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「The Closer」シーズン1第1話を観て

今回は、2005年に放送された「The Closer」シーズン1・第1話を鑑賞・分析して感じたことや考えたことについて綴りました。
「The Closer」シリーズが好きな人、観たことがある人は、ぜひ一緒に物語の内容や演出を振り返ってみてほしいと思います。


並行する2つの物語

(左)ブレンダ、(右)ガブリエル

今回の主軸となるのは、新たな場所で新しいキャリアをスタートする主人公ブレンダの物語
「私家を売ってきたのよ。国家安全保障省からの誘いも断った、今更そっちにも受け入れてもらえない。なのに失業しろって?」
故郷アトランタの家を売り、FBIからの誘いも断り、すべてを捨てて殺人特捜班のチーフという役職で新たなキャリアを歩み始めるブレンダ。彼女は旧知の仲である副本部長・ポープへの絶大な信頼のもと前向きに新たな職場に馴染もうと試みる。
しかしそんな彼女を待っていたのは、不信感いっぱいの様子でブレンダの存在を煙たがる非協力的な部下たちや、いざ殺人の捜査に集中しようとすればブレンダの振る舞いや事件捜査の行く末に対し自身の地位を保守するため勝手な口出しばかりする上司・ポープだった。
部下たちは新たなチームから以前の強盗殺人課へ戻りたいとして全員分の署名が載った異動願をポープに提出する。新たなスタートを阻むこの事態にブレンダは「仕事ぶりでわからせる」と楽観的に振る舞うが、実際の心境を窺うと彼女が強い忍耐力と自分への自信をもっていたからこそ打破できた危機といえるだろう。「人生をかけて」挑んだ新たなキャリアの道に堂々とした姿で立ち向かって見せるブレンダの姿は、「The Closer」全編を通して描かれるブレンダという強い信念をもった1人の女性を表すほんの一部の演出にすぎない。
またこのブレンダの物語に並行するかたちで、1話完結型のドラマとして殺人事件の物語も進行していく
被害者は無残な姿で発見され、身元を調査しても偽造パスポートの発見や財政状況の不審点が挙がるばかりで捜査は難航する。重要なカギを握っていそうな秘書・エレンは、被害者であるコリアとの恋愛関係を隠し嘘を突き通そうとするが、彼らの関係を裏付ける親密なやり取りが載ったメールが発見され、警察に嘘をつこうとする彼女への疑いが深まっていくところから、事件解決の糸口へと繋がっていく。
今回の事件の犯人・エレンがコリア殺害に至った動機は、愛する相手として信じていた“彼女”の裏切りに憤怒したことだった。カトリック教徒であるエレンにとって、今まで愛していた相手が自分と同じ女性であったという真実は、信仰における同性愛の禁忌に自ら触れてしまったという罪の意識を生んだ。そして今までエレンを欺き続け、カトリック教徒として決して踏み入れてはいけない境地に自らを追いやったコリア、本当の名をアラナという女性に対して怒りが溢れだした結果、残忍な殺人事件が起こってしまったのである。
エレンへの尋問に向かうブレンダに対し、上司であるポープは「なぜエレンから協力を得られると踏んでいるのか、理由が知りたい」と問いただす。そしてブレンダは、目の前を阻むポープに向かってこう言い放つのだった。
「尊敬する上司の本性を知ったときの彼女の気持ちが私にもわかるからよ」
そのシーンに至るまでの過程でわかる通り、ブレンダとポープはかつて不倫関係にあった。妻子をもつ身であると知ってブレンダが関係を続けたのかは不明だが、ブレンダはかつて「この人なら奥さんを捨てて私と一緒になってくれるかもしれない」と願い、そして裏切られたという背景があったのかもしれない。
このように「愛する相手に裏切られた」という点で、ブレンダとエレンの2つの物語が重なる。毎回事件の情報量が多く視聴者を混乱させがちな「The Closer」だが、こうして主軸となる物語と殺人事件の様相を重ね合わせることで、視聴者が没入感をもてるような作品づくりを実現している。


