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#児童文学

だれもみえない教室でよいのか

だれもみえない教室でよいのか

まず吸い込まれるような表紙に注目したい。「四角い水槽って、なんだか教室みたいだ。」(p.183)をモチーフに、ひとりの少年が金魚のエサが入れられていることに気づかないままランドセルを手にする瞬間が描かれている。

この一見些細な出来事から広がっていく波紋。当事者はじめ周囲の本音が、それぞれの立場から明らかにされていく。【以下、一部ネタバレあり】

例えば担任教師。「これ以上ことが大きくならないよう

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佐藤まどか作・佐藤真紀子絵『月にトンジル』(あかね書房、2021年)

佐藤まどか作・佐藤真紀子絵『月にトンジル』(あかね書房、2021年)

SNSに流れる表紙の画像をぼんやり眺めながら、月夜にトンジルという名の妖精が出てくるファンタジーかなと予想したのだが、これがトンだ勘違い。でもストーリー自体は少年の心の内面を描いて期待を裏切らない展開。

不思議だったのは、これだけ延々と心理描写が続きながら、最後まで惹きつけられたこと。読み進みながら、友人たちと思いっきりぶつかり合って過ごした思春期の心情がよみがえった。

人の心に裏表があると気

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工藤純子著『サイコーの通知表』(講談社、2021年)が問いかけるもの

工藤純子著『サイコーの通知表』(講談社、2021年)が問いかけるもの

学校との関わりは、気がつけば半世紀。教えられる側、教える側、保護者の立場と変遷してきたものの、人生の大半が学校教育とつながっていたことに驚く。長いだけに教育について思うところは多々あるのだが、とりわけ内申点を笠に着る教師と否応なしに服従するしかない生徒の力構造を疑問に思ってきた。

教師だって人間だから万能ではないはずだ。にもかかわらず、生徒は成績をつける先生を前にすれば多少の理不尽があっても辛抱

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