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クロース(Klaus)

2019年製作
監督:セルジオ・パブロス

<あらすじ>
 郵便局長の父を持つ、大金持ちの息子ジェスパーは、「一応」郵便局員になるため、修行を積んでいた。しかし、甘やかされて育ったウィスパーは修行など一切取り組まず、ごろごろしているだけだった。そんな彼を見かねた父親ははるか遠く北極圏付近の小さな町へ1人赴任させ、1年間で6000通の手紙を届けなければ生活の援助を切る、と突き放した。
 仕方なく、一人小さな町へ向かったが、そこは2つの勢力が四六時中対立しており、不気味な静寂と喧騒の絶えない町だった。手紙など書かなくても、気持ちを相手に伝えられると、町の住人に言い放たれたジェスパーは途方に暮れてしまう。
 しらみつぶしに家々を回ったが、ついに手紙を出すような家を見つけ出すことはできず、途方に暮れるジェスパー。最後の望みをかけ、山奥に1件、ひっそりと建つ家を訪問する。そこにいたのは大柄な男性、クロースだった。

☑受け取ったテーマ
 ・欲のない行動
 ・教育と子供
 ・創造力

☑こんな人におすすめ
 ・クリスマスが楽しみな人
 ・新しいサンタクロース誕生秘話にワクワクしたい人
 ・心温まる映画を見たい人
 数あるサンタクロース誕生秘話でも新しいストーリーになっていると思います。最初はいったい何のことやら、という始まり方をしますが、話が進んでいくにつれて、徐々にクリスマスのイメージが形成されていきます。
 ふと、「あ、なるほど、こうやって生まれたのか」と妙に納得してしまいそうになります。

☑作品の特徴
 あまり見慣れない作画でした。第一印象はクレイアニメに近いCGグラフィック。スペインの映画のようで、作画には違和感を感じてしまう人はいるかもしれません。吹き替えの声優さんはドンピシャ(私は詳しくないので、声のイメージがとだけ)。
 アニメのキャラクターと声にギャップがなく、作画に違和感はあっても、すぐ慣れそうです。

☑感想
 サンタクロースその人が主人公ではない、新しい誕生秘話の物語。正直前半数十分は「この映画面白いか?」と不安になりつつ見ていましたが。どこからとはなく、気づくと見入ってしまっていました。
 舞台は北極圏付近の小さな町。大雪の降り積もる様子からフィンランドもイメージできます。主人公であるジェスパーは青年ですから、彼の成長が大々的に描かれてはいないものの、彼の何気ない行動で、町の様子が大きく変わっていく様は心に響くメッセージ性を持っているように感じました。

 いつの時代も、世界を変える力を持つのは子供たちの純粋な行動です。「本当に欲のない行動は人を動かす」という格言が作中何度か登場します。もっとも、子供たちはジェスパーにそそのかされ、おもちゃ目当てにクロースへ手紙を出すようになるわけですが。
 また、サンタクロースはいい子のところにしか来ない、悪い子には石炭を送る。という言い伝えを描いたシーンがありました。ここから世界が一変します。いい子になるために、子供たちは自分たちなりに「いいこと」をし始めます。派閥など他人事である子供たちは誰彼構わず、大人たちが喜ぶことをし始めます。
 最初は動揺していた大人たちも、次第に対立を辞め、手を取り合うようになります。やっぱり子供たちの影響力、純粋な心というのは人を動かすのだなぁと。

 サンタがトナカイに乗る理由、おもちゃを届ける理由、悪い子に石炭を運ぶ言い伝え、空を飛ぶイメージ、その他様々な伝説が新しい観点から解き明かされていきます。なんだか、ありそうな話で、年甲斐もなくワクワクしてしまいました。

 子供たちは手紙を書いておもちゃをもらうのですが、本作品に登場する地域では識字率が高くない様子。それもそのはず、当初はスラム街さながらの荒れ果てた町だったのですから。しかし、目的は何であれ、子供たちが自ら勉強したいと考える姿には胸を撃たれます。
 私も、何かきっかけをつくれる人間に成りたい。郵便屋にでもなろうかと考えるほど。というのはもちろん冗談ですが、世界の対立、子供の教育問題、経済格差を描写しているアニメでもあるように感じました。

 クリスマスは誰にとっても特別な日。宗教に関わらず、すべての人が幸せになれる日であってほしいものです。クリスマスの休戦、戦争さえ止める力を持っているのです。コロナ禍のいま、それでもクリスマスはすべての人に平等に「幸福」というプレゼントをもたらしてくれますように。
 2週間後にはクリスマスがやってきます。もっといろいろ視点からクリスマスを考察していくのも面白そうですね。

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