「有田屋千三郎」第10話(全23話)

シーン10 チープな撮影現場

最低限のスタッフとこじんまりとした撮影機材、煩雑な荷物が散らばっていて、ごちゃごちゃしているとても予算の少ないチープな撮影現場で、若手売れっ子映像ディレクター石橋(30)と女性助監督の涼子(27)がヒソヒソ声で話し合っている。奥にはダンボールで仕切られた控え場に大物歌舞伎俳優、有田千三郎(50)が座っている。

涼子
「ちょっとどうしましょう?監督」

石橋
「どうするって、どうしよう・・・」

涼子
「でもこれで撮るしかないですよね。。。」

石橋
「しかしなあ。低予算のwebCMなんて久々だけど、こんな酷いのかよ。そりゃ確かにキャストは友達とかに頼むしかなくなるよなあ」

涼子 
「はい...」

石橋
「なのになんで、歌舞伎役者の『有田千三郎』がこの酷い現場にいるんだよ!」

涼子
 「私もわかりませんよ。有田屋くんってゆう全然売れてない俳優が友達の友達にいてお願いしたのに。現場に来たらおじさんがいるんですもん。びっくり」

石橋
「お前どうやってオファーしたんだよ」

涼子
「いや、インスタでDM送ったら返事が来て。。。」

石橋
「なんでインスタで!!なんで途中で気がつかないんだよ~~」

涼子
「だって、あの有田千三郎がインスタやってるなんて思わないじゃないですか。犬の写真しかアップしてないから本人かどうかわからなかったんですよ」

石橋
「しかしこんな小さな仕事にあんな大物来られたら困るなほんと。楽屋もないからこの部屋の角にダンボールで仕切り作っただけ。上半身見えてるじゃねーかよ。芸歴50年で初めてだろなダンボールの楽屋」

涼子
「しかもケータリングなんか用意してないですからね。スタッフがカロリーメイトと紙コップに水道水汲んで渡しましたけど」

石橋
「せめてそこは買ってこれるだろ。フォローしろよ!...しかし、さすが有田千三郎だなあ。文句ひとつ言わずにダンボールで仕切られた楽屋でカロリーメイト食べてるよ。人間ができてるな。まさに人間国宝だなあ」

涼子
「ほんと歌舞伎役者さんってすごいですね。2歳から踊りや何やらみっちり仕込まれてるだけあってカロリーメイト食べる仕草に無駄な動きが全くないですよ。流れるような綺麗な動作で食べてますね」

石橋
「だなあ、惚れ惚れするよなあ。あの人が飲むと水道水もミネラルウォーターに見えてくるし。たださ...段ボールの楽屋は段ボールにしか見えない。申し訳ないなあ。あんなすごい人にこんな撮影来てもらって」

涼子
「じゃあ、人違いですっておかえりいただきます?」

石橋
「いや、有田千三郎を呼び出してカロリーメイトと水道水飲ませただけで帰らせたら俺たちこの世界に居場所なくなるぞ。とにかく撮影するしかないか」

*****

控え場から芝居場に移動した有田千三郎。
演出指導を始める石橋。

石橋 
「じゃあ、有田さん。もうお任せしますんで。自由にやっていただいて。それに僕たちが合わせて行きますんで。よろしくお願いします」

有田
「はい、それではよろしくお願いをいたします。」


第11話に続く

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