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【子の連れ去り】話を聞いた夫が想像だけで涙目…当事者があり得ない困難に見舞われる理由

  
 今年も残りわずか。年末年始になると、普段なかなか会えない人に会える人も多いだろう。けれどその反面、会えない人との距離を強く感じ、ますます遠ざかる不安に苛まれる人もいると思う。たとえば子どもと離れて暮らす親、もっと言えばーー会わせてもらえない親だ。



・「子の連れ去り」について夫に説明したくなったわけ

 この時期になるといつも、面会交流の調停を行っている最中に40代で病死した姉のことを思い出す。数年前の出来事だ。
 年末年始や大型連休は、家庭裁判所や弁護士事務所などの関係各所も休みとなり、書類のやりとりや審議はストップ。当事者は年末年始の賑わいのなか、そんな当たり前のことに何とも言えないやるせなさを感じる。
 
 ・・・まだ姉が生きていた頃の、そんな年末の空気感を思い出していた先日、たまたま「子の連れ去り」「家庭裁判所が取り決める面会交流」などについて報じるニュースを見た。
 
 この問題の難しさについて、限られた時間内でよく整理された内容ではあったが、当事者が「具体的にどんな困難に見舞われるか」「具体的に子どもがどんな立場に立たされるか」については、本当にその立場(またはそれに近い立場)にならないとわからないものだと思う。一般的なニュースや解説を見聞きして、専門用語がすっと頭に入ってこないこともある。

 ーーリアルな体験をした人の声が、必要だ。
 
 姉が「子どもに会いたい」と必死で訴えていた姿を間近で見て初めて、私も問題の複雑さを知った。
 姉夫婦の間に起こったのは厳密に言えば「連れ去り」ではなく、「必ず会わせる」という約束で別居を承諾した後、子どもとほぼいっさいの連絡が取れなくなったというものだ。このまま会えなくなるとは夢にも思わなかった・・・という点では変わらない。
 
 誰もがその立場に立つ可能性があるにも関わらず、私は無知だった。知らずに済めばそれに越したことはないと人は言うーーけれど、知ることは「避けられる不幸」を避ける行動につながる。
 
 ――そんなわけで私は一緒にニュースを見ていた夫に、ふと尋ねてみた。
 
 「ねえ、配偶者にある日突然子どもを連れ去られた片方の親が、その後どんな目に遭うか、具体的に想像できる?」――と。



・不仲でも話し合いを重ねられる夫婦ならまだいい

 夫は、私の姉の身の上に起こった出来事を大まかに知ってはいるが、当時どちらかと言うと私(妻)のメンタルを支えることに力を入れてくれていたので、そう問われるとすぐには答えられない様子だった。

 2人の娘を溺愛する夫は、当事者になるとは露ほども思っていないだろうから、そういう意味では当時の私や、今ニュースを見てもピンとこない人達と同程度の知識・意識の持ち主であると言えるだろう。

 
 ――そこから私と夫がした会話が、次のようなものだ。

私「ねえ、たとえば私がある日、子ども達を連れて家出するとするよね」
夫「・・・えっ⁉」
私「だから、たとえばね。帰ってきたら妻も娘もいない。どんなに考えても、そこまでの兆候があったとは思えない」
夫「ああ・・・」

私「私には連絡がつかないか、仮に数日後についたとしても、『もう一緒には暮らせません。子どもは私が育てます』みたいな内容で、どこにいるかもわからない
 あとのことは弁護士から連絡が行きます・・・みたいに妻から言われる場合もあれば、そのまま話し合いすらできなくなる場合もあるんだけど」

夫「いや、でもさ・・・離婚したいなら時間かけて話し合いとかするんじゃない?」
私「そういう場合は子どもに『どっちと暮らしたい?』とやんわり聞いたりするから、まだ子ども自身、何があったかなんとなくわかったりするでしょう、年齢にもよるけど。それに、仲が悪くても離婚や別居に向けて話し合いを重ねられる夫婦なら、まだいいほうかもしれないよね」
夫「ああ・・・。突然いなくなられるのはキツイいな・・・」

