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~天からのアドバイス~(2000字小説)

何もやる気が起きない
生きていても仕方がない
生きる事に何の意味があるんだ
そう思っていた。

俺は毎日床に寝転んで、ただ何もない『天井』をボーっと見ていた。

「何か食うか……」

独り言を言うと冷蔵庫の中を覗いた。

「コンビニでも行ってくるか」

生きていても仕方がないと思っていても、腹は減る。

近くのコンビニに行くと一通り籠の中に入れレジ前に並ぶと、一人のおばあさんが自分の前に入って来た。

「あっ……すみません、並んでます」

おばあさんは言った。
「この年寄り一人分の会計くらい、あなたには時間あるでしょう」

俺はキッと睨んだ。

「それでも、並んでたんで!みんなも迷惑しますから!」

「みんなってあなたしかいないんだけど」

おばあさんはそう言うと笑って、俺の後ろに並んだ。
そして言った……

「もっと心に余裕があった方がいいかもね」

俺は腹が立ったが順番が来たのでレジに向かった。

すぐに隣のレジも空きおばあさんはそこに行き、こちらを見てニコッとした。

コンビニでクジを引くことが出来た。
箱の中に手を入れるとかなりスカスカになってて選ぼうにも選べない。

ハズレだった……俺は隣を見た。

箱の中は結構たくさんのクジが入っているようだ。
「あっ、1等が当たりましたよ」レジの店員は言った。

当てやがった!

特に欲しかったわけではないが、ものすごく悔しかった。
腹を立てながら店を出た俺は、このまま家に帰りたくなくて店の横の喫煙場所に座りスマホを片手に買ってきたばかりのビールを飲んだ。

店からおばあさんが出て来た。
片手にかなり重そうに1位の商品を持っている。

重いだろ!ざまぁみろ!俺はそう思った。

おばあさんは店を出ると俺の方を見た。
そして、スタスタとこちらに向かってきて

「持って」と、いきなり俺に言った
「はぁ?嫌です!」
「いいから、持って」
「なんなんすか!?嫌です!」
「いいからぁ、ほら」
俺に無理やり袋を渡した。

「これがあなたが逃した1位の商品の重みよ」

俺は袋を投げ捨てたい気分になった

「あげるわ、いらないから」
そう言うと1位の商品を俺に渡したまま、帰っていった。

家に着いてもまだイライラが抜けない。
そして、おばあさんから受け取ったコンビニの袋をドンッと床に置くと、ソファに座りテレビを付けた。
テレビで何をやっているのかも、覚えていない位に意識は先程のコンビニでの出来事だった。
しばらくして、袋の中身が気になった。

「溶けるものじゃないだろうな!」

袋の中身はビール、おつまみ、缶詰、冷食、ビールグラスなどが入っていた。
ビール会社のクジだったのかもしれない。
そして、ビールは俺が買った種類のビール……
何故か悔しかった。
あの時、俺が順番を譲っていたら、この品物は素直に俺の元に来ていたのだろうか?
いや、かなりクジの数が多そうだったから、当たるとは限らない。

次の日、俺はまたコンビニに行った。

決してクジが目当てではない。

ビールを買うと、レジ前に並んだ。
昨日おばあさんが並んだレジになった。
クジを引く……ハズレだった。

「やっぱりな」昨日こっちでやったとしてもハズレだったかもしれない。
表に出るとおばあさんがいた。

「昨日だけよ、チャンスは昨日だったの」
そして、話を続けた

「チャンスを掴むのも、掴まないのもあなた次第よ。でも、チャンスってそうそうやってくるものじゃないわ」
おばあさんは続けた。
「ただ、ボーと寝転んでいてもチャンスはやってこない。『天井』にチャンスはない」

えっ?!と驚いた。俺が毎日やっている事だ!
「あなたは……誰……」

おばあさんはニコッと微笑むと話を続けた。

「何もやる気が起きない事なんて誰にでもあるわ。生きていたくない、生きていても仕方がないって思っちゃう事も時々あったりもする。それでも生きて行く事が人間のお仕事だもん」
人間の仕事って……?

「私はね、あなたを助けにやってきた訳じゃない。でも、チャンスをあげる事は出来る。空いている体がこの体しかなかったけれど、きっと綺麗な若い女性だったらあなたは順番を譲っていたのかもしれないわね」クスクス笑いながらそう言った。

「そんな事は……あなたは天使?」
「ううん。私は神の一人よ、いつも私を見ていたでしょ?」
そう言うと『天』を指さした
俺はこのおばあさんは頭がいかれていると思った。
いや、待てよ……俺の頭がいかれたのか?

「ちょっと、どこかカフェでも行かない?こんな姿じゃだめかなぁ?」
俺はこのおばあさんに興味が沸いていたので、OKを出した。

最初からどこか違和感はあったんだ。
喋り方がどうも年寄りの喋り方ではなかった。

「私がそばにいる限り、あなたにはチャンスがやってくる。チャンスを掴むのもあなた次第。私がいなくなった後に進むべき道を決めるのもあなた次第なの」
「いなくなる事もあるのか?」
「そうよ、だってこの体よ?」おばあさんはフフフと笑った。

「人間って面倒よね、本当にそう思う。面倒な感情に振り回されて、諦めたり、絶望したり、決断したり。死におびえたり……自分がわからない事への恐れから、悩んだり、不安になったり本当に面倒」
俺は黙って話を聞いていた。

「でも、誰もが最初は愛されたり、夢や希望に満ち溢れた状態で生まれて来た。だったら、最後の瞬間もそう思っていられたらステキだと思わない?」

「別にこれから死ぬって瞬間、幸せだと思っていても終わりなんだから考えても仕方がないよ」
「そうかなぁ?だって、行った事がないでしょ?その先に」
「じゃぁ、死を選んで行ってみるってのもありだな」
俺は皮肉っぽく言ってみた。

「それがちょっと違うんだなぁ。幸せだって思えて死んだ時だけ、次の幸せの場所へ行かれる……としたら?負の感情を持ったまま死んだら次の場所も負の場所へ行ってしまうとしたら?」
「それは、嫌だけど……」
「でしょ?でもわからないけれどね。だってあなた行った事がないから」おばあさんはまたフフフと笑った。

「私、見守るよ、この体が動く限り。だから、もう一度頑張ってみない?」
「そうだな、どうなるかわからないけど、一度死んだと思ってちょっとだけやってみようかな」

それから、俺は毎日を彼女(おばあさん)と一緒に過ごした。
チャンスをもらい、時には失敗をして逃す事もあったが、ポジティブに受け止める事が出来た。

そして何より、俺は部屋の『天井』を見る事が少なくなっていた。

ど素人でとても下手かもしれませんが、もし良いと感じていただけましたら、スキやシェアやフォロー頂けると嬉しいです。どうかお願いします<(_ _)>