会話から映し出される登場人物の関係性


(左)ガブリエル、(中)ブレンダ、(右)フリン

「あの2人って付き合ってたの?」
「そうらしいよ、あの人奥さんもいるのにね・・・・・・」
このように、直接セリフで人物同士の関係性を表現することは容易い。
しかし今作では、人物同士のセリフから自然と人物関係図を視聴者自身で思い描くことが可能となっている。私たちが日常生活で他人の情報や友達との関係性を知る場面でも、行動や仕草から勝手に関係性を察知するというのはよくあることだ。人間の自然な思考の流れに沿って物語を展開していく今作の構造は、視聴者が知らぬ間に内容へ惹きつけられるという意味で効果的な手法を用いているといえる。
第1話を通してそうした演出が顕著にみられたのが、ガブリエル巡査部長とブレンダとの関係性だった。
物語の序盤でブレンダとガブリエルが車に同乗し会話を交わす場面では、ガブリエルは自分が与えられた役割をすでにこなし必要な情報収集は終わっていることをブレンダに向かって淡々と報告する。その際、ブレンダのことを“チーフ”と呼ぶ姿は一見彼女の存在を上司として認めているように見えて、その場面のガブリエルの表情や仕草は未だブレンダへの信頼感を感じられていない様子をリアルに表現している。
一方、事件の解決後にブレンダとガブリエルが2人で会話を交わすシーンでは、最後ガブリエルがこういったセリフでシーンを締めくくる。
「チーフは最初から見抜いてましたね。愛情のもつれ。」
直接的にそのことを表現する動作やセリフは無かったものの、私はこの1つのセリフを聞いて、このセリフ中にある“チーフ”という言葉は、ガブリエルがブレンダの仕事ぶりに対して感心し、ブレンダのことを正式に上司として認めたうえで放った言葉だと感じた。何より今回の演出においてブレンダの最初のセリフとなった、遺体発見時のセリフをガブリエルがずっと覚えていたという事実が、今後2人がより確実な信頼関係を築いていくことの伏線として感じられる。
ガブリエルは、本作の冒頭では恩のあるテイラーと信頼を置くブレンダとの板挟みになってしまう複雑な立場だが、本話では新たな仲間とブレンダがお互いを理解していく過程の始まりとして描かれている点が、全シーズン視聴済みの私としてはワクワクとした気持ちを抑えられない演出となっている。


迫力のある尋問シーン

迫力ある尋問シーン

「The Closer」の大きな見どころの1つが、尋問のプロ“クローザー”として高い能力を発揮するブレンダの尋問シーンである。本話においても尋問シーンは重要な場面として大きな迫力とともに劇的に描かれた
尋問シーンの前に被疑者・エレンに対して行われた取り調べのシーンにも、頭のよく回るブレンダの有能ぶりがよく表現されていた。
ブレンダはエレンとコリア博士との間で親密なやり取りがあったことを示すメールの証拠を押さえた状態で、エレンに対し「博士と恋愛関係にあったか」をエレンに問う。この時点でブレンダは“事件に巻き込まれた被疑者に理解のある人物”としてエレンに対し友好的な態度を取ってみせる。エレンは質問に対し「ロマンチックな関係では決してなかった」と弁明する。エレンが嘘をついていることは捜査班にとって明確な事実であり、「さっさとメールをぶつけちまえ」というプロベンザのセリフの通り、すぐにメールの証拠を突きつけ嘘を暴く手段もあった。しかしブレンダは証拠を示し嘘を責めるのではなく、このようなセリフでエレンの動揺を誘う。
「博士と恋人だったらこれからする質問は酷かもしれないから」
コリア博士が研究室に別の女性を招いていたかもしれないというブレンダの言葉に、エレンは大きく動揺する。
「The Closer」全編を通して、最初から決定的証拠を示し被疑者を追い詰めるのではなく論点をずらしながら新たな情報を巧みに引きだすというブレンダのやり方は頻繁にみられる。
今回の事件に関して言えば、メールを突きつけ「博士と付き合っていたでしょ」と単刀直入に問いただすより、別の女性との関係を匂わせた際の被疑者の反応を直に見るほうが確かな真実に行き着くことができるとブレンダは考えたのだろう。
そして最後の尋問シーン。理由もなく拘留され憤るエレンに対し、事実を追って確かめながら、一度でもエレンが嘘の供述をすればその場から席を立ち「もうこれじゃ力になれない」と部屋を出ていく素振りを見せる。このやり取りを何度か続けることで、エレンは冷静な様子を取り戻し、次第にコリアとの関係性について真実を語りだす。
ブレンダには、コリアとアラナが同一人物であり、その“嘘”が理由でエレンは犯罪に手を染めてしまったという仮説への確かな確信があった。その確信のもとでエレンの感情を代弁し共感を誘いながら最終的な自供を引きだしていくまでのブレンダのセリフ回し、立ち振る舞いは見事であったとしか言いようがない。これはブレンダという天才的能力を備えた女性への感嘆であるとともに、そうしたプロの仕事をリアリティをもって描くことで視聴者の関心を逃がさない演出家の手腕に対する賛美でもある。
先述したように「The Closer」は事件に関する情報量が膨大で、視聴者は少しでも気を抜けば物語のスピードに置いて行かれてしまう。しかし本話のクライマックスである「コリアとアラナが同一人物だった(コリアという男性は実はアラナという女性だった)」という真実を描く際、ブレンダが2人の人物の写真を捲って見せながらエレンの本音を引きだそうとする演出は、視聴者の理解をしっかり回収しているという点においても実に見事な演出だった。