私「夫が子どもを連れて出て行くケースもあるからね。
 たとえば配偶者に不満があったとして、でも話し合いはしたくない、またはできなくて、いきなり子どもを連れて出ていくっていう事例は世の中で珍しくないんだよ。もちろん話し合いをして、場合によっては弁護士を通した取り決めもあったのに、後から『子どもにはやっぱり会わせない』ってなるケースもある」

夫「でも、子どもも俺に会いたいはずだよね? 俺だって今まで育ててきたのに、寂し過ぎない?」
私「俺、っていうか・・・たとえばだから心配しないでね。
 うん、その子どもの気持ちの問題については後で説明するとして、まず、突然そんな状況におかれたらパニックになるでしょう。それでも仕事をしながら、とりあえず相談先として弁護士を探したりしなきゃいけない。人によっては弁護士とコンタクトをとることだって高いハードルを感じるよね」
夫「俺、今まで生きてきて弁護士と連絡をとったことないな・・・」

私「精神的にも金銭的にも負担だよ。なんとか信頼できる弁護士を見つけたとしても、そこから事実確認や「この先どうしたいか」なんかの相談で何日もかかるし、配偶者を相手に面会交流の調停を申し立てるにしても、弁護士に書類作ってもらったりなんだりして、結局子どもに会えなくなってから1カ月以上経ってるなんてことはザラ

夫「でも、たとえば相手に弁護士から連絡が行った時点で、すみません、会わせます・・・みたいにはならないのかな?」

・裁判所や弁護士の協力を得てもすぐに調停・面会とは限らない


私「なる場合もあるだろうけど、大抵は固い決意で出て行ってるだろうからね・・・。弁護士や家庭裁判所から相手に『調停を行うので裁判所まで来て』みたいな連絡がいったとして、どういう反応が考えられると思う? そこでまたモメそうだよね。
 すんなり調停が始まればまだいいけど、モメれば第1回の話し合いだっていつになるかわからないし、仮に子どもと離れてから運良く2カ月くらいで調停が開かれても、お互いの言い分を言っただけで第1回や2回が終わることもあるんだよ」

夫「すぐ子どもと会えないの? だって第三者が入ってくれたら、突然子どもを連れて出ていったほうが悪い・・・ってことにはならないのか?」

私「どちらが悪くてこうなったかは、感情論になったりするでしょう。言い分が食い違ったりもするし、もしかしたら出て行ったほうは『夫(妻)がこうだから子どもを守りました』って主張するかもしれないよね」
夫「でも、殴ったり、虐待したり、浮気したりとか、全然そういうのがなかった場合はどうなるんだろう?」

私「うん。虐待や暴力や夫婦間の明らかな裏切りがあった場合は話が違ってくるけど、夫婦の不和とか気持ちのすれ違いでこういう事態が起こった場合は、子どもを連れていった側の『こうして当然』という思いと、『なぜこんな仕打ちに遭うのか』という思いがぶつかりあうことにもなるよね」

夫「じゃあ調停をするにしても、話し合ってる間に何カ月も経ってたりするんだ・・・。その間、俺はぜんぜん子どもに会えないの?


・「実力行使はやめて」「子どもが嫌がっている」と言われることも


私「少しなら会える場合もあるけど、ほぼ会えない可能性が高いよね。調停をやっていて、裁判所や弁護士が関わっている以上、たとえば子どもがいそうな場所にこっそり会いに行った場合、『実力行使はやめなさい』って注意されたり、子どもが混乱して逆にパパ(ママ)の印象が悪くなったりすることもある。
 子どもに会いたくて調停や申し立てをしているのに、調停中だから会えないとか本末転倒な気もするけど、調停でも起こさなければ永遠に会えないかも・・・とも思うし、これが本当に難しいところで」

夫「昨日までごく普通に親子で、ある日突然引き離されて1年くらい会えなくて、どうしても顔を見たくて小学校とかに行ったりしたら、裁判所や弁護士に叱られるってこと?」
私「そういう可能性もあるかな。ヘタしたら不審者扱いだよ」

夫「そんな、ひどいだろ・・・。住んでいる場所さえわかれば、会いに行けるだろうと思った
私「そう思うよね。離婚もしてないし、法律上はどちらも親権を持つふつうの親なんだから、会いに行ってなんの問題もないはずなんだけど、ただこういうケースで1カ月でも離れて暮らしたら、子どもの心境がどう変化しているかわからないっていうのもある。一緒に住んでる親からどんな話を聞いているかわからないから、子どもによっては怯えるかもしれないし」

夫「知らないうちに嫌われてたらショックなんだけど」
私「それに実際、そんなふうにして子どもに会いに行った別居親が子どもを逆に連れ去っちゃうとか、稀にだけど危害を加えちゃう事件もあるんだよ・・・ひどい話だけど。だから、周りも慎重にならざるを得ない」

夫「俺はそんなことしないよ・・・」
私「わかってるよ。でも、もし私が調停関係者に『夫に暴力的な傾向がある』と伝えていたらどうする? もしくは、本当にそういう傾向のある人もいるかもしれないよね。
 あと、もとは穏やかな人だったのに、この一連の出来事で心を病んで突発的な行動に出てしまう人だっているかもしれないでしょう」

夫「暴力や犯罪は当然ダメだけど、心を病まないという保証はないな・・・。それにもし子どもを怖がらせてしまったら、すごく後悔しそうだし、弁解する機会だっていつ与えられるかわからないもんな」


・一定の結論が出るまで1年はザラ、3~4年会えないケースも


私「子どもが中高生ならともかく、小学生や、まして幼児なら、うかつに会いに行けないっていうのもあるよね」
夫「俺は何も悪いことはしてないのに、どうしてそんな目に遭うんだろう・・・。子どもを連れていきなり出ていくくらいなら、何が不満なのかちゃんと話してほしかった

私「あなたじゃないけどね・・・うんそうだね。話し合いすらできなくなったら危険ってことだよね。人の心は夫婦でも見えない。
 それに父と子、または母と子の関係に問題があってこうなったならまだしも、夫婦関係のこじれとか大人の事情に子どもが巻き込まれているケースもあるから、後から子どもによくよく話を聞くと『別にパパ(ママ)のこと嫌いじゃなかった・・・』ということもあるんだよ」

夫「嫌われるのも辛いけど、嫌われてないのに引き離されるのも悲し過ぎる。とにかく早く解決するに越したことはないよな。でも調停って、結論が出るまでにどのくらいかかるんだ?」

私「調停は裁判と違って勝敗を決めるわけじゃないし、あくまでお互いの落としどころを決める話し合いの場なんだけど、それだけにこじれて長引くこともあるし、一定の結論が出るまでに1年とか普通だと思うよ。
 それに調停って毎週できるわけじゃないからね。家庭裁判所が抱えている事案ってものすごく多いし、『次回はいつ』って言っても自分と相手、お互いの弁護士、裁判所の都合をすり合わせた結果、1カ月とか1カ月半後になることだって珍しくない」

夫「その間、俺は何をすればいいの? 仕事を頑張る気力も湧かないんだけど・・・」
私「私の姉はそれで調停が長引いた結果、病気が進行して会えないまま死んじゃったよ。裁判所が『母親と子どもを会わせなさい』という審判を出してくれたんだけど、間に合わなかった」
夫「ああ・・・」
私「姉の主張が正しいって認めてもらえたんだけど、時間がかかった。とにかく、調停で結論が出なければ裁判になることもあるし、離婚や親権をめぐる審議に発展していくこともあるから、そうなるともっと時間がかかるよね。だから3~4年まともに子どもと面会できない人だってザラにいる」


・誕生日やXmas、年末年始も会えず贈り物を迷惑がられることも

夫「3~4年ってもう耐えられない。その間、子どもの誕生日とかクリスマスとか年末年始も一緒に過ごせないんだろう」
私「プレゼントおくるだけで迷惑がられることもあるからね。向こうは連れて出ていくんだから縁を切りたいわけで、物なんかおくらないで・・・みたいな。ちなみに私の姉は、プレゼントをおくるといつも旦那さんから『全然喜んでいません』ってメールが来てたよ・・・」
夫「・・・」

私「あと、どこかのタイミングで試験的な面会として裁判所の一室で会えたり、相手側がOKを出せばファミレスとかで面会できることもあるみたいだけど、いきなりまた一緒に暮らせるハードルは高いよね。事情が変わって、相手が子どもを手放したりすれば別だけど」

夫「その間、まともに仕事したり、生活できる気がしないんだけど」
私「でも現実問題としてお金はかかるんだよ。最低限、弁護士費用がかかるし、もし妻(夫)と子どもが別の土地で暮らしていたら、調停のたびにそちらに出向く必要があるかもしれない。交通費はもちろん、距離によっては泊まりになるし、弁護士を連れていくならその諸経費もかかる。かなりの出費だよ」
夫「そうなんだ。お金がないと調停も裁判もできないな」

私「蓄えがあれば別だけど、精神的に参って退職して、弁護士費用も捻出できないから調停や裁判もできなくて、子どもに会う機会が益々失われる・・・っていう負のスパイラルは珍しくないし、人生があり得ないほど破綻してしまう人もいるからね」
 

・いちばん大切な「子どもの気持ち」をどうはかる?

 
私「――それで、ここからが本題なんだけど」
夫「え? もう既に地獄だろう」
私「さっきあなたが言ってた、子どもの気持ちの問題なんだけど・・・」
夫「ああうん。子どもだって俺・・・もう片方の親に会いたいはずだよな」

私「仮に子ども本人は、パパもしくはママのことが普通に好きで、一連の出来事も想定外だったとする。『ちょっとママの実家に行こうね』とか、『またすぐパパ(ママ)に会えるからね』とか言われて、そうなんだくらいの気持ちだったとするよね。
 いきなり環境が変わって、最初は『パパ(ママ)に会いたい』って泣いたりするかもしれない。でもその街や学校で友達ができたり、新しい事を始めたりすると、だんだんそこがその子の居場所になっていくよね」
夫「う~ん・・・そうか」

私「年齢にもよるけどね。子どもも新しい環境に慣れるのに必死で、毎日毎日別居親のことを考えているわけにもいかなくなるじゃない? 新しい環境に慣れる子どもの適応力ってものすごいでしょう」
夫「確かに成長が早くてびっくりすることはあるな」

私「それに、一緒に住んでいる親やその周りの人が優しければ、別に逃げ出したいとも思わないだろうし。知らない大人だらけは嫌だろうけど、少なくとも片方の親は一緒にいるわけで、子どもの同居親に対する愛着って大きいんだよ。それに愛情や愛着だけじゃない、子どもは身近な大人に頼らなければ生きていけないからね。
 そのうち、パパ(ママ)のことを話すとママ(パパ)は悲しそうな顔する・・・みたいに感じるようになると、子どもは本音を言わなくなったりもする」

夫「でも、子ども本人が心の底で何を考えているかは重要だろう?」
私「だから調停の間、タイミングをみて家庭裁判所の調査官が子ども本人に聞き取りをすることもあるんだよね。調査官は子どもから話を聞きだすプロだけど、それでも子どもが本音を全部話すかはわからない。
 同居親に遠慮して『会わなくても、どっちでもいい』と言う子もいるし、別居親にとって最悪のケースとしては『(別居親のことは)会いたくない。嫌い』って言う場合もある」

夫「え・・・! たとえ1年くらい経ってたとしても、離れる直前まで仲良く暮らしてたんだから、いきなり嫌いって言われるのはおかしくない?
私「それが難しいところなんだよね・・・」
夫「・・・」

私「裁判所は、当たり前だけど子どもの人権を尊重するし、それは子どもの意志を尊重するってことで、子ども自身が『嫌だ』と言えばそれを尊重しなきゃいけないよね」
夫「・・・」

私「たとえそれが、同居親から何か言われていることが要因だったとしても、周りはどうしようもない。『嘘だよね。本当は会いたいよね』って問い詰めたら問題でしょう? それにもちろん、子ども本人もそれが自分の意思と思って発言しているわけで」

夫「でも・・・子どもだよ」
私「うん。けど周りの大人、たとえば第三者が『今はそう思っているとしても、あなたの長い人生のことを考えたら、お父さん(お母さん)と縁を切らないほうがいいですよ』って悟してあげようと思っても、同居親にしたら迷惑だろうし、簡単な問題じゃないよね」
夫「・・・」

私「それに子どもが同居時、本当に虐待されていたケースもあるから、そうなると『会いたくない。嫌い』が真実なわけで・・・多いとは言わないけど、この見極めは難しい」

夫「確かにそれはそうだな。子どもを守るのが一番大切なのはわかるよ。でも虐待や暴力がなかった場合、基本的な問題として、まずいきなり子どもを連れて出て行った親は何も悪くないの? 法律的な罪には問われないのかもしれないけど、決して良いことはしてないわけだろう? 
 残された親がふつうに子どもを可愛がっていたんなら、こんな理不尽で不公平なことってないよな」


・問題の本質は「子どもの福祉にとって何がベストか」だけど・・・


私「そうだね。今の日本の法律ではそれを罰することはできないし、仮に同居親を何かしら罰したとして、それが子どもと引き離すことに繋がったら、結局いちばん可哀想なのは子どもだからね・・・。
 けどもちろん、裁判所側が総合的に考えて子どもと別居親が面会交流するのがベストだと判断すれば、会わせなさい、という審判がくだることもあるよ」
夫「そうなったら、会えるのかな」

私「会えることもある。会えたらいいと思う。それでも、相手の親も子ども本人も嫌がったら、無理矢理連れてくることは難しいよね」
夫「・・・」

私「それにね、この問題の本質は『子どもの福祉にとって何がベストか』なの。
 つまり、急に夫(妻)と子を引き離した妻(夫)は決して良いことはしていないんだけど、新しい環境に子どもが適応している場合、そこからまた元の生活に無理矢理戻したり、また転校したり、別居親と会うことが子どもにとってストレスになるのであれば、無理強いはできないよね。
 子どもってすごい勢いで成長するし、その問題の発生時が乳幼児だと、そもそも別居親に対する記憶や愛着が薄かったりもするでしょう。
 別居親の心情や受けた理不尽よりも『子どもの健全な成長』を優先した結果、調停や裁判の流れが別居親にとって辛い方向へ動くこともある」

夫「たしかに子どもの心かき乱すのは良くないかもしれないけど・・・」
私「いろんなケースがあるから、子どもを連れて行った親を100%非難するのも難しい。
 ただ私はどんな場合でも、これだけは絶対にダメだと思っていることがあるんだ」
夫「それは?」


・子どもに片方の親の悪口を聞かせないで


私「子どもに片方の親の悪口を聞かせること
 夫婦のつながりと親子のつながりは全然違うものだと思わない? 自分がその夫婦から生まれたのは事実なんだから、悪口を聞かされるのは傷つくし、第一それは自分の経験じゃないよね。もし親を嫌いになるとしても、自分の経験から自分で決めることじゃない? 
 子どもはいずれ、両親がもう愛し合っていないことは理解して受け入れるだろうけど、自分が親を憎んだり嫌ったりするのは、また別の苦しみだと思うから」

夫「親って、嫌えって言われて嫌えるもんでもないしな」
私「連れて行く側からしたら、自分がいるから大丈夫、子どもと配偶者との縁を切ってもいいくらいの気持ちで行動したかもしれないけど、子どもの人生にとって歪(いびつ)なカタチにはなるよね。離婚や別居が必ずしもダメなんじゃなくて、突然の縁切りは不自然だよ。子どもが片方の親のことを一生気にせず生きていけると私は思えないんだよね」

夫「けどそれを子ども本人が感じるのは成長した後かもしれないよな」
私「気づいた時にはおとなだったりしてね。子ども時代は二度と戻らないから、だから大切なんだと思う」

夫「残された親の話だけど、ひとりになってから自分の悪かった点に気付いて後悔しても、連絡もままならないんじゃやり直しようもないな」
私「あとは、子どもの取り合いをしている時点でお互いへの怒りや憎しみが増すだろうからね。夫婦仲がますます修復不可能になる。
 そういう感情を、同居親が子どもに見せないようにするには大人の精神力が必要だよ。自分の命より大事な子どもを取り合うって・・・壮絶だから」


・プレゼントを喜ぶ子どもが目の前にいるということ


夫「それぞれ事情はあるだろうけど、子どもに会えない側の毎日は、想像しただけで地獄だな。たとえ少しの時間面会できたとしても、ろくに笑ってくれなかったりしたら・・・」
私「だからね、万が一私が子どもを連れて出て行っても、あなたの悪口は聞かせないようにするからね」
夫「えっ」

私「冗談だよ。でも真面目な話、夫婦である以上お互い様なんじゃないかな。誰でもいつ当事者になるかわからない。当事者になった時、子どもと面会ひとつすることの困難さに打ちのめされる。
 そしてそういう人が、今この日本に意外なほどたくさんいるってことを・・・知っておいてもらいたいんだ。私の姉が経験したことは、レアケースじゃないんだよ」

夫「離婚を経験した知り合いで、定期的に子どもと会ってる人がいるけど、そこまでたどり着けない人もいるんだな・・・」

私「夫婦間の不和についてはお互いに言い分があるだろうけど、別居や離婚に子どもを巻き込む点では同罪だと思うーーもし罪だとしたらね。
 毎日ケンカする姿を子どもに見せるのもダメだけど、もし別れたりする場合でも、子どもに対しては配慮が必要で、親も学んでおかなきゃいけないことはあるよね。今、日本でもこども家庭庁ができたり、共同親権について話し合いが進んでいたりするけど、まだこの先どうなるかわからない」

夫「は~・・・」
私「悲しくなったでしょう」
夫「うん。こんなに大変なことだって知らなかった。何かあっても、自分が悪くない自信があれば子どもに堂々と会えるものだと思ってた・・・」

私「辛い気持ちになったらごめんね。でも、知っておいてほしかったんだ」
夫「子どもに愛情があるのにプレゼントも渡せないクリスマスとか、一緒に過ごせない年末年始とか、辛いな」

私「プレゼントって本当は、もらうことよりあげて喜んでもらうことのほうが何倍も幸せなのかもしれないね」
夫「目の前に子どもがいて、喜ばせることができるのって、すごいことなんだな」

 
 ――夫との会話はここまでだ。

 もし自分だったら・・・と想像しただけで夫は胸が締め付けられたようだった。
 けれど私は、ひとりでも多くの大人にこのことを知っておいてほしいと思う。
 夫の反応は、数年前に姉の状況を目の当たりにした私のそれと変わらない。姉も私も「なぜこんな理不尽な目に?」といつも泣いていた。


 会いたい人に会えない年末年始は寒いだろうと思う。
 どうか、あなたも会いたい人に早く会えますように。
 もし今年会えなければ、来年会えますように。
 来年の前半が無理なら、後半に会えますように。
 愛が伝わりますように。

あなたへ



 
 数年前の姉と私の体験はこちらから・・・



 読書は子どもへの素晴らしい贈り物・・・と考えています。
 こういうものも書いているので、よろしければどうぞ。


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