田は思い出す。
「むしろ、おれたちからすれば、虫の声に関心があるNative Japanese Speakerのほうが不思議だね」
「Native Japanese Speakerは、みんな好きなの? 虫が」
「いや、みんながみんな好きだとは……」
 徳田は答えに窮した。
 最近は、虫全般を毛嫌いする人は多い。
「それは、たぶん……」
 徳田の中にひらめくものがある。
「日本語が、共感するのが得意な言語だからじゃないかなぁ」
「共感?」
「ああ、共感ね」
 疑問符はDidoで、ああ はRichだ。Richとは以前もそんなことを話したことがある。
「それってどういうことさ」
 自分だけ理解できていないのが、気に食わないのかDidoがRichに食って掛かった。

 わたしが思いついたのは、日本語の共感力の高さが原因でないかということです。日本語は、相手との情報交換よりも感情を共有することが得意な言語です。そのために、相手が人間でなくても
動物でも植物でも、自然現象でさえも共感したい
と思っています。なので、
相手と情報交換できなくても関心
がある。関心があるから、そこに耳を傾けるわけです。

 一方で、English は情報交換が得意な言語です。そのために、情報が交換できないものは、単なる対象物、利用できたり、自分に有益だったりすれば別ですが、特に関心を持たない。なので、存在すら検知できないのではないかと思ったのでした。

「ああ、なるほどねぇ、それは一理あるかも」
 さすが論理の中で生きているNative English SpeakerのDidoが一時保留の「一理」をつけて同意する。こういう態度は、いいことだなぁと徳田は感心していた。鵜呑みにせずに考える癖があるから、全面同意は簡単にはしない。
「だろ? おれは、日本語に『オノマトペ』が多い理由もそこにあるんじゃないかと思ってるんだよ」
 Richが、援護射撃をする。
「どうして?」
「だって、『風がびゅーびゅー吹く』なんて、風の立場になってる感じするじゃん。共感できるから、そういう音が出てくるんじゃないかな」
「ふ~ん、たしかにEnglishのオノマトペは人間のやることが多い気がする」
「それに対して、日本人はなんにでも共感できるんだよ。おれたちが持ってない豊かさだと思うね」
「まぁね。仲良くするには、いい言語だよ」
 でも、一方で「議論が上手くないんだけどねぇ~」と、短所も思い浮かべながら徳田はサムアップした。

 私は、日本語には日本語の良さと短所が、英語には英語の良さと短所があると思っています。日本に好意的な私の友人のようなNative English Speakerばかりではありません。日本語のいいところは何? と訊かれたときに、ぱっと答えられるようにしておくのもいいかもしれません。

(初出 水戸みかど商会ファクシミリ配信誌 2015年10月15日)

大好評! Kindle で一日500ページビュー 「English Sentence Maker」シリーズ

English Sentence Maker は、あなたの感情や意見、思っていることを伝えるためにはどの時制や助動詞、文法事項を選ぶべきかがわかる実践英語・英会話力養成テキストです。
 著者の主宰する英会話スクール「英語・直観力」の企業向けテキストから、契約企業様向けの問題文などを差し替え、一般向けに手直ししました。
 7年間で100名以上のビジネスピープルを単独での海外出張や海外赴任ができるスキルを持った国際ビジネスピープルにした実績があります。ぜひ、この実績あるテキストを信頼し、完全マスターしていただき、世界を相手にビックディールを成し遂げ、人生を愉しんでください。このテキストはその扉を開くカギになります。

実践英語・英会話力養成テキストEnglish Sentence Maker は、3つの特色を持っています。

ひとつ目は、能動的な学習だということ。
 English Sentence Maker は書き込み式のテキストです。各Lesson ごとの解説を読み、そのあとに掲載されている日本文をご自身のノートもしくはkindle のノートブックなどに英語にして書き入れてください。その際に、知らない単語は調べたりせずに、日本語のまま英語の文の位置においてください。そうすることで、知っている単語、知らない単語を区別し、身に着けるべき単語を浮かび上がらせることが出来ます。

ふたつ目は、どの文法事項を使うかの判断基準を身に着けられるということ。
 小・中・高校と長い間英語を学ぶために、多くに人々は英語の現在形、過去形などの文法事項を知っています。しかし、残念ながら、その文法事項をどういう場合に使えばよいかという判断基準を身に着けていません。

 たとえば、ここ何ヶ月かフットボールに夢中になっているということを伝えたい場合に使うべき時制は、現在形でしょうか? それとも現在進行形でしょうか? 迷われると思います。この知ってはいるけれども使い方に迷ってしまう文法事項を使う判断基準を各Lesson ごとの解説でくわしく説明しています。それを理解することで、英語を使う際に十全にあなたの感情や意見、思っていることを伝えることが出来るようになります。

みっつ目は、英語を英語で考えることが出来るようになるということ
 English Sentence Maker は日本語を英語にしていくことで、英語を習得していくテキストです。しかも、どういうときに、どういうことを言いたいときに、どの文法事項を使えばよいかという判断基準が出来ていくために、日本語の文字面を英語に移していくのではなく、日本語を読んでその内容をイメージして、そのイメージを英語にするというスキルを身に着けることが出来ます。頭の中のイメージから英語を作ることが出来るということは、そこに日本語は介在しません。つまり、英語を英語で考えることが出来るようになるのです。

具体的には、

私は彼が来るだろうことを知っていた。

という日本語を英語にする際には、日本語の文字面を英語に移していくと、

I knew that he will come.

と、しがちです。「知っていた」なのでknew、「来るだろう」なのでwill comeというわけです。しかし、よく考えてください。「彼が来るだろう」というのは、「私が知っていた」過去の時点のことです。であれば、「彼が来るだろう」と書いてあっても、過去から見た未来のwould を使って、would come としなければなりません。日本語をその字面のまま英語にしてはいけないのです。しかし、日本語を読んでその内容をイメージして、そのイメージを、判断基準をもって英語にすることが出来れば、問題はなくなります。頭の中に時の流れのイメージがあるために、

I knew that he would come.

という英文が難なく作れるようになります。 英文作成力や速読力を付けたいと思っておられる方ぜひ、手に取ってみてください。必ず、英語・英会話が出来るようになります。

☆「English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト」および「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル」で使っている英文はすべて、Native English Speakerと協同で製作したものです。安心して、Native English Speakerの自然な英語を知り、習得してください。

「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル4 時制・助動詞・名詞・副詞・仮定法  オープン問題」発売中!

English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト第7巻で、現実をあらわさない「仮定法」を扱いましたので、ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリルでも、仮定法を含めたトレーニングを行います。

 ちょっととっつきにくい仮定法ですが、現実と反対のことを表現するときは仮定法という判断基準を持てば、さらっとマスターできます。また、仮定法を使うべきか迷う文も含んでいますので、判断力をトレーニングできます。
 美味しい内容のトレーニングドリルです。
 今回はその内容をちょっとだけお見せします。

 たとえば、
「彼女に知らせるべきだね」
と、
「彼女に知らせるべきだったね」
は、どちらが仮定法でどちらが普通の法(直説法)で書くべきでしょうか?(回答例は末尾に、申し訳ないですが、有料です)。

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