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【メルマガ絵本沼】第16号|『もうじきたべられるぼく』(はせがわゆうじ/2022年)

【メルマガ絵本沼】をお読みいただきありがとうございます(^^)/
今回のお題は『もうじきたべられるぼく』(はせがわゆうじ/2022/中央公論新社)です。
本作はTikTokで300万回以上再生されている人気動画を絵本化したもので、そのラディカルな内容に賛否両論が起こった問題作。
読んでみるとかなり手強い絵本でした(^^;)

いつもよりも長めの文章ですが、最後までお付き合い願えれば幸いです。


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-決定的な4つ目のテーマ-『もうじきたべられるぼく』

『もうじきたべられるぼく』(はせがわゆうじ/2022/中央公論新社)を知ったのは、とある絵本専門店のinstagramの投稿だった。

原作はTikTokで300万回以上再生されている人気動画らしいが私はそれを知らず、どういう意味のタイトルなんだろうか?と思い投稿を読んだところ、なんと、屠殺されると察した畜牛が故郷の母に会いに行く内容とのこと。
うーん、こりゃ手強そうだ。

これは読まねばと思うも、こういう作品は読んでから自分の本棚に差すかどうか決めたいので、まずは図書館にネット予約をしたところ、似たような人が多かったのか借りるまでに3か月以上かかった次第。

で、ようやく本作を手に取り、読了後、しばらく考え込んでしまった。
これはいびつな絵本だ…。

テーマが複数あってそれがうまく混ざり合っておらず、バランスがきわどく、ただ、それが個性にもなっている。
こりゃ手強いと、私はあらためて思った。

■①動物の不平等
私は一匹のメス猫を飼っている。
彼女が家に来てから、家の中にやわらかい空気が流れ、家族は帰宅するとまず彼女の名を呼び、背中を撫で、彼女が体調を崩すとみんなで心配する。
そして気づけばちゃおちゅ〜るのCMを口ずさむ。

一方、私は動物の肉、中でも種類問わず挽肉が好物で、料理当番の週末はハンバーグ、餃子、ミートソース、麻婆豆腐などを好んで作って好んで食べる。
週末はスーパーで来週用の肉をかならず買うし、歳とって頻度は落ちたがハンバーガー屋もたまに行く。
イチオシはモスのテリヤキだ。

でだ。
人間の家族同様に扱われる動物と、人間の食材として食べられる動物。
同じ動物でこの違いはまったく不平等じゃなかろうか?

と、こういう話になるとしばしば出てくるのが「動物の不平等」という考えだ。
まずは、この「動物の不平等」が本作の一つ目のテーマになる。
そして食肉に対し、人間はおおむね、ふたつの選択肢のどちらかを選んでいるように思う。

■②認知的不協和
ひとつめの選択は少数派ではあるが、動物の不平等を「動物搾取」と解釈して完全に否定し、そこからの脱出を志向するビーガン(VEGAN)という生き方だ。
彼らは動物の肉だけでなく乳製品や卵も食べない。
私はぜったい無理やね。

で、その対岸に居る大多数の人々は、普段は動物の不平等とか屠殺とかまったく考えない。
手を合わせて「いただきます」と言えばリセットになる(極論)。
これがふたつめの選択になる。

でも後者の人々、例えば私が牛の屠殺処理場を見学することになって、現場を目の当たりにした当日の晩に、好物のハンバーグを平気で食べられるのだろうか?といったら、たぶん平気ではないと思う。
まあ、それはそれこれはこれと、心の中に線を引いてけっきょく食べるんだろうけど。

と、この行為を社会学的には認知的不協和と言う。
心理的に不一致(ここでは動物の不平等)が発生したら、人にはそれを低減するか解消しようとする揺り戻し(ここでは考えないこと)が起こり、それによって心の平穏を保とうとする。

この「認知的不協和」が、本作の二つ目のテーマになる。

■③自己犠牲
それにしても作者自身は本作で何を一番描きたかったのだろう?
と思い検索したところ、婦人公論.jp(本作の発行元の中央公論新社が運営)の記事の中に作者本人のコメントがあった。
下記引用。

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