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英氣(EIQUI)
2021年7月10日 00:50
「もう、夏ですね」夕紀子はそう言って、髪の毛を左手で耳にかけた。ほんの五分前の空には赭光(しゃこう)がともって夕紀子とわたしをしきりに炙っていたのに、気が付けば夕闇はもう迫っていて、曇色(くもりいろ)に翳ったわたしと夕紀子の空間を呑もうとしている。わたしの肌は五月の空気に含まれた夏を確かに感じている。遠くに響く子供たちの遊び声や、無造作にアスファルトに撒かれた打ち水が、夕刻の街路に夏を忍