現実的に描かれた「ジェンダー」というトピック

最近では多様なジェンダーを認め合う社会を目指す世の中の動向が顕著であるように、ゲイやレズビアンといったLGBTQ+へ理解を求める流れが現代には溢れかえっている。
性的マイノリティに関する題材をモチーフにしたドラマや映画も近代では目にする機会が増えてきているが、本作「The Closer」においてもジェンダーというトピックを扱った物語は多くみられる。
しかし、本話におけるジェンダーの描かれ方は、他の作品のそれとは大きく違っていたように思う。
現代における一般論として「あらゆるジェンダーを受け入れ多様性のある世界を実現すべき」という考えがあるのに対し、本作で強調されたのは「特定の宗教における同性愛禁忌の価値観」だった。同性愛に対する嫌悪感を強調した本話の描かれ方は、単純に同性愛者を登場人物に設定したり、事件のなかに同性愛者を登場させたりする手法と比較しても、よりショッキングなかたちでジェンダーというトピックを視聴者に訴えかけている。
プロベンザによるレズへの差別発言もリアリティある演出として効果を発揮しているが、本話においてジェンダーを取り扱った場面1つ1つがこれまでになかった画期的な脚本・演出であったように思う。


主人公・ブレンダの描かれ方

ブレンダは強いだけじゃない

本話の最後は、ブレンダがホテルの自室で寝転がりながら大好きなチョコパイを頬張るシーンで締めくくられる。一連のストーリーを通して強い女性として描かれたブレンダの人間らしさが感じられるシーンだ。
もしブレンダがそのキレる頭で部下を捌き事件解決に向けて猪突猛進に挑む姿だけが映されていたとしたら、私はブレンダに対して「私はこうはなれないな、かっこいいけど」のような距離感を感じていたかもしれない。
しかし本作で描かれるブレンダという女性は、ときにか弱く、子どもっぽさがあり、甘いものが大好きな一面をもつ、1人の可愛らしい女性である。そうした人間らしさが視聴者の感情移入を誘い、回を重ねるごとにブレンダという女性に夢中になっていく仕掛けとして機能しているのである。

物語はまだ始まったばかりだ。これからチームの絆が強く築かれていくことや、ブレンダの華々しい人生がドラマチックに描かれていくことに期待が止まない。
本作は細かなところに目を向けるほど、綿密に構成された物語の構造とドラマという表現方法の大きな可能性を実感できる。
今後も「The Closer」というドラマを通して、物語における脚本・演出のあり方を深く学んでいきたいと思う。

ここまで読んでくださりありがとうございます。第2話をお楽しみに!

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