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~SNS上の恋 第1章~

海斗(かいと)は小さな劇団の劇団員だった
将来はテレビや映画で活躍したいと思っていたが、実際はバイトばかりの日々だった

SNSで劇団公演のお知らせをすると一人の子のコメントが気になった
「頑張ってるね」
知り合いか?記憶にないけど…
「ありがとうございます」
当たり障りのない返事を書いた

公演も終わり、また稽古とバイトの日々が来た
俺はこのままでいいのだろうか?
時々、先が見えない不安で胸が押しつぶされそうになる

海斗はふと自分のSNSを見た
「頑張ってるね」
またあの子だ
俺は何気ないツイートを毎日した
「ねむい」「おきた」「バイトだ」
それに対して、その子は必ずコメントを…しかしいつも
「頑張ってるね」だった

「なんなんだ?こいつ!俺をバカにしてんのか?」
俺はもう返事を書かなくなった

しばらくSNSを休むともちろん、その子からのコメントはなかった
俺は気になってその子のSNSを見に行ってみた
テレビやネットでの話しなどが並んでいて、フォロワーとも楽しくやっていた
過去まで下って行っても「俺」の事は何も書いていない

「なんなんだよ!応援するんだったら、劇団の事でも書けよ」
少し苛立っていた

次の日試しにまたSNSに投稿してみた
「あぁ、最近なんもやる気が出ない」
するとすぐに来た
「頑張れ」
おや?いつもの頑張ってるねじゃない!

俺はまた次の日に投稿してみた
「全部やめて、地元に戻ろうかなぁ…」
「やめないで、頑張れ」
俺はクククと笑った
文字が増えただけで何故か嬉しくなった

「どうすればいいと思う?」
疑問形にしてみた。すると
「どうしたい?」
質問に対して質問でぶつけてきやがった
「そうだな…これで彼女でもいれば少しは変わるのかもな」
「どうして?彼女がいたら何か変わるの?」
「やりがいって言うのが生まれるんじゃないかな」
「ふぅーん、彼女がいたらやりがいが…かぁ」
ん?ガッカリされたか?
その後俺はもう何も書けなかった

数日後、また劇団の公演のお知らせを投稿した
「頑張ってるね」
元に戻った…最初の頃と同じコメント

俺は少し寂しくなった

彼女は俺が何かを書かない限り、来なかった
それが寂しくなってきた

彼女のSNSに書きに行こうかとも思ったが、こっちから折れる気がしてプライドが許さなかった

俺は彼女と話しがしたい為だけに、毎日SNSをあげた
彼女とのやり取りは正直楽しかった

時々、自分が欲しいコメントを引き出す為に色々と考えて書いてみた
俺 「今朝は○○を食べたよ」
彼女「美味しかった?」
俺 「美味しかった」
彼女「よかったね」
しかし、これではSiriなどと変わらない

俺 「今日は何を食べた?」
彼女「○○を食べたよ?」
俺 「美味しかった?」
彼女「美味しかった」
これでも、少しは成長した会話だ
もっともっと、と俺は知恵を絞った

「いま、恋をしていますか?好きな人はいますか?」

どんなコメントが来るか、ドキドキした。

「恋をしてます。好きな人もいます」

俺は失敗したぁ!と思った
何故なら、彼氏がいて彼の事を言っているのかもしれないから

「…俺の事、好きですか?好きなら好きって言っちゃいな!」
「好きです」

クソッ…好きにも種類がある事を忘れてた

俺は劇団の稽古、バイト、そしてSNSでのやり取りで毎日を過ごした

俺はない頭をひねった
「…彼氏はいますか?」
もう、彼女宛てになっていた
「彼氏はいません」

ちょっと待てよ?
そもそも、女だと思っていたが、男だったかもしれないじゃないか!

「え~と、彼女はいますか?」俺はまたドキドキした
「彼女もいません(笑)」
ふぅ、笑いが入ってるという事は、きっと女の子だろう

ふと俺は過去の彼女とのSNSを振り返ってみた

俺はいつから彼女に気を使う書き方に変わってしまったのだろう

はじめは敬語、これは仕方がない
そして、彼女に対して俺は強気になり、まるで俺がリードしているかのような言動になっていった
なのに、今は?
彼女の一言一言に俺は一喜一憂している
それだけではない、こっちが敬語になって彼氏がいないという事に喜びまで感じていた

好きになったのか?彼女の事をこの俺が?

自分の気持ちを知ると、簡単にSNSに書けなくなった
次は何を書こうか、返事がもし自分が思ってたのと違ったら…

彼女宛てになっていたSNSをまた元に戻し、当たり障りのない書き方に変えた
相変わらず彼女は来ては
「頑張ってるね」と書いた

俺の心の中は彼女への想いであふれていた
はっきり言って胸を締め付けられるようで辛かった

そのうちに劇団の活動も忙しくなってきて、少しだが別の舞台の仕事も増え、バイトも休みがちになった

思い切って彼女の事を忘れようとも思った
SNSをコメント禁止にすればいいだけだ
しばらくはそれを実行してみた

そう、俺には何かわからない怒りのような憤りのような気持ちがあった

子供じみてるな…
これを別の劇団員に知られたら、大声で笑われるだろう

数日が過ぎた頃、SNSのコメント欄を一度解禁してみた
しかし、今まですぐに来ていた彼女からコメントが来ない
どうしたんだろう

夜中、SNSのコメントの通知が来た!俺は急いで開いた

「頑張ってるね」
そして、空白のずっと下に続きがあった

「お帰り(笑)」

※Twitterは正確には「情報ネットワーク」ですがこちらではあえてSNSと言っています。ご了承ください。

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