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英語のそこのところ 第14回 行列を苦にしないのは。

著者 徳田孝一郎
イラストレーター 大橋啓子

 前の会社は西新宿にあってラーメンストリートとして有名な小滝橋通り沿いにありました。有名店が軒を連ねていて、ラーメン好きの人にはたまらない通りらしいんですが、わたし全然ラーメンに興味がなくて、スタッフたちが「昨日は武蔵」「今日はもちもちの木」「明日は中本」と言われてもいまいち乗れずにいたものです。福岡出身ということもあって東京のとんこつラーメンはダメなんでしょう? なんて気をまわして言ってくれることもありましたが、そういうわけでもなくてラーメンって食事の感じがしないんです。おやつというか夜食というか、メインの食事って気がしない。部活の前に食べるか、高校の打ち上げの呑み会の後に食べるもののイメージなんです(高校生が呑み会をやるなよっていうツッコミがありそうですが、うちの高校はその辺がおおらかで(笑)、いつかどこかで書くことがあると思います)。
 で、あまりそういうラーメンの有名店にはいかなかったのですが、小滝橋通りはなかなかのグルメ通りで、うどんの有名店もあってそこにはよく行っていました。麺の中では蕎麦が一番好きなんだけれど、そこのうどんは蕎麦好きが食べても美味い。たちまち常連になったのはいいけれど、繁盛店だけに並ぶんです。しかも茹でたてのうどんが売りなので、注文するまで待って、注文してからも待つ。2月の寒空の下でも、よく行列を作ったものでした。

 あるとき、たまたま新人のan English manのスタッフとそのうどん屋に行くことになったことがあります。
 昼を少し過ぎた時間だったので、大丈夫かなと思ったのですが、行ってみるとまだまだ行列がながぁく連なっている。
「ああ、ちょっと時間かかりそうだね。やめとくかい?」
 と私が言うと、the English man が、
「おいしいのかい?」
 と聞いてきます。
「味は間違いないけど、並ぶのいやでしょ」
「いやいや、君はイギリス人の特技を知らないのかい?」
「え、なに? ギャンブルのオッズづけ以外に何かあるの?」
 と返すと、ちょっとムッとして、
「イギリス人は行列を作る才能があるんだよ」
 自慢げに言ってきました。本で読んだことはあったけど、本当にそうなんだという妙な感心です。

 で、15分ほど待つ間、天気の話やブックメーカーの話や行列の話をして過ごしたんですが、彼は日本人は素晴らしいと連発していました。アメリカにも住んだことがあるけど、日本人はイギリス人と同じぐらい整然と列を作ってそれを破ることがない。平等や公平という精神が息づいている。さすが「武士道」の国だ、と うどん屋の列の中で感心しきり。そういわれると悪い気はしないので、私も調子に乗って、

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「そう、男尊女卑なんていうけど、本当の武士は女性に重いものを持たせたりはしないんだ」
 と、要らぬことまで口走ってしまう。褒められるのに弱いんです。
「日本にも、レディファーストがあるんだね。素晴らしい。最近はイギリスでもレディファーストが廃れつつあるから、日本は本当にすごいよ。でも、あれは日本人が行列を作る才能がないという証拠だね」
 と、ちょっと気を許したのか、彼はイギリス人の行列をつくる『才能』の自慢話を始めました。

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