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子どもに真の強さを授けたい【『そして、バトンは渡された』を読んで】

いつものごとく、何をするでもなくiPhoneの画面をスクロールしていると『そして、バトンは渡された』という文字と主演の永野芽郁ちゃんの顔が流れてきました。映画の告知映像でした。

夫は、今の山間の営業所に移る前は電車通勤でした。そして、よく駅ナカの本屋さんで話題の新刊小説を買って帰るのですが、私は密かに夫のチョイスを楽しみにしていました。

2年くらい前だったでしょうか。「この本、結構よかったよ。」と一言添えて『そして、バトンは渡された』を貸してくれました。瀬尾まいこ、か。穏やか系だな。そう思いペラペラとページをめくると、想像通り、学生が主人公のあたたかくもなんでもない日常のお話でした。

当時は、そのゆったりとした展開に自分の気持ちのリズムが合わず、いいところに行く前に本棚にそっと戻してしまっていました。

でも、気になる。控えめな夫の「結構よかった」が気になる。私は、2年間もの間、手にとっては読めず、また手に取っては戻し、を繰り返していました。

同作品の映画化の告知映像を見て、「永野芽郁ちゃんか、そうだね、それなら合う。読んでみよう」となったのです。あんなに読めないでいたのに。ひょんなきっかけです。永野芽郁ちゃん、ありがとう。今度は、するすると一気に読みました。

主人公は、4度も名字が変わった女子高生。でも、へっちゃらな顔をしているし、「わたしってかわいそうな子」とも思っていないんです。周りは気を遣いますよね。複雑な家庭で育って、さぞかし私の想像には及ばない苦労があるんだろうなって。全然なんです。ひょうひょうとしていて、全然困ってないって言うんです。育ってきた環境のせいで自分の感情を抑えたり、周りに気を遣って平然を装ったり、人間関係がドライになったりするのかな、なんて憶測しちゃうけど、なんか…不思議なくらいに平気そうなんです。タフだなあ、そんな印象。でも、本当のところはどうなんだろう、と勘繰らずにはいられません。

読み進めていくと、どうも主人公 優子ちゃんは、どの親にも申し分ないほど愛されていた、と感じているようなのです。だから、不満はない、と。

子どもが「わたしって親から愛されてるなあ」と感じる瞬間って、普通に生活をしていればそう多くはない気がします。むしろ、大事にされてない!もっとかまってくれ!遊んでくれ!話を聞いてくれ!お願いを聞き入れてくれー!と思う機会の方が多いような。

優子ちゃんは、例えば「親が仕事を休んで学校行事に来てくれること」、例えば「自分のためにご飯を作って用意してくれること」例えば「何をしてくれるわけでもないけど、そばに存在を感じて見守ってもらえること」そんなことに親の愛を感じています。

親が何度も変わっている優子ちゃんだから感じる愛情もあるし、誰しもがいつかは気付くような愛情もあるような。

じゃあ、うちの子は。

いとうくんは、どんな時に親の愛を感じているのだろう。そもそも親の愛を感じてくれているのだろうか。この不安8割の疑問は、いつも私に責務の類として重くのしかかってきます。

私は、親としての最大かつ唯一の仕事は、子どもに自分は愛されていると実感させることだと考えています。それさえあれば、その先の人生がどんな荒野だったとしても乗り越えられると信じるからです。

主人公 優子ちゃんの義父 森宮さんも、この親の義務を必死に果たそうとします。ちょっとトンチンカンだけど、でも分かる気がする。親の愛なんて、親のエゴでしかないのだから。子どもがその与え方で満足するかは、子のみぞ知る、といったところでしょうか。だから、いつだって親は「この愛し方でいいのだろうか」と不安になるのです。親は、なんて言ってしまいました。心配性の私だけかもしれません。

暗中模索だろうが、日々は続きます。手探りで愛を手渡す日々も続きます。

読み進めていて印象的だったのは、優子ちゃんの担任の先生からの一言。「あなたみたいに親にたくさんの愛情を注がれている人はなかなかいない」こんな風に、自分を見守ってくれている誰かに気付かされることも多いですよね。

私は、小学6年生の時に気付かされました。同級生に言われたのです。「いとうちゃんってお嬢だよね、お父さんに大事にされて」ちょっとへんてこな言い回しですが…そこで初めて「え!私って周りから見たらお父さんに大事にされてるの?!お父さんこわいよ?!でも、まあ確かに…。」とじわじわと気付かされたのです。気付いたら最後、揺らぎませんでした。お父さんは、私が大事なんだって。人生で一番の宝物でした。胸の奥に最終秘技を隠し持つような強さを手に入れました。

この秘技をどうにかして、いとうくん(息子)にも授けたいものです。

追伸
タイトルと作者名だけを見て、「青春陸上ものか」と決めつけた2年前のいとうちゃんへ。バトン、そういう意味じゃないから。もっと深いから。とりあえず読んでよ、泣くから。

作者紹介(本書より引用)
瀬尾まいこ(せお・まいこ)
1974年、大阪生まれ。大谷女子大学国文学科卒。2001年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年単行本『卵の緒』で作家デビュー。2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を、2009年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞を受賞する。他の作品に『図書館の神様』『優しい音楽』『温室デイズ』『僕の明日を照らして』『おしまいのデート』『僕らのごはんは明日まで待ってる』『あと少し、もう少し』『春、戻る』『君が夏を走らせる』など多数。

紹介図書について
『そして、バトンは渡された』
2018年2月25日 第1刷発行  2019年1月25日 第11刷発行
著者:瀬尾まいこ
出版社:文藝春秋

映画『そして、バトンは渡された』告知サイトはこちら

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