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【海外取材の裏側】過酷なロサンゼルス出張がそろそろ恋しい話

 映画.com styleを読んで下さっているみなさま、こんにちは。映画.com編集部のクチナシです。映画.com編集部員は、仕事柄、映画やドラマの撮影現場取材やインタビュー取材のために、国内外問わず出張することがあります。例えば、岡山日帰り(鬼)から沖縄4泊5日まで、状況と取材内容によってさまざまな場所でさまざまなスケジュールが組まれます。

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  そんななかで今回は、海外出張(私の場合は大体が米ロサンゼルスです)をピックアップし、「映画の取材で海外出張」というパンチの効いたキラキラ素敵ワードの裏側、実情をお話したいと思います。映画自体に興味のある方、または映画業界(プロモーションを含めた映画産業)に興味のある方にもぜひ読んでいただきたく、個人的な体験談を共有します。


「映画の取材で海外出張」の実情

 「その週は海外に出張で……」などと言うと、大体の方から「いいな~」と言っていただきます。が、ロス出張は大体が2泊4日。空港→ホテル→取材現場→ホテル→空港で気が付いたらまた東京にいます。

 テレビや紙媒体と違い、特にWebサイトの記者は記事を書いているかツイートしている時間しかないといっても過言ではないです。現地では必ず想定外のことが起こりますし、常に軽く緊急事態中で、言葉の響きとは裏腹の過酷さがあるのです。

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(C)2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

特別だった「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」出張

 私が最後にロサンゼルスに出張したのは、スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」のワールドプレミアを取材した2019年12月。その後、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響で、海外どころか国内の出張も全面的になくなりました。

 19年は、「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」関連で5月、8月、12月(映画公開月だった12月は監督、キャストが来日してプロモーション→そのまま彼らと同じスケジュールでロスへ向かいワールドプレミア)と同じ作品で3回海外取材が続いた珍しい案件でした。さすが「スター・ウォーズ」、コンテンツの強さが違います。パンデミック前の最後の海外出張であり、特別な経験でもあったこの3回の出張について順に振り返っていきたいと思います。


【5月】
■「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」オープン取材@アナハイム

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 このときは、2019年5月31日(現地時間)に米カリフォルニア・アナハイムのディズニーランド・パークに新たにオープンした「スター・ウォーズ」のテーマランド「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」を中心とした取材を行いました。スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」は直接関係していないのですが、スカイウォーカー家の物語が完結する同作の公開年にテーマランドがオープンするというのは、格別の高揚感がありました。

 一般オープンの2日前に世界中の報道陣にお披露目されたのですが、広大なエリアを本国アメリカの報道陣と、それ以外の国の報道陣に分けて取材スケジュールが組まれていました。というのも、外国の報道陣はどの国から何媒体でも来てもいいというわけではなく、ディズニーがあらゆる面から判断した選ばれし4~5カ国から各数媒体が集まるので、全媒体を集めてもアメリカの報道陣に比べて数が少ないのです。

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 アメリカのディズニーランド・パークの出入口で、来場客に「どちらからいらっしゃいましたか?」と質問する係の方がいます。素通りしてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、この来客数もディズニーが招待国を選ぶ際に重要視しているもののひとつです。日本と答えるとそれがきちんとカウントされて評価に反映されるので、もし聞かれた方は、ぜひ「ジャパン!」とお答えいただけるとありがたいです。

 肝心の取材は、29日の朝7時前に集合するところからスタートしました。非常に眠いです。時差ボケの体に鞭打ってディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パークを取材し、キャラクター撮影、パネルディスカッションなどを経てついに「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」に入場です。

 世界中のあらゆる媒体の写真や映像に移り込んでしまわないよう、取材エリアが時間で細かく区切られていたので、手渡された地図だけを頼りに限られた時間で効率よくエリアを回らなければなりません。私は普段かなり方向音痴なのですが、追い詰められたせいか閉じていた能力が開花し、無事に取材することができました。

 その後、このテーマランドの目玉である実寸大ミレニアム・ファルコンの外観と、アトラクション「ミレニアム・ファルコン:スマグラーズ・ラン」に乗って取材したのですが、このときばかりは時差ボケも疲れも吹っ飛びました。

 カリフォルニアの青い空とミレニアム・ファルコンの組み合わせはインパクトが強すぎるんです。「仕事、仕事、これは仕事……!」と思いながら、気が付いたらミレニアム・ファルコンの前で両手を広げて記念撮影をしていました。

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 夜のオープニングセレモニーのゲストは報道陣にも明かされず、完全なサプライズでした。ディズニーのボブ・アイガーCEO(当時)の司会で、ジョージ・ルーカス監督、マーク・ハミルビリー・ディー・ウィリアムズが順番に登場。その段階ですでに大盛り上がりだったのですが、ミレニアム・ファルコン号が故障トラブルを起こす演出でアイガーCEOが「誰か修理できる人はいませんか?」と呼びかけると、ハリソン・フォードがあのテーマ曲とともに現れました。オープン前なので、その場にはディズニー関係者と報道陣しかいなかったのですが、割れるような歓声が上がり、「これがスターか……!」と肌で感じました。

 このセレモニーが終了してから再度隅々までテーマランドを取材し、パークを後にしたのは閉園時間の23時30分でした。ホテルに戻って速報用の記事を執筆、入稿し、泥のように眠りました……と言いたいのですが、翌朝6時台にホテルを出発して空港へ向かわなければなりません。

 私の場合、帰国前夜は遅刻&時差ボケ防止のために徹夜が鉄則です。「スター・ウォーズ」ハイから現実に引き戻される夜中の3時頃から、ひたすらあいみょんの「君はロックを聴かない」を聞いて覚えることで眠気を乗り切りました。あいみょんさん、いつかありがとうと伝えたいです。


【8月】
■ディズニーファンイベント「D23 EXPO 2019」取材@アナハイム
■「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」監督&キャストインタビュー@ビバリーヒルズ

 「D23」は、その年に製作が進んでいるディズニーの新作情報を大放出する非常に重要なファンイベントです。この年は「ブラック・ウィドウ」「エターナルズ」をはじめとするMCUフェーズ4の映画やドラマ作品、「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」「マレフィセント2」「2分の1の魔法」「ソウルフル・ワールド」「アナと雪の女王2」「ムーラン」「ジャングル・クルーズ」などの最新情報が発表されました。

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 文字通り朝から晩まで1日中、絶え間なく新たな情報とともに監督やキャストら大スターが惜しみなく登場するのですが、基本的に録音は禁止。あとから内容を聞き直すことはできません。

 マスコミではなくディズニーファンのためのイベントなので、真っ暗な会場で明かりがお客さまの邪魔にならないようにそっとPCを開き、一言一句聞き逃すまいと集中してメモ。イベントが終わると、会場内に設置されたプレスルーム(報道陣用の作業室)に移動し、すぐに執筆作業開始です。

 大量の作品の情報が一気に発表されるため、優先順位をつけ、何が既報で何が新情報かを整理します。軽食を頬張りながら書いては入稿、書いては入稿……。そうして、何の余韻もないままあっという間に1日が終わるのです。

 このときは、「D23」での「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」のプレゼンテーションに登壇した監督、脚本、製作を兼ねるJ・J・エイブラムスをはじめ、デイジー・リドリージョン・ボイエガオスカー・アイザックナオミ・アッキーケリー・ラッセルアンソニー・ダニエルズビリー・ディー・ウィリアムズが、別日にインタビューに応じてくれました。

 インタビューは、インターナショナル・ラウンドと呼ばれる様々な国の報道陣10媒体ほどが合同で行う形式と、ジャパン・ラウンドという日本からの報道陣数媒体のみで行う形式が取られました。このときは、エイブラムス監督とリドリーがジャパン・ラウンドを行ってくれました。


 このように1カ国のためだけの時間を設けてもらうというのは、ディズニーのマーケットとして重要視されている国でないと実現し得ないことです。これは普段から日本でディズニー作品を見てくださる方々のおかげでしかないので、映画を愛するすべての方々、映画.comユーザーのみなさまにこの場を借りてお礼申し上げます。

(※個人的な悲しみですが、26日に「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で来日していたレオナルド・ディカプリオとニアミスして同じ地を踏めませんでした。次こそは……!)


【12月】
■「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」監督&キャスト来日取材@東京
■ワールドプレミア取材@ロサンゼルス、ドルビー・シアター

 8月に先行取材を行った「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」の監督&キャストが、12月にプロモーションのため来日し、2度目のインタビューを実施しました。

 あと1週間あまりで世界同時公開されるというタイミングだったので、インタビュイーは全員お祭り気分。

 私もこの祭りにのっかるほかないと、それぞれのキャラクターとJ・J・エイブラムス監督の似顔絵を描いた「スター・ウォーズ」ネイルを施してインタビューに臨みました。

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 これをオスカー・アイザックが非常に喜んでくれ、「写真に撮っていい?」と指を撮影。その後エイブラムス監督の部屋に入った際に、「ネイルの子でしょ! 見て!」とアイザックがエイブラムス監督に送った私の指の画像を意気揚々と見せられ、「いまこの瞬間J・J・エイブラムスとオスカー・アイザックのカメラロールに私の指の画像が収まっている……!」とシュールすぎる状況に興奮したのが1番の思い出です。ネイリストさん、ありがとうございました。

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 来日していた監督とキャストたちが、ロサンゼルスで行われるワールドプレミアに参加するために帰国するスケジュールと同じく、私たち日本の報道陣もロサンゼルスへ向かいました。

 当初、私はこの渡航取材に参加するつもりはなく、日本で「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」の最速レビューを書くつもりでいました。

 もちろん参加したい気持ちはありましたが、渡航しても記事の本数が少ないため、ワールドプレミアの記事はディズニーからの公式プレスリリースで対応しようと思っていたのです。

 しかし、渡航エントリー締め切りギリギリで編集部の(ほぼ)同期である尾崎さんが、「こんなチャンスないですよ。行ってもいいじゃないですか。祭りですよ」と背中を押してくれました。

 そうなんです。「スター・ウォーズ」シリーズのスカイウォーカー家の物語を締め括る作品を、その監督とキャスト、シリーズ生みの親のジョージ・ルーカス、製作陣、関係者の方々、そして世界中の選ばれしファンのみなさんとロサンゼルスのドルビー・シアター(米アカデミー賞授賞式会場でもあります)で、ワールドプレミアで見るなんてことは、普通は一生に1回も経験できない大チャンスなんです。記事の本数やコスパとかいう問題ではないのです(ある)。

 2019年のロサンゼルス出張をともにしたディズニーの宣伝担当さん、宣伝会社の担当さんも、「締め括りましょう!」とお誘いくださり、この頃にはもはやある種の絆を感じてしまっていたため、最後の最後で参加を決めました(完全に「スター・ウォーズ」ハイでした)。

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2019 Getty Images

 結果、行って大正解でした。

 レッドカーペットの取材をしてから会場入りするため、レッドカーペットが終わった瞬間にドルビー・シアターまで素早く移動しなければなりません。

 首から下げていたパスを一般の方に見られないように服のなかに突っ込み、このイベントのために封鎖されている数ブロックを迷子になりながら猛ダッシュし、なんとか無事到着&着席。

 監督、キャストの挨拶が終わると、スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」の始まりを告げるおなじみの音楽が会場に流れ、それだけで拍手喝采です。その勢いのまま、上映中も静まり返ったかと思えば大歓声の繰り返しで、仕事で見た映画であんなにも感情を揺さぶられたことはありません。

 フィナーレに向かって会場は嗚咽とすすり泣く声に包まれ、私ももれなく号泣。エンドロールが流れ始めると、割れんばかりの拍手と歓声があがりました。

 場の雰囲気に完全に打ちのめされて、もう一生この席を立ちたくない、ずっと余韻に浸っていたい……と思いながらも、エンドロールが終わった瞬間席を立ち、観客にインタビューを開始。

 感想を聞くたびに、「そうですよね、本当にそうですよね」と深く頷き笑って涙を拭うという特殊な取材になりました。そして走って泣いて疲れ切ったその日も、翌日の帰国に備え徹夜したのでした。


 いまは新型コロナウイルス感染対策のため、海外の会見やインタビューはオンラインが当たり前になり、それでも記事は掲載されます。でも、取材や執筆が以前と同じ感覚かと言われれば、まったく違うものになっています。

 オンラインでインタビューした方々は、もれなく「今度は直接お会いしてお話ししましょう」と口にしてくれます。すでに決まり文句のようになってしまいましたが、なんだか、この状況に慣れてたまるか、という気概を感じて嬉しいです。

 その場所でしか得られない感情、伝えられない興奮が絶対にある。そう信じて、また過酷な海外出張へ出向く日を待ちわびています。

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