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REVIEW 県知事選、辺野古基地、抗議運動。ダースレイダーとプチ鹿島が『シン・ちむどんどん』で突きつける沖縄の民主主義の現在


© 「シン・ちむどんどん」製作委員会

 ラッパーのダースレイダー(以下、ダース)と新聞読み時事芸人プチ鹿島の2人が配信で始めたYOU TUBE時事トーク『ヒルカラナンデス』。その映画版『劇場版 センキョナンデス』は2021年の衆院選、2022年の参院選で香川や大阪に向かい、選挙戦の真っただ中に飛び込んでいく。ネットでの配信番組というフットワークの良さから、選挙を伝えるマスコミや立候補者の素の顔が生々しく、かつ面白く記録されていく。そこで2人が立てたテーゼは「選挙は祭りだ」だ。野次馬としてその騒ぎを見るだけでも面白い。しかも重要なことは、我々日本に住み、権利を持っている人は全員がその「祭り」に参加できるということだ!
『劇場版 センキョナンデス』は高い関心を集め、全国のミニシアターを中心に上映されスマッシュヒットを飛ばす。配信メディアDOMMUNEを主宰する宇川直宏も「あの映画は凄い。全力をあげて応援しなくちゃ」と語っていた。ダースと鹿島のタブーなしの取材を見て、これを映画にプロデュースしたのは自らもドキュメンタリー監督として活躍する大島新だ。彼らは『劇場版 センキョナンデス』公開から半年で沖縄を舞台にする第2作『シン・ちむどんどん』を完成させた。
 なぜ沖縄か? 2022年9月、本土復帰50周年の沖縄で県知事選挙が行われるからだ。しかも沖縄の選挙は他の県と比較して、ものすごく熱いものだという。現職の玉城デニーに対して、自民、維新の支援を受けた2人の候補が争う三つ巴の戦いだ。それぞれがいま沖縄で最大の問題とされる米軍基地移転を争点にしている。しかし、鹿島はこの沖縄を揺さぶる問題ではなく、当時テレビで放映していた『ちむどんどん』を見ているか? という突拍子ない質問で候補者に切り込んでいく。新聞の候補者紹介記事で3人が3人とも『ちむどんどん』を見ていると答えたからだ。もし見ていなかったら、その候補は有権者に対して嘘をついていることになる!

『ちむどんどん』を見ているか、候補者を追求するプチ鹿島

 投票日事前に高校の試験があるので街宣ができないというトラブルもあったが、選挙は終わる。勝者は『ちむどんどん』に対してマニアックな解説をしてくれた人物だった。鹿島の読みは当たったのだ。2人は続いて、選挙の争点となった辺野古に向かう。そこで抗議の座り込みをしている人たちに話を聞くためだ。一方的に基地化が進んでいる現状がそこで明かされる。そこには沖縄県民の権利はおろか、日本国としての憲法も通用しないと衝撃の告発がされる。
「この人はラップをやるのよ」と紹介されるダース。そこでダースは得意のフリースタイルで民主主義の価値を歌い上げる。それに対して座り込みをしている人たちから返答の合唱が起こる。本作で最も心揺さぶられえるシーンだ。

ダースレイダーと座り込み住民との間で行われるサイファー

 しかし、それで終わらないのがこのシリーズの凄みだ。前作『劇場版 センキョナンデス』では大阪取材中に安倍晋三元総理が射殺された。この殺人事件(敢えてテロとは書かない)に動揺する各選挙事務所の混乱は生々しく、それに対して毅然とした態度を取った候補は見事当選した(その人物は過去に問題を起こしたが、国会で安倍晋三に食いつく度量のある人だ)。今回は2ちゃんねるを作り今では何でも論破するコメンテーターとしてマスコミに登場するようになったひろゆきのツイートだ。ひろゆきはネット番組の取材で抗議現場に行き、そこに人がいなかったので「座り込み日数を0にすれば」と辺野古の抗議運動を茶化す。そしてこのツイートに20万を超える“いいね”がつけられる。この様子を見たダースと鹿島は再び沖縄に向かう。何しろ彼らは座り込みで抗議をしている人々と話しあい、サイファーまで行ったのだから。
 映画は静かに怒りを表明する反対派男性から「やはり沖縄は差別されている」との言葉を引き出す。実際、沖縄はいわゆる本土からあらゆる面で差別を受けている。『シン・ちむどんどん』で取材した人たちもそれぞれの立場で沖縄差別について語っている。観光地として愛される一方で、辺野古基地抗議運動を鎮圧に来た本土の機動隊員が、彼らに向かって「土人」と罵声を浴びせる。もしかしたら起こってしまうかもしれない台湾有事に沖縄の人々がどれだけ恐怖しているのか、本土のマスコミは報道しない。沖縄はひとりぼっちだ。その圧倒的な感情がラストに現れる。
『シン・ちむどんどん』も『劇場版センキョナンデス』に続いて、見る者に対して重い問いかけを投げつける。沖縄への差別、20万を超える冷笑と無関心、そして民主主義。希望としての民主主義だ。 文:田野辺尚人

『ダースレイダー&プチ鹿島 シン・ちむどんどん』
2023年8月11日より、那覇・桜坂劇場(緊急公開)
2023年8月19日より、BOX東中野、シネマ・チュプキ・タバタにて公開

主演・監督 ダースレイダー、プチ鹿島
プロデュース 大島新
2023年製作/98分/日本/配給:ネツゲン